第10話 前期の終わりに

「終わったー」


「春ちゃんの予想通りの問題出たな!すげー助かったよ」


 チャイムと同時に、颯ちゃんの声が響いた。

 同時に克哉くんも試験が終わっていつも以上に元気になっている。


 これで1週間の前期試験日程が全て終わった。

 高校までとは違い、授業中の課題で終わらせている科目が多く、1週間の日程と言ってもそこまで試験の科目数は多くはない。


 それでも課題に加え試験勉強と疲れるんだけど、今回は2回目と言うこともあって、見たことのある問題が並んでいた。

 ちょっと反則だったかな。

 そんな気持ちと葛藤してみるも、やっぱり2人の笑顔を見れば、このくらいならいいかなと思ってしまう。

 私はとことん2人に甘いようだ。


「お疲れ様。颯真くん。克哉くん」


「おぅ。春ちゃんもお疲れー。まじでありがとー」


「お疲れ」


「うん。やっと終わったね」


「あっ雪那からメールきた。30分後にジョイリスファミレスでどうかって」


 試験期間最後の科目は雪那ちゃんのとっていない科目。その為、前の科目の試験が終わった1時間以上前には離席していた。


 どうやら、ファミリーレストランの席を確保してくれていたみたいだ。


 ***

 真夏日の外気温に晒されてながら、レストランに着き自動ドアが開くと、店内の冷気が3人を包み込む。


「おー超涼しい。でユッキーはと…あっいたいた」


 レストランにつき、お店に入ると雪那ちゃんがテーブルで手を振ってくれている。


「おつかれさまー」


「おぉ。ユッキーもお疲れー。んで席取りサンキューね」


「ありがと雪那」


 それにつられて、私達も雪那ちゃんに手を振り返しながら席へと向かった。


「うん。問題ないよ。克くんも颯真くんも春ちゃんもお疲れ様。やっと夏休みの計画立てられるね。お父さんも、皆んなが手伝いにきてくれるの楽しみにしてるんだよ」


 試験の終わった開放感からか、3人は高いテンションのまま席に着く。

 私も4人が疎遠になっていた1回目のテストよりも、心が弾んでいるみたいだ。


「大学入って、初めてのテストだったけど春ちゃんのおかげで助かったよ。ありがとう」


「ううん。先生が重要って言ってたところ纏めただけだから……」


 流石に2回目だからとは言えないよね。


 一通りの注文が終わり、ドリンクと食事が出揃ったタイミングで雪那ちゃんが本題へと話題を切り替えた。


「じゃあ取り敢えず、試験お疲れ様でした!」


「「「お疲れー」」様です」


 雪那ちゃんの乾杯の音頭で、ドリンクバーから注いだ色とりどりのジュースの入ったグラスがテーブルの中央で合わさる。


「ご飯食べながらでいいから、聞いてくれるかな。仕事の簡単な説明だけするね」


 そう言って、雪那ちゃんが人数分の冊子を取り出す。


「おっけー。じゃあ頂きます!」


「うん。明日からの夏季休暇。うちの学校は8月1日からが正式な夏季休暇だから、実は他の学校が休みになる先週くらいから予約は結構入っていて、特に来週からの2週間はもう満室で1年でも1番忙しいの。まぁ野尻湖花火大会は先週終わったから第一波はなんとか凌いだって感じかな。なので皆んなには前にも言った通り、来週から2週間手伝ってほしいの。勿論バイト代も少ないけど宿泊と食事とは別に用意してる。これ、やる事のマニュアル。出来れば目を通して置いて欲しいかな」


「ん。ありがと。凄いなこれ。仕事の内容が分かりやすい」


「うん。雪那ちゃん。すごく分かりやすいよ」


「ありがと。これ毎年アルバイトの人、違うし一々教えてたら大変だから、私が高一の時作ったんだ。3年でだいぶ網羅したから読んでもらえれば問題なくできると思う」


「おー。ホントすげっ。でも颯真は残念だな。これでユッキーに手取り足取り教えてもらえなくなるしな」


「ったく。んな事ねぇよ」


「あははは。それじゃあさユッキーの実家の手伝いの後の事も決めねえ?」


「後のこと?」


 てっきりお手伝いの終わった後は解散だと思っていた。

 どんどん私の知らない思い出が追加されていく。


 楽しいな。


「おう。せっかく有名な避暑地に行くんだからさ、なんかしたいじゃん。それでさキャンプなんてどう?」


「キャンプ?」


「そう。野尻湖周辺って何個かキャンプ場があるんだよ。聞けばユッキーもキャンプ上級者って言うし、俺も家族と毎年数回はキャンプ行ってるからさ、野尻湖は1回行って見たかったんだよ」


 雪那ちゃんの実家の手伝いに、キャンプ。前の記憶にないイベントが次々と舞い込んでくる。

 凄い。本当に歴史が変わってる。

 颯ちゃんも私もキャンプ初心者だけど、行ってみたくてワクワクしている自分がいる。


「私もやってみたい……な」


「おっ春ちゃんは賛成?颯真とユッキーは?」


「俺、キャンプなんて学校の行事くらいしか行った事ないぞ?いいのか?」


「勿論!俺とユッキーにお任せだって」


「もう。私の意見聞く気ないでしょ克哉くん。颯真くん。大丈夫だよ。私も毎年閑散期に家族とキャンプ行ってて慣れてるから。道具も全部うちにあるし」


「じゃあ先生方。よろしくお願いします」


 突然颯くんが、芝居がかった動きで仰々しく頭を下げる。


「おっお願いします」


 そして私も慌てて2人に頭を下げた。

 そして


「はっはっは。颯真くん。春佳くん。任せてくれたまえ」


「もう。だけど雪那ちゃんもよろしくね」


「うん。任せてよ!」


 こうして、私の二度目の。そして新しい夏休みの予定が決まった。


「おっそうだ。ならこれから買い物いかね。色々買ってこうぜ」


「おっいいねー」


「行こう行こう」


 克哉くんの言葉に皆が賛成する。


 そんな中私は

「ごめんね。今日これからどうしても外せない予定があって。よければ皆んなで行ってきて」


 残念がる皆んなに、後ろ髪を引かれながらレストランを後にした。


「七瀬さーん。七瀬春佳さーん」


「はいっ」


「1番診察室どうぞー」


 私の名が呼ばれる。

 大きく息を吐き出し、私は立ち上がる。

 横浜でも有名な脳神経外科。

 私はここで検査を受けた。その結果が今日だ。


 緊張し振るえる手を抑え、診察室のドアをノックしスライドさせる。


 そこにはカルテと私の頭部MRIを確認する院長先生が待っていた。


「七瀬春佳さん?」


「はい」


 私は、前の私のように命を失わないように、定期的に検査を受ける事にした。

 そして今日、その結果を聞きに来ている。

 何か見つかったら……。

 そんな不安と、早くに発見したいと言う思いが、心の中で混ざり合い、胃がキリキリと悲鳴をあげていた。


「ちょっと待ってね。頭痛が酷いのと…あぁ一回それで気を失ったから精密検査したんだねぇ。結果言うとね……大丈夫。今んところ何にも異常なし」


「えっそれじゃあ」


「うーん。そうだね。頭痛と言っても色々あるから心配していた腫瘍とか梗塞はなさそうだね。でも痛みがあるって事は、何かあるかもだから定期的に見ていこうか。とりあえず痛み止め出しておくからね」


「はい……」


 安心と原因の分からない不安。

 もしかしたら命を失わない未来もあるの?

 そんな未来があるのなら……。


 とにかく今は夏休みを楽しむ事だけ考えよう。









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