第43話 魔法講座

 今日も座学で一日かける予定だ。

 館の一室で机を揃えたリック達にポンペオエルムントが基本四種の魔法概念を説明する、リック達は後に羊皮紙に書き込めるように木札に筆記している。


 火・水・土・風の属性。

 火の魔法は火球、火炎弾 (ファイアーボール)

 水の魔法は水球、水球弾 (ウォーターボール)

 土の魔法は石飛礫いしつぶて、岩砲弾

 風の魔法は微風、強風で敵を押し返したり防壁になると言う。

 以上が初級と中級レベルらしい。

 威力のある中級レベルの魔法が使えれば、実戦に役立つとか。

 それでも体内の魔力という素質が大きく左右するから、誰でもいきなり使える物じゃ無さそうだ。


……技名を聞いただけで、どんな物か想像出来ちゃうな。


「儂ですらコスタノラーデルの魔法は、やっと最近出来るようになって来たのじゃ」


 ポンペオエルムントは飲み干したお茶の器に、無詠唱で水を入れて見せた。

 器の上に手をかざし、魔力に水の属性を与え水が精製され、器に落ちる。


 ポシャン!


「わあ……」

「僕達にも出来るって事ですよね?」


「素養の問題は有るが、出来る可能性は高いじゃろう。 それにしてもコスタノラーデルの魔法は独自性オリジナリティが強いのぅ」


 ポンペオエルムントが言うには『ドリル弾』『石飛礫いしつぶてマシンガン』は始めて見たと言う。


「ドリル弾?」

石飛礫いしつぶてマシンガン?」

「魔法剣の魔法はどれにも該当してないと思います」


 リック達は目を輝かせて俺の魔法に注目をする。


「ドリル弾は土魔法で思い切り固い素材をイメージするんだ、超硬金属とか」

「超硬金属?」


 全員興味津々で俺の話に耳を傾ける。

 金属加工で穴を空けるドリルは、金属より硬くなければ穴は開けれられない。これは道理だろう。

 ある程度の穴があれば、螺子ねじは山を切りながら捻じ込める。

 当然、鋼鉄やステンレス鋼にだってドリルは穴を空ける。


「次は素材に螺旋状の溝を付けたり羽を付ける。こんな風に……」


 俺は掌の間に螺旋の付いた筍のようなドリル弾を創り、テーブルの上にゴトンと置く。

 イメージは木ネジの大きい物だ。

 銃弾は弾道を安定させるために回転運動ライフリングを与える。

 しかしドリル弾は捻じ込むための砲弾でもあるから、弾道を安定させる回転運動は最初から両立されている。


「これがロックタートルの甲羅を穿ったのか」

「ロックタートルの甲羅をですか」

「確かロックタートルの甲羅って岩そのものですよね?」

「ロックタートルの甲羅って中々壊せないって聞いてますよ?」


「ドリル弾は高速回転して、削りながら魔獣の体内に入り込んで行くんだ」


「すげえ……」

「あの時はこの砲弾の後ろに、爆発魔法をくっ付けたのか」

「爆発魔法も同時にですか!」

「うむ、儂は一度この魔法でロックタートルを倒したのを見ておる。岩の甲羅を削り、穴を空け、中に潜り込んで体内で爆発を起し、一撃で倒したのじゃ」

「すげぇ」

「恐い」

「それ、本当に魔法なんですか?」


 俺は次の説明に移る。


石飛礫いしつぶてマシンガンは一分間に600の石飛礫(いしつぶて)をばら撒くんだ」


「一分間に600の石飛礫いしつぶてじゃと?」

「全てイメージの産物です」


「氷魔法って水魔法の上位なんですか?」

「その通りじゃ」

「俺は炎魔法も氷魔法も、温度の変動という意味では同一の魔法じゃないかと感じてるんです」

「炎も氷も同じじゃと? 既に儂の常識を超えておる」


 リックが話題を魔法剣に変える。


「魔法剣って、どうやって剣を魔法化したんですか?」

「魔法剣? 儂はまだ見た事が無いのぅ」


「本物の魔法剣じゃないかも知れないけど、剣に電流を流すんだ」


「電流とは何じゃ?」

「剣からいかずちが出たんですよ」

「ゴブリンはいかずちに焼かれたり、瞬時に命を奪われたんです」

「僕は横薙ぎで目の前のゴブリンを一掃したの見ました」

「最早儂の理解が追い付かん」


 中世欧州風の文明だから電気の事を知らないようだ。


 ……フランクリンが凧を上げて落雷させて電気だと解ったのは近代なのか。


 現代文明の知識のあるラーデルは、イメージングで再現する事が出来る。

 例えば拳銃でも創ろうと思えば創れるだろう。

 但しラーデルが構造まで知っていればの条件が付くが。


「俺はこれらの魔法の実演を見たいです」

「そうじゃの、儂も魔法剣とやらをこの目で見たいぞ」


「捜索者が来ているらしいから、俺はこの館の外に行きたく無いんだ」

「むう……。 それはその通りじゃ」


「じゃあ七日後だったらどうでしょう?」


 リックは日にちを置く事を提案した。


 捜索者が情報を集めるにしても、七日も掛かるだろうかと考えた。

 俺たちが逃走すると考えれば、早く次を探した方が良いと考えるかな。

 七日も宿に逗留するとなれば、それなりにお金も掛かる。

 それなりにでもこの街の冒険者ギルドで稼いでいなければ資金的にきついだろう。


「じゃあ、使いの者に冒険者ギルドの様子を見てきてもらおうか」

「それじゃな、見知らぬ冒険者が頻繁にいらい依頼を受けているかどうか」

「わかった、捜索者がいなければ七日後に教えてくれるんですね?」


「んー。 それでも何となく嫌な感がするんだ、虫の知らせと言うか」


「そんなあ」

「虫は何も教えてはくれぬぞ?」


 結局は皆の熱気と意欲に押し切られてしまった。

 さすがに捜索者だって七日も粘らないだろうという事になった。

 商工会長の館の使いの者が、冒険者ギルドにこっそり様子を見に行ってもらう事になる。


 下働きの男の働きで、他所から来た見知らぬ冒険者の情報は得られた。

 冒険者ギルドの登録名はエルコッベとルベルタスだと言う。


「伯爵と騎士団長自らが探しに来たのか」

「儂らの顔を知っているから適任なのだろう」

「伯爵様と騎士団長様だって?」

「貴族様じゃないか、それも上級の」

「恐い……」


 事が重大すぎる事がリック達に理解出来たようだ。

 もう三日延長して、捜索者の監視期間を十日見ながら潜伏する事にした。

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