第44話 怪獣大戦争

 十日ほど経った。

 あれから余所者の冒険者の情報は聞かないから、次の街へ探しに行ったのかも知れない。

 攻撃魔法を室内で見せるには危険すぎる。

 そのためにも屋外の広い場所に出なければならない。

 なるべく人目につかないように裏口から出て、普段は使われない街門の小さな通用口から出て、一行は近くの森に向う事にした。そこで各種の攻撃魔法を実演をする予定だ。


「辺りに人気ひとけは無いな?」

「うん大丈夫」

「ここは窯を作ってる現場と反対側だし」

「急いで魔法を実演して帰りましょう」


「そうだな……。 あそこの立ち木を的にする」


 俺は森の側を見渡して、一本の立ち木を的に決める。


「先ずは『ドリル弾』」


 見る見るうちにコスタノラーデルのよこ前方に回転するドリル弾が形成されて行く。


 ドヒュン!


 大きさは十分と見られた頃、立ち木に向って発射され、ガガガガと立ち木を削り倒してしまった。


「すげぇ……」

「太い木が簡単に切り倒された」

「土魔法でこんな事が出来るのか」


「次は石飛礫いしつぶてマシンガン」


 ダダダダダダダダダダダダ


 狙いを定めない石飛礫いしつぶてが、短い間隔で連射され横方向に掃射される。

 森の下草や枝、幹が抉られ飛び散る。

 多数の敵に囲まれた場合に有効だろう。


「さすがに儂でも、こんな連射は出来ぬ」


 最早声の無いリック達。


「次は魔法剣か」


 抜き放ったファルシオンに急速に帯電させていく。

 飽和状態を越えた剣から、パリン、バチンと放電が始まった。

 的に見立てた立ち木に剣を向けると、バシーーーと紫雷が走る。


 バリバリバリバリ

   ドーーーーンンンン!!

       メキメキバキバキバキバキバキ


 落雷を受けた立ち木は真っ二つに裂け、焦げ臭い臭いと煙が立ち上る。


「強烈じゃな、正に魔法剣じゃ」


 見た事があるリック達でさえ驚きで声が出ない。






「やはりここに居たか、ラーデル」


 講義中の五人の背後から声が掛かった。


 強烈な衝撃が走るラーデル達。


 見付かってしまった!


 振り向くと男女四人の人物がいて、こちらを見ている。


「エルコッベ伯爵様、ルベルタス騎士団長」


「これ程派手な音を立てれば、誰だって気が付くというもの」


 二人とも貴族らしからぬ平民の冒険者の格好をしている。

 後ろにいる二人の女性は誰だか判らない。

 しかしその内の一人がじっとラーデルを凝視し観察しているようだ。


 ゾゾゾと背中に恐怖が走るラーデル。


 「この子だ!」


 突然ゲマリードが指摘した。


「そこの者だけが意表を突かれた時に瞳が変わった。 我と同じ爬虫類系の立割の瞳。 お前が我が子であったか」

「何? ラーデルがゲマリードの探していた子供だと言うのか」

其方等そなたらに引き渡そうにも、我等もザーネブルク王国マクシミリアン国王様に連れて来る様に命を受けておる、話はその後になるだろう」

「それは聞けぬ、今この場で我が子を連れ帰ろうと思う」

「それは出来ぬと申したであろう、ゲマリード!」

「ならば実力行使と言う事になるな」


 ゲマリードとベラルダは黒い靄に包まれ、擬態を捨て正体を顕にし始めた。

 20mもあろう巨大な黒いドラゴンと凶悪な魔族の騎士の姿に。


「タンザーペの街を滅ぼしたドラゴンと魔族はお前達だったのか」


 エルコッベとルベルタスも強い恐怖に襲われる。

 戦うにしても、今はたいした装備では無い上に戦力も無い。


「駄目だ、何とか逃げ出さないと……」


 身の毛立つ恐怖に襲われるラーデルは青褪める。


「お前達は急いで兵士を呼び集めるのじゃ」


 エルムントの言葉で、怯えながらも街へ必死に走り出すリック達。



 ギャオオーーーーンン


 逆らう敵は全て蹴散らさんと動き出すゲマリード。


「これじゃぁ皆ドラゴンにやられてしまう」


 周りの建物が高く無いから余計に大きく見える

 魔族ベラルダは、エルコッベ・ルベルタスと戦闘を始めた。


「いかん、加勢をせねば」


 魔術師エルムントは二人の加勢に走る。



「このままじゃられる、せめてあのドラゴンを抑えないと、俺も人化を解いてドラゴンモードになるしか無いのか」


 巨大なドラゴンを今この場で、抑えられるのはドラゴンだけだ。

 目を瞑り暫く色々な思いを逡巡されていたが、ラーデルは腹を決め目を開く。

 

 ……人化を今解き放つ。


 デュワー!


 人化を解いたラーデルも15mの巨大なドラゴンに変異していく。

 その姿に目を見開き刮目かつもくするエルムント達。


 しかしラーデルがドラゴン化しても、親であるゲマリードの方がまだ大きく戦い馴れている。


 ……やばい、ヤバ過ぎる。 どうすれば良い。


 ドラゴンの恐怖に抗いながらも必死で対抗策を考えた。

 先ずは魔力で体を覆って防御力を上げなくちゃ。

 身体強化の魔法はラーデルの体を包み、金色に輝きだす。


 ワーーー

    ワーーー

       ワーーー


 マンデーヌの街から駆けつけて来た武装した兵士や住民達が矢を射掛け、槍を投擲し始めた。

 しかし、その程度の攻撃ではゲマリードにも、ラーデルにも通用しない。

 ただでさえゲマリードという強敵を前に、足元で街の兵士達がいたら動きにくい。


……どうしたら良い、どうしたら良い、どうしたら良い、

  そうだ、

  魔法で頭を増やし自動追撃砲台として応撃させれば。


 魔力で金色に輝くラーデル、新たに二つの首が生えて来て三つの頭で雷ブレス攻撃を始めた。

 これじゃぁ手の有るキングギドラじゃん。


 ギャオオーーーーンン

     ギャオオーーーーンン


 組み敷こうと迫るゲマリード。

 威嚇でブレスを吐くゲマリードの姿は、まるで翼のあるゴジラだ。

 対するキングギドラのようなラーデルの方が分が悪い。

 巨大怪獣に匹敵する二頭のドラゴン同士が戦う様は凄まじい。

 足元には逃げ惑う人々が悲鳴を上げている。


「ラーデル、薬だ、薬を飲め!」


 エルムントが叫ぶ。

 ルベルタスも空かさず腰袋の中から薬を取り出し、ラーデルの口に投擲した。


 薬を飲んでハイ状態になり、ブーストアップし始めるラーデル。


 キロロロロ ピロロロロ


 つかみ掛かるゲマリードに対し、ジャンピングキックで応戦するラーデル。

 ドコーーンと両足で蹴り飛ばされたゲマリードは、街壁を破壊しながら街中の建物の中に倒れこむ。

 ドドドドドーーーーと大きな地響きと土煙が起こり、多くの建物が破壊され、人々も犠牲になる。


 ギャオオーーーーンン


 すかさず起き上がり、街の家々を破壊しながら炎のブレスを吐くゲマリード。

 このバカ息子が何をすると言わんばかりの形相だ。

 破壊された家々から炎と煙が立ち始める所が出始めている。


 キロロロロ ピロロロロ


 ゲマリードのブレスを翼で上空に飛び上がって回避するラーデル。

 ゲマリードも同じく翼を羽ばたかせ上空戦闘に入ろうとする。


 キロロロロ ピロロロロ


   バリバリバリバリ

        バリバリバリバリ

             バリバリバリバリ

    ガガガンン バガガガガ

       ドカーーンンンン

        

 雷ブレスがゲマリードの頭上から何条も降り注ぐ。

 周りの倒壊した建物の数々か雷のエネルギーで弾け飛ぶ。

 体のあちこちに雷撃が被弾するゲマリードも炎のブレスで応戦だ。

 

 ギャオオーーーーンン

    ゴワーーーーーーー


 すかさずゲマリードの炎ブレスをラーデルは空中で回避する。

 その隙を逃さす空中戦に挑むゲマリード。

 ゲマリードとラーデルのドラゴン同士の親子喧嘩は正に怪獣大激突だ。


 両者の戦いの余波で、マンデーヌの街は半分以上が瓦礫になっている。

 パニックになるマンデーヌの街の住民達は、悲鳴を上げ逃げ惑う。

 既にどれほどの死傷者がいるのか、想像も付かない常態だ。


……拙い、親だけにゲマリードの方がまだまだ強い。

  このままじゃ俺は負ける。

  何とか、何とかこのドラゴンから逃げなくちゃ。

  どうしたら良い、どうしたら、そうだ、天使軍を呼ぶしかもう手が無いぞ。


 ボ ボ ボ ボ ボワ~ン


 空中戦を繰り広げるドラゴンラーデルの周りに、大量の白い光の魔法陣が出現した。

 いくつかの魔法陣をゲマリードのブレスに破壊されたが、残りの魔法陣から天使の軍団が湧き始める。


「おお、この場にも天使の軍勢が」


 エルコッベとルベルタスが目を見開き破顔する。

 かつて召喚された天使の軍勢は、タンザーペの街ごと魔族軍を撃破したのだ。


「くそめが、天使の軍勢はあいつの仕業だったのか」


 怒りの目を向ける魔族ベラルダ。


「おお! あの金色のドラゴンから天使の軍勢が」

「もしかして金色のドラゴンは聖なるホーリードラゴンなのか?」

聖なるホーリードラゴンだ、あの金色のドラゴンは聖なる龍だ」


 街の人々や兵士達、リック達や商工会長、冒険者ギルドの者達も目を見張る。

 邪悪そうな黒いドラゴンに戦いを挑む金色のドラゴンは、正義の味方に見えるのかもしれない。




「くそったれ、羽虫天使がウザくて戦闘の邪魔だ」


 やがてラーデルに押され始めるゲマリード。


「ベラルダ! 一時撤退だ魔王様の元へ報告に行くぞ」


 空中から一頭のドラゴンが姿を消した。

 人化をしてベラルダと合流し、魔王の元へ助力を頼みに行く事にした。


「承りました」


 ベラルダとゲマリードはこの場から逃走し姿を消した。

 気が付けば金色のドラゴンも姿を消している。





「何とか退けたのぅ」

「ラーデルもドラゴンだったのか」

「ルベルタス、私は国王様の下に報告に走る、後はエルムントと合流してくれ」

「承りまして御座います。 してラーデルは?」

「間もなく人に戻って帰ってくるでしょう」


 エルムントの言うには、一人じゃ何処へも行けないだろうという事だった。

 ラーデルが帰ってきたら、今後の事を相談する事にした。



 戦いの余波でマンデーヌの街は半壊状態だが、天使を使役する金色の聖なるドラゴンが街を守ってくれたと勘違いをしている様子。辛うじて新事業のノウハウは残っている様で、街の復興と新事業で建て直していこうと纏まっているようで何よりと言った所か。

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