第54話 エネルギー革命

「ラーデルはそのエネルギーを知っていたから魔法で再現出来たのか」


 ゲマリードは俺の放電ブレスの正体が理解出来たようだ。

 この世界に電気エネルギーを行き渡らせるには、一々魔術師達に教えようにも魔術師の絶対数が少ない。

 それじゃぁ実用的じゃないだろう。


「ラーデル様はどの様に雷を作ろうと考えているのです?」


 目を輝かせるメンヒルデ姫様は、異世界の知識を知る事に興味津々の様子。


「発電機を作ってみようと考えました」

「雷を機械で作れるのですか?」


 驚く魔族達。


「そんな事が出来るのか!」

「我等は何を用意すれば良いのだ?」

「先ずは原理を説明しながら試作品を作ろうと思います」


 魔王バルツィラも全面協力を約束してくれる。

 原理と試作品を作るくらいの知識はある。

 それでの実際に作るというのはギャップはあるだろう。


「試作品を作るための人員と場所を欲しいのですが」


「ふむ、では部屋と鍛冶師、細工師、学者、必要な物を用意しよう」


 魔王バルツィラは俺の申し出に快諾してくれた。

 用意された部屋に鍛冶師、細工師、学者を集めてもらい、俺は図を描きながら説明をする。

 学者や細工師たちは説明に従って発電機のモデルを試作する事を考えた。

 

 そういえば江戸時代に平賀源内がエレキテルを作ったっけ。

 ガラスに綿布を擦り付け、静電気を起す。

 しかし、あれじゃぁ生活を満す事は出来そうも無い。

 一番流用できそうな物と言えば、自転車の発電機になるかな。


「お爺様、作っている所をあたしも見たいです」


 メンヒルデ姫様は知識を得る事に貪欲な様子。

 護衛騎士と文官を常時連れていることを条件に許可された。


 発電機のモデルを図に描きながら俺は説明をしていく。


 土台に平行状態で二枚の板金をコの字型に曲げ釘で打ちつける。

 板金を重ね合わせ、銅線を巻き付けてコイルを作る。

 鉄の棒の軸を磁石に貫通させる。

 コイルに磁石を当らないように回転させれば良い。

 これで執り合えず発電機の完成だ。


 発電機するには、高速回転させなければならないから、小さな円盤プーリーを取り付ける。

 少し離れた場所に大きな円盤プーリーを用意し、大小二つの円盤プーリーをベルトで繋ぐ。

 大きな円盤プーリーに取っ手を付けて、回せばコイルは三倍くらい多く回転する。


 そこまで説明した所、学者から質問された。


「磁石とは何でありますか?」


 ……いきなり躓いたか。


「鉄がくっつく石です」


 確か磁鉄鉱石に雷が落ちれば天然磁石になるんだっけか。

 その磁石に鉄を擦り付けてれば鉄も磁石になるか。


 先ずは磁力を帯びた磁鉄鉱石を探してもらわなきゃならん。

 その磁鉄鉱石に俺が雷を当てれば天然磁石は作れそうだ。

 ネオジム磁石のような強力な磁石は、どうすれば良いのか解らない。

 そういうのは学者さん達に任せるしかないけど。


「ふむ、学者や職人達は冒険者を雇うなりして磁鉄鉱石を探して参れ」

「ははっ、承知致しました」


 学者や職人達は一斉に部屋から出て行った。


「雷を作ると言うのは大掛かりな物なのですね」


 メンヒルデ姫様は楽しそうだ。





   ☆




「ラーデル様、メンヒルデ姫様より面会を希望されております」


 この日の夜俺、自室で発電機の事を思案していると来客の到来を告げられた。


「あ、構いません、お通しして下さい」


 何だろうと思っていると、側近の岸と文官を引き連れメンヒルデ姫様はやって来た。


「ごきげんよう、ラーデル様、あたしは異界のお話をもっと聞きたいと思ったのです。宜しいでしょうか?」

「はい、構いませんよ」


 部屋付きのメイド達によってテーブルに燭台しょくだいやお茶とお菓子の用意がされていく。

 一緒に入って来た護衛騎士はドアの左右に控え直立の姿勢を執っている。

 俺達はそれぞれ指定の席に案内され、引かれた椅子に座り会話が始まる。


「先程ラーデル様が説明された折、図を書かれていましたが、文字を書かれていませんでしたよね?」


 文字を書かない説明に違和感を覚えたようだ。

 メンヒルデ姫様はキラキラとした好奇心旺盛な目で俺を見る。


 実はこの世界の言葉を覚えはしても、文字までは勉強していないんだよな。

 この世界、文字を習って使うのは、商人や王侯貴族、それらに仕える者位しかいない。

 単なる平民にまでは文字は普及していないから、文盲の冒険者というのもざらにいた。


「恥ずかしながら、こちらの世界の文字を習えなかったもので……」

「まあ! そうなのですか。先に学校のお話をされてから、あちらの文字や言葉は」

「ええ、覚えています」

「どの様な言葉や文字を使っていたのでしょう?」


 俺はメンヒルデ姫様に漢字・カタカナ・ひらがな・アルファベットを板に書いて説明をする。

 植物紙はまだ無さそうなこの世界、小用に高価な羊皮紙を使う事は躊躇われる。

 そのために用事を伝えたり、覚書用に薄い木板が用意されていた。


「四種類も文字があるのですか」


 唖然とするメンヒルデ姫様と、後で会話碌を記録する文官がいる。

 この世界では一言語に付き、文字は一つしかない。

 一つの国に四種類も有るのが理解出来ないようだ。


 歴史上、段階的に増えていっただろうとしか俺にも判らない。

 漢字が普及する以前にも、古代語が存在していたと聞く程度だし。

 思うに、日本人は四種類の文字だけじゃ足りなくて、感情表現用に絵文字まで編み出したんだろう。

 そう考えると五種類の文字を使うという事になる。


「イルジア、この事をどの様に考えますか?」


 メンヒルデ姫様は後で記録に忙しい文官に感想を聞く。


「感情表現のための文字というお話には意表を突かれました」


 感情表現用絵文字と言えば、情感や音を表すオノマトペと言うのも豊富だと聞いた事があるっけ。


「『情感や音を表すオノマトペ』ですか」


 雨が降っているとか、川が流れているとかの擬音だ。

 初めての概念に理解が追いつかないメンヒルデと文官のイルジア。

 二人とも口を開け目が動いているから、混乱しているのだろう。


「ええ、そうですねぇ、『例えば胸がと痛くなる』とか」

「キュンですか」

「メンヒルデ姫様、その様な音は鳴りませんが、心情として解る気がします」


「心情を表す言葉として、空腹じゃないけど、何かを口に入れたい時『口寂しい』という言葉が有りますね」

「『口寂しい』ですか」

「それも何となく解ります。表現の仕様が無い状態です」


「ラーデル様の元いた世界は、色々と凄い世界だったのですね」


 この日より、講義の合間にやたらとメンヒルデ姫様が来るようになった。

 メンヒルデ姫様の報告で、魔王バルツィラは驚嘆したらしい。

 もっと有用な知識があれば、どんどん教わるようにと命じられたと言う。

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