第45話 魔王の秘密兵器
ゲマリードとベラルダは魔王城に撤退して来た。
ゲマリードを援助してくれる魔王バルツィラの下なら、一先ずの安心も得られるだろう。
ラーデルの雷撃で傷付いた体を癒し、精神を落ち着ける必要がある。
城内の客室で人化の状態で治療を受けるゲマリード。
「どうしたゲマリード、ドラゴンである
魔王バルツィラが見舞いがてら報告を聞きに来た。
「解らぬ、我に歯向かうあの姿は我に似ても似付かぬ姿であった。
まるで何者かに我が子の体を乗っ取られたと言うか。
しかも反撃してくるブレスも我の知らぬ物であった。
光のような速さで避けようも無く、避けても追って来る様な、当れば焼かれ火傷をするし、体が痺れる事もある。
そればかりか天使まで召喚しよる」
ゲマリードは無念さに唇を咬む。
「天使だと! 我が軍を壊滅させたのは
「もはやそうだったとしか考えられぬ」
「ゲマリードのお子が我が魔族の敵ならば、
「魔王バルツィラ殿には恩義が有るでな、決して敵には回らぬ」
ホッと胸をなでおろす魔王バルツィラ。
いくら魔王でもドラゴンを敵に回すのは荷が重過ぎる。
「ゲマリード、
「我が子の不始末は我自身で償おうと思う。
最早あれを我が子とは認めぬ、我が倒す」
「その様に決心を決めたなら、秘密兵器をゲマリードに貸そう」
「秘密兵器だと!?」
「汎用人型決戦兵器のゴーレムだ」
治療の終ったゲマリードが動けそうだと確認した魔王バルツィラは、魔王城の地下深くに二人を案内する。
果てしなく長いと思われる螺旋階段を下りていく一行。
「これから見せる秘密兵器は、
本来は対ドラゴン戦用の秘密兵器として開発を始めたものだった。
総じてゴーレムは炎にも水にも風にも強い、ドラゴンのブレスに動じず、強靭な体と強大な力を持つ、『決して死なない鉄の兵士を作ろう計画』の試作品がいくつか有ると言う。
「魔王バルツィラ殿、ネーミングセンスが悪いと思うが」
「言うてくれるなゲマリード。
やがて一行は魔王城の最下層にある研究棟に辿り着く。
警備の騎士が開く重厚な金属の扉の向こうに、研究製作の場所がある。
巨大人型兵器の制作場だから、想像を上回る広さだった。
進行方向に歩くほど試作品は新型になっていく様だ。
最初に目に入ったのは10mほどの大きさの兜を被った古代戦士風の青銅像だ。
「青銅の巨人!」
「青銅ゴーレムのタロスだ。
残念ながら制動用のイーコールが、高価でコストパフォーマンスが悪くてな」
しょっぱい顔の魔王バルツィラ。
どうやら青銅のゴーレムは失敗作のようだ。
次には鉄の巨人が見えてきた。
鉄のゴーレムは二種類あるようだ。
「手前のは27号機、防御力に問題が残ってな、次の試作品が28号機だ、共に操縦器で操作する。特に28号機はロケットで大空を飛翔出来る様に工夫を凝らしてみた」
「ロケットモーターだけ有っても燃料は何処に積むのじゃ? 膨大に要るだろうに、しかも翼も無しに大空は自由に飛べぬぞ? あの体では揚力は発生出来ぬであろう? 真直ぐ上空に打ち上げるだけと言うなら解らぬでも無いが」
「言うてくれるなゲマリード」
嫌そうに顔をしかめる魔王バルツィラ。
どうやら痛い所を突かれたようだ。
次に紹介されたのが鉄ゴーレム二号機だった。
楕円状の頭部に腕と脚部分は球体が連なっている。
ある程度自立稼動出来るらしい、目まぐるしく移り変わる戦場では思念操作が出来ると言う。
戦闘時にはバトル用のヘッドに変わるらしい。
「何故此処で番号が若返るのだ? それに一々ヘッドを変えるなんて無駄過ぎると思えるが」
「言うてくれるなゲマリード」
先には金色の部品だけが置かれている、まだ完成していないようだ。
そちらが一号機だと言う。
鉄ではなく、オリハルコンのボディを持ち、四つの部品はそれぞれ反重力で飛空すると言う。
巨大過ぎるために外で合体するらしい。
「ゲマリードには二号機を貸し与えよう、ベラルダは引き続きゲマリードを支援せよ」
「承知致しました」
「二号機を呼び出すには専用コマンドがある」
「専用コマンドでありますか?」
「うむ『アーアーアー』と叫ぶが良い」
「何か、恥ずかしいものでありますね」
魔王の支援を受け、治療の終えたゲマリードとベラルダの二人は、再び人に擬態してラーデルの下に向う。
……まったく、あのバカ息子をどうやって取り込めば良いのやら。
色々思案を深めるが、ゲマリードには未だに良い方法が浮ばなかった。
最悪人化を解いたゲマリードと魔王から借りたゴーレムで暴れるラーデルを押さえ込めれば良いだろう。
逃げたり暴れたり出来ないように取り押さえてから説得を試みる。
魔王バルツィラには説得が出来なかった場合、自分が息子を殺して始末すると言ったが。
「では、再び参りましょうゲマリード様」
「うむ、人に擬態しても今度は行商人は止めじゃ」
「そうでありますね、もはや意味は無いし」
ゲマリードとベラルダは再戦に向け、魔王城から出発して行った。
――――――――――――――――――――――――
マンデーヌの街にある宿屋の一室で三人は話しこんでいた。
「ラーデルがドラゴンだったとは知らなかった」
ルベルタスはエールを飲みながら呟いた。
途中から同行して来た行商人の女性二人の正体がドラゴンや魔族だった事も、この街で始めて知った事だった。
しかもドラゴンの探していた子供が、ラーデルだった事でやっと謎の筋道が一本に繋がったのだ。
「ルベルタス騎士団長は、ヴェルストにラーデルを引き戻すために来たのじゃろ?」
「それは違う」
ルベルタス元騎士団長はエルコッベ元伯爵と共に、ラーデルをを探しに来たのはザーネブルク王国マクシミリアン国王の命で探しに来た事を語る。
「マクシミリアン国王様はラーデルの才能に目を付けた様だ、スカウトの前に色々話を聞きたいと申してな」
「じゃあヴェルストや住民達の怒りで引き戻す訳じゃなかったのか」
「住民の方はどうなのかは解らぬ、しかしヴェルスト領は無くなってしまった」
「無くなったじゃと?」
「ああ、城も街も
「エルコッベ伯爵様が?」
ラーデルとエルムントに今更ながら、事の大きさが事実となって迫って来た。
自治領を破壊され失ったエルコッベ伯爵は、国王様に責任を追及され爵位を取り上げられ平民に堕ちた。
しかし領地一つを破壊し得る能力を持つ者、国の戦力に成り得る者を捨て置く事は出来ない。
国王様に組みしないのならば、敵として殲滅対象と見られるだろうが、味方となるなら重宝される。
そのためのスカウトをエルコッベとルベルタスは請け負わされ探していたと言う。
「まさか、あのゲマリードがラーデルの親だったとはな」
事はラーデルだけなら楽だったが、魔族に組したドラゴンも、ラーデルを取り戻そうとしている事が解った。
王命に従うか、親ドラゴンの意を汲むか、事は難しくなる。
そして再び取り戻しにやって来るだろう事も想像がつく。
「エルコッベ伯爵様のお姿が見えないようじゃが?」
「エルコッベ様はマクシミリアン国王様に、ラーデル発見の連絡に走られた」
これから如何すれば良いのかラーデル、エルムント、ルベルタスは頭を抱え込んでしまった。
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