第36話 タンザーペの街壊滅

 ゲマリードとベラルダの身の危険を案じて、護衛をしてきただけの間柄だ。

 しかし、こんな所で為す術も無く、彼女達も非道な目に遭わされようとしている。

 エルコッベとルベルタスは余りの無念さに歯軋りをする。


「こうなったら、何としても彼女達を助けねば」

「この街の奴等は許せませんな」


 二人は手枷を外そうと奮闘した。

 だが、頑丈な鍵の掛かった手枷は外せそうもない。



 焦れた思いで手枷を外そうと四苦八苦している頃、建物の外で多くの悲鳴が上がり始める。

 タンザーペの街は騒がしくなってきた。


「何だ?」


 更に多くの悲鳴と怒声が起こり始め、牢の窓の外が赤くなった。


「キナ臭いぞ、火事が起こったのか?」



 突如、牢のある部屋に走りこんで来る者がいた。

 ベラルダだ。


「ベラルダじゃないか」

其方そなた無事であったか?」

「今は話をしている余裕は無い、ほら、これで自力で逃げて」


 ベラルダは牢越に鍵束と、エルコッベ達の剣を投げ入れ走り去って行く。


「何が起こっているんだ?」

「とにかく手枷の鍵を開け我等も脱出せねば」

「おう、事は一刻を争うぞ」


 手枷の鍵を開け、牢の鍵を開け詰所の外に二人は走り出した。


「何だ、あれは」


 詰所の外、街の中は悲鳴が上がり、パニック状態になっている。

 家々は炎に包まれ、巨大なドラゴンが街を破壊しブレスを乱射して街を焼いていた。

 警備隊や猟師達が弓矢を放ち、槍を投擲して応戦しているが効果は無さそうだった。

 そんな住民達に炎のブレスが襲い、炎に焼かれ死ぬ住民達。


 そして炎と煙の中、街の住人に剣で襲い掛かる魔族の姿がある。


「ギャハハハーーー、お前らは皆殺しだーーーー」


 ギャーーー

   誰かーーー、誰か助けてーーー魔族がーーーー

      ヒイーーー


 飛び散る血しぶきの中、狂乱しながら剣を振り回す凶悪な魔族。

 獣のような俊敏な動作で、パニックになった住人達を追廻し、追い詰め、惨殺を繰り返す。

 女子供、老人や男達みな誰彼問わず、魔族の凶刃の餌食にされ斃されていく。


「怒号や悲鳴はこれか」

「この騒ぎに紛れ、我等も逃走せねば」

「ベラルダ達を探さなくて良いのか?」

「そんな余裕は無い、此処にいたらこちらも危険だぞ」


 逃げ惑う住人達を斬り倒しながら、エルコッベとルベルタスは逃走した。

 街門を潜り、街の外へ逃走し、森の中に身を隠す。

 改めて街の方向へ振り向き、様子を見る。


 ゴワ ゴワ ズゴゴゴーーーーー

   ドゴーーーンンン

      バキバキバキ、ズシーーーー


 巨大なドラゴンは炎のブレスを吐き回りながら街の家々を破壊し、建物も逃げ惑う住民も踏み潰し大暴れをしていた。

 街の半分は瓦礫となり、真っ赤な炎に包まれて大量の煙が立ち上っている。

 街からは住民達の悲鳴が、破壊の音とともに鳴り響いていた。

 街門からは逃げ惑う住民達の姿が見える。


「なぜここにドラゴンが、あの魔族が連れて来たのか?」

「あんな街に同情の余地も無いが、凄い事になっているな」

「ベラルダ達は無事だろうか……」


 グギャオオオオーーーーンンン


 やがてタンザーペの街を破壊し尽くし、焼き尽くしたドラゴンは『ざまを見ろ』とでも言うように咆哮を上げ、大きな翼を広げ飛び去っていった。


「まさか私達に味方をしたという訳じゃないよな?」

「それは考えられませぬな。 しかし偶然と言うにはタイミングが良すぎると言うか」

「それにしても彼女達は無事だろうか」

「我等に鍵と剣を投げて寄こした後、走り去っていった行ったのだ、きっと逃げたのであろうと思いますぞ?」


 タンザーペの街で馬と所持金を失ったが、身一つ在ればまた冒険者稼業で稼ぐ事は可能だ。

 何時までもただ森の中に身を隠していても仕方ない。

 ゲマリードとベラルダの事は気掛かりではあるが、無事に逃げてくれた事を願いつつ先を進む事にした。

 街道は丘を下り開けた場所に出る。


「おや? あれは」


 林立する立ち木の下にある岩に座っている女性の姿があった。

 商売用品の背負子も背負っているから、逃走する際に持ち出せた様子が見て取れる。


「あれはゲマリードとベラルダだ」

「無事に此処まで逃げられた様だな」




「お二方、無事であったか」

「ゲマリード、ベラルダ、無事でよかった」


「ええ、急にドラゴンの急襲で逃げられました」


 ゲマリードとベラルダの二人と再び合流出来た。


「あの街では散々な目に遭ったが、我等は次の街を目指そうと思う」

其方そなた等はどうする?」


「私共も商売をしなければならないから、次の街までご一緒しますよ」


「そうか、あの街では不甲斐無かったが、次の街までしっかりと護らせてもらうぞ」


「ありがとう存じます」


 ……口先では偉そうな事を言うが、役に立たぬ男共。


 心の中で嘲笑するゲマリード。

 行商人の振りをしながら、彼らを利用出来るなら利用しようと考えていた。



 一行は次の街『マンデーヌ』に向う。

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