第12話 大騒ぎ
『困りますよー、泊まりのお客様の迷惑になりますから』
『そんなこと言わず、どうかお願いします。娘が熱を出してしまって・・』
『うちのかーちゃんが、畑で転んじまって・・・』
『オラとこのばーさんは、ベッドから落ちて・・・』
なんか、朝から騒がしいな。
俺は身支度を整えると、1階へ降りていった。
「ほらほら出て行った!お客に朝飯を出さなきゃいけないんだ」
宿の入口で、ベイルさんが大声を上げている。
シンシアさんは、その後ろで腰に手をあててあきれ顔で立っている。
「どうしたんですか?」
シンシアさんに近づいて、肩をちょんちょんとつつき、聞いてみた。
「あ、マモルさん!いま出てきちゃダメですよ」
シンシアさんが振り向いて、小声で言ってきた。
「どうしてですか?」
「ちょっと、こっち来て」
シンシアさんに、食堂の隅へ連れて行かれる。
「で、なにが?」
「
「ええ」
「それを聞きつけて、村じゅうの怪我人やら病人やらが押し寄せてるのよ」
「ま、マジですか?!」
寝ている間に、どうやら大変なことになっているらしい。
「ど、どうすればいいですかね?」
「どうすればって言われてもねえ・・」
シンシアさんが、左手を頬にあてて頭を傾ける。
「こういう時は、村長に聞いてみるしか・・」
「やっぱりそうですよねえ~」
でも、入口があの状態じゃあ・・・。
「だとしても、どうやって村長のところまで?」
「しょうがないねえ・・・こっちに来な」
「は、はい」
シンシアさんのあとについて、厨房の中を通る。
「ここからお行き」
勝手口を指し示す。
「すいません、ありがとうございます」
「わたしが原因でもあるんだから、いいのよ」
俺はシンシアさんに頭を下げると、勝手口から宿を抜け出した。
物かげを選んで、なるべく目立たないように進み、村長の家を目指す。
しばらくして、ようやく村長の家が見えた。
「すいません、おはようございます」
玄関の戸を叩いて、声をかけた。
「はーい」
元気な返事がして、扉が開く。
「あ!マモルおにいさん。おはよう!」
「やあ」
ミミが、満面の笑顔で出迎えてくれた。
「おや、朝からどうしたのじゃ?」
その後ろからハサンさんが出てきて言った。
「じつは・・」
「そんな所じゃなんだから、おは入りな」
ハンナさんが、ニコニコしながら言ってくれた。
そのお言葉に甘えて、中に入り居間のテーブルに座ると、ミーナさんがハーブティーを入れてくれる。
「ありがとうございます」
ひと口飲んで、俺は昨夜から今朝の出来事を説明した。
「なるほどのう。まあ、そうなるじゃろうの」
ハサンさんが、白いあごひげを撫でながらつぶやいた。
「これからわたしは、どうすれば良いですかね?」
「あんたは、どうしたいのじゃ?」
どうって、そりゃあ・・。
「困っているんなら、助けてあげたいです」
「・・・そうかの。じゃが、タダでというわけにはいかんぞ」
えー、でも元手はかかって無いんだけどなあ。
「どうしてですか?わたしは構わないんですけど」
「のちのち、面倒なことになるかも知れんからじゃ」
「面倒?」
ハサンさんによると、一般的には普段の庶民の病気や怪我の治療には、薬草をそのまま使った民間療法が主で、効果は薄いそうだ。
ポーションもあるが高価で、低級でも10000セムもするらしい。
回復魔法は、領都になら治療師がいて、1回30000セム(低レベル)でやってくれるらしい。
中レベルだと50000セムもして、領都にさえ扱える治療師は1人しかいない。
高レベルに至っては、扱える人は王都に1人いるだけで、王族か高位貴族しか施してもらえないそうだ。
「ところでその魔法、1日何回までなら使えるのじゃ?」
ハサンさんが、おもむろに聞いてきた。
「え?」
そういえば、確か1回10MPだったよな・・・ということは10回か?
「すいません、ひとつ聞きたいんですけど、魔力って使い切ったらどうなります?」
「ば、ばかなことを言うでない!使い切る前に気絶してしまうじゃろうが!」
「すいません」
えーと。
「回復魔法だけ使うとして、10回で使い切ります」
「では1日3回、つまり3人までにするのが、良いじゃろう」
「5回くらいでもいいんじゃありませんか?」
「ダメじゃ、他の魔法でも使う可能性があるじゃろうし、余裕を持っておかねばの」
「はあ、そういうもんですかね・・」
そして、対価は1回3000セムということになった。
本当は300セムにしようと思ったが止められた。
なぜなら、本当は30000セムするものを、そんな破格値(100分の1)でやっているのが、領都の治療師に伝わったら、また騒ぎになりかねないからだそうだ。
かと言って、この村で1回に10000セムとかを、ホイホイと払えるものはほとんどいないので、3000セムが妥当な線だろうということだった。
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