第37話 マンデーヌの街

 タンザーペの街にドラゴンが現れ、壊滅したらしいという噂が広範囲に拡がっている。

 その噂はここ、マンデーヌの街にも聞こえてきた。


「ドラゴンが出たらしいのぅ、コスタノ」

「多分俺の追手だ」

「そしてもう一つの危険性、ヴェルスト領からの追っ手の事も考えると暫くの間、儂等の気配を消した方が良さそうに思えて来たのじゃ」

「どうすれば良い? ポンペオ」

「『魔術師と孫』の噂も広まっていると思う、恐らくじゃがヴェルスト領からの追っ手が聞けば、儂等じゃないかと考えるだろう事は自然の流れじゃ、つまり暫くの間コンビを離れ、単独行動で人混みに紛れるのじゃ」

「なるほど『魔術師と孫』の噂が途切れれば、その街にはいないと判断され易いかもな」

「そういう事じゃ、しかしヴェルスト領からの追っ手は、儂等の顔を知っているとも考えた方が良い」

「変装も必要になるのかぁ」


 ポンペオエルムントはリュックサックに魔道書とローブを入れて背負い、老人の多い寄り合い所に身を隠すと言って宿を後にした。

 『人を隠すなら人の中』という言葉通り、老人のポンペオエルムントは老人の集まる場所に身を沈める予定だろう。


 で、俺はどうするかと言えば、同年代の人の中に身を隠したい。

 しかしこの世界、学校なんて無かったりする。

 平民の子供は家の手伝いをする、若しくは冒険者になったりとワイルドだ。


 既に冒険者の俺が、冒険者稼業をするとすれば自然な流れだろう。

 しかしそれだと追手に見付かり易いんじゃないか?

 出来れば街門付近で、出入りする人間を見張れれば良いけど。

 それが出来ないなら、人目から隠れられる屋内に篭る仕事にでも就くかだな。


 それから俺は就職活動に励む。

 職業安定所とか履歴書なんか存在しない世界、飛び込みで自分を売り込むしかない。

 パン屋・肉屋・材木屋・鍛冶屋・研ぎ屋・服飾工房・煙突掃除・木工工房・宝石屋・貴金属商

 などなど片っ端から飛び込んで職を得ようと頑張った。


 しかし手に職を持っている訳でもない俺を、雇ってくれる所は無い。


「君、この仕事の経験は? 紹介者もいないの? それじゃぁうちじゃ雇えないよ」


 殆どがこの三拍子で終る。


「くっそ、良い方法無いんか……」


 ガックリきた俺に声を描けて来るのがいた。


「おい、お前冒険者だろ、剣持っているし」

「余所者だけど、剣を持っているお前も仲間になれ」


 見るとほぼ同年代だろう三人の少年が俺に話し掛けてくる。

 皆帯剣しているから冒険者だろうと判る。


「そうだけど?」


「俺達、冒険者パーティーを結成したばかりなんだ」

「まだ三人だけどな」

「三人ともギルドレベルは銅ランクDレベルなんだ」


 ……なんだ、駆け出しか。


「もう一人位いれば、上のクエスト受けられると思うんだ」

「まだ魔獣退治と言っても、スライム位しか許可されないんだぜ?」

「冒険者なら強い魔獣倒して、レベル上げて稼ぎたいじゃん」


「お前らの意気込みは解るけど、やめとけ」


「何でだよ、ウチの父ちゃんと同じ事言うな」

「お前、臆病者なのか? 冒険者なんだろ?」

「お前のギルドレベルいくつなんだよ」


 ……教えたら大人しく引き下がってくれるかな。


「黙ってる所を見ると、さては銅ランクFレベルだろ」

「その割りに良さそうな剣を持ってるな」

「恥ずかしいんだろ? こっそりでも良いぞ、聞いてやるから」


 ……騒がれたて噂になったらヤバイしなぁ


「俺達だって通って来た道だ、成り立てだって恥ずかしくないって」

「恥ずかしいなら、小声で話せば良い」


「俺の事は訳あって、秘密にしておいて欲しいんだ」


「うん、解った、それで?」


「俺のレベルは、銀ランクAレベルだ」


「「「!!!!!」」」


 息を呑み、驚く三人組。


「嘘だろ?」


 俺はギルドタグを見せる。


「本当だ……」

「何でそんなに実力者なんだよ」

「俺達と同年代なんだろ?」


「俺には見付かりたくない奴がいるんだよ」


「わかった、俺の家にしばらく隠れるといい」

「本当に良いのか? リック」

「こいつを仲間にすれば、色々と教えてくれるかも知れないじゃん」

「お前、名前はなんてんだ?」


「コスタノだ」


「宜しくな、俺はリック」

「エルだ」

「俺はユーイ」


 リックは家に匿ってくれるよう親に頼み込むと言う。

 彼に連れられて来たのは、この街の商工会の建物だ。

 と、いう事はリックは商工会長の息子って事か。

 エルとユーイは一緒に冒険者に憧れている友達なんだろう。







「お前がリックの言っていた冒険者か」


 リックの親父、商工会の会長は太った親父だ、鋭い眼光でコスタノを観察する。


「何か訳有りらしいな」

「しばらくの間、身を隠していたいんだ」

「身を隠したいのか…………。 君は博打バクチをするのか?」

「いえ、博打バクチはした事はありません」

「そうか」


 コスタノが身を隠したい理由が、博打による借金では無さそうな事は雰囲気で察する事はできた。

 では借金取りから身を隠したいのでは無いとすれば、他の理由は何かが気にはなる。

 独自の情報網で探っておいた方が良さそうだとも感じていた。


「ふむ、本来なら面倒事は抱え込みたくは無いのだがな……」


 リックの親父、商工会会長はもっと面倒なものを抱え困っていると言う。

 大事な跡取りの息子は冒険者に憧れ、最近では友達とつるんでギルドに登録をしてしまったらしい。

 何時何処で命を落としかねない事に、心配の種が尽きないと言う。


 ここからは、コスタノが冒険者ギルドの上位ランク者という事を見込んでの話として、リック達の身の安全を保障し、尚且つ冒険者の厳しさを叩き込んでもらえないかと相談された。

 冒険者ギルドを通さない個人依頼という事になる。

 報酬は居場所の提供だけで、指導料金や護衛料金は無い。


「息子達の事を請け負ってくれるなら、寝泊りの面倒ぐらいは用意してやろうと思う」


 俺としては屋内に身を隠していたいけど、少年達とつるむ事で多少でも気配を紛らわせられるんじゃないかと考えた。

 かなり足元を見られたが、あくまでも冒険者として目立たないように立ち回らなければ。

 しばらくは剣の稽古とか、冒険者の基本とかを屋内で教えるなら、或いは。


「良いでしょう、お受けします」

「そうか、頼むぞ」


 この日から俺は、商工会会長の家にお世話になる事になった。

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