第19話 対決
目の前で火花が散った瞬間、次郎は魔法を発動した。”絶対防御”――どんな攻撃からも身を守ることができる。最強の防御魔法だ。
(いきなり攻撃してくるとか、やはり、話が通じない相手なのか?)
それとも、恵麻とうまくいかなかったことに対するむしゃくしゃをぶつけてきたか。いずれにせよ、やばい相手であることは間違いない。
(どうしたもんかな……)
ただ、ハンカチを渡そうと思っただけなのに。
煙が晴れ、次郎は蓮司と対峙した。蓮司の目は、バッキバキで興奮していた。戦う者の目だ。
「ほぅ」と蓮司は目を細める。「少しはできるみたいだな」
「うん。まぁ」
次郎は、煩わしそうに首の後ろを撫でた。話が通じそうにない状況だ。ここでハンカチを返しに来たことを告げても、まともに聞いてくれそうにない雰囲気がある。
そのとき、蓮司の手が動いた。次郎は瞬間的に杖を向け、呪文を唱えた。
「”
再び、爆発に巻き込まれると思った。しかし蓮司は鼻で笑った。魔法を使うつもりはないようだ。ゆえに、次郎の行動は早とちりだった。そして、余裕の表情を浮かべていた蓮司に、風の塊がぶつかって、蓮司は吹き飛んだ。コンテナにぶつかった蓮司を見て、次郎は焦る。
(やべぇ、どうしよう!?)
ごめんなさいと言えば許してもらえるか? そんなことを考えていると、蓮司は不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
「俺としたことが、つい、うかっり、手を抜いちまったみたいだ」
蓮司は立ち上がって、杖を少年に向けた。そして、殺意に満ちた瞳で呪文を唱えた。
「”
並々ならぬ魔力。受けるのはまずとい思い、次郎も呪文を唱える。
「”
蓮司の風を突き破る次郎の風! 塊が蓮司にぶつかって、蓮司は再び吹き飛んだ。
(やべぇ)
次郎の焦りの色が濃くなる。喧嘩をするつもりはなかったのだが、結果的に蓮司を攻撃してしまった。事実、立ち上がった蓮司の額には青筋が浮かび、引きつった笑みを浮かべていた。
「あぁ、わかったぞ。てめぇ、本当はプラチナのくせに、ノーランクのふりをしているやつだな?」
「いや、普通にノーランクだけど」
次郎は戸惑いながら答える。
「あぁ、はいはい。そうやって、俺を欺こうとしたって、無駄ってわけ。俺は、わかっているから」
「本当にノーランクなんだけどなぁ。『
「あ? ほかの雑魚の顔なんて覚えてねぇよ」
次郎は面倒くさそうにため息を吐く。何もかもが面倒くさくなってきた。その態度を見て、蓮司の怒りは増した。
「初めてだぜ、俺をここまで馬鹿にしたやつは。だから、決めた。てめぇは、楽には死なせない」
蓮司は杖を構え、唱える。
「”時よ、止まれ”」
蓮司を中心に、世界が灰色に染まる。時が、止まった。ゆらめく炎も、空に昇る黒い煙も、何もかもが停止し、その世界で動けるのは、蓮司だけ――のはずなのだが、その場で動ける者がもう一人いた。
次郎である。次郎は興味深そうにあたりを見回した。時を止める魔法を見たのはそれが初めてだった。
「なっ」と蓮司は目を見開く。「馬鹿な! 時は、止めたはず」
「時は止まっているよ。俺の時間は止まっていないというだけで」
なぜ、次郎の時は止まらないのか? “絶対防御”を発動しているからだ。この魔法は、いかなる魔法攻撃も防ぐことができる。
蓮司は、次郎に杖を向けて叫んだ。
「”
次郎の周りの空間がゆがみ、電流を走らせながら、空間が捻じ曲がる。ねじれの中心に黒点ができて、点は周囲の空間を飲みながら、大きくなり始める。”終焉の黒”。すべてを飲み込む破壊の魔法だ。
(おぉ、すげぇ!)
その魔法を見るのも初めてである。しかしあまり感動している時間はない。強力な魔法であるがゆえに、早めに対処する必要があるのだ。
次郎が杖を振った。ガラスが割れるような音がして、黒点は消滅した。世界は色を取り戻し、時が、動き出した。
次郎は静かに口を開く。その口元には笑みがあった。正直、蓮司と戦うことに乗り気ではなかった。しかし、蓮司が発動した魔法を見て、好奇心が湧いた。見せてもらいたいと思った。『最強』の実力を。
「”
「なっ! てめぇ、ナニモンだぁ! なぜ、俺の魔法を打ち消すことができる!?」
「なぜ、と言われると難しいな。俺の方が強いとか?」
「馬鹿な! ノーランクのお前が、俺より強いだと!?」
「まぁ、少なくとも、現状だとそうなっちゃうね。なんか、ごめん」
「あぁん? ノーランクは嘘だろ!? てめぇがノーランクなわけがない!」
「いや、ノーランクだけど」
「何でノーランクなんだよ」
「それは、まぁ、俺が日陰者だからかな。俺に興味をもっている人間は誰もいないから、俺の実力を正しく認識できている人間は誰もいないってわけ。それに、俺みたいな、友達もいない寂しい奴に、プラチナとか、ゴールドとか、光の住人が身につけるキラキラランクは似合わないじゃん?」
「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!」
「すまん。べつにふざけているつもりはないんだわ。俺に友達がいないのは事実だし、誰も俺に興味がないのも事実だから。あんただって、普通に生きていたら、俺なんかの存在に興味をもたないと思うよ」
「あぁ?」
「ってか、それよりさ、そろそろ本気を出してくれないか? あんたは、まだ、本気を出していないだろう?」
「あ? あぁ、あたり前だろ」
蓮司は頬に冷や汗を浮かべながら答える。
「だよな」
次郎は、ニヤッと口角を上げる。
「最強がこの程度のわけがないもんな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます