第35話 タンザーペの街
ゲマリードとベラルダは、エルコッベとルベルタスの馬に乗せられ次の街を目指す。
行商人は街で商品を仕入れ、別の街で売る事を繰り返す生活を送る。
流浪の行商人は平民の中でも地位が低いと見られているようだ。
街に定住している平民の方が地位が上とされ、封建社会で余所者は信用され難い。
もっとも探索者の二人にはどうでも良い事だけど。
ゲマリードとベラルダはそんな平民だろう。
しかし平民に堕とされたエルコッベと、ルベルタスは相変わらず騎士道精神を発揮した。
ゲマリードとベラルダという女性を労わる為に馬に乗せ、自分達は馬を曳いて歩く。
道すがら世間話のつもりで自分達の身の上を話し出す。
「私は元はヴェルストの領主でしてな、今は人探しの旅をしておるのですよ」
……こいつが天使の軍勢を呼び出した領地の主なのか。
心の中で確信するゲマリードとベラルダ。
しかし心情など見せずに行商人の演技を続ける二人。
「人探しの旅ですか、奇遇ですね、私共も行方不明の子供を捜して旅をしているのです」
「ほう、単なる行商の旅ではなかったのですな」
「私達は、冒険者の間で話題に昇る『魔術師と孫』が目的の人物ではないかと当りを付けているのですよ」
「『魔術師と孫』ですか」
魔術師と孫の話が自分に繋がると思えないゲマリード。
人化の法を誕生したばかりの子供が使えるはずが無いだろう。
誰かが教えなければ知り様も無いのだから。
ドラゴンしか知らないドラゴン人化の法を誰が教えると言うのか。
縄張り内に他のドラゴンはいなかった。
それくらいゲマリードには手掛かりが無い。
……エルコッベとルベルタスの探し人は、私とは関連性は無さそうだな。
やがて街道は丘の坂道に差し掛かり、延々と細い道を上がっていく。
丘の頂上付近に街壁が見えてくる。
小規模だけど、ここがタンザーペの街と言われている所だ。
辺鄙そうな場所だけど、一応街道の要所になっている。
「ここがタンザーペの街か」
「街と言うには規模が小さいですね」
街の中に入ると、住民から余所者を見る目で胡乱気な目線が向けられる。
「ここは思ったより閉鎖的な街のようだな」
「我等は歓迎されてなさそうな空気ですな」
何となく二人の女性を、この街に置いて行って良いものか、という気になって来る。
「ベラルダさん方、どうもこの街の雰囲気が気に入らない」
「貴女方がこの街を出られるまで護衛をしようと思う」
「お気遣いありがとう存じます」
気は抜けないが、食事もしたいし休養も執りたい。
一先ず宿で食事をしてそのまま宿泊する事にした。
宿は街門から、それほど遠くない所に見つける事が出来た。
カウンターの奥に女将さんが一人いるようだ。
「女将さん宿と食事を頼みたい、四人だ」
「何泊の予定だい?」
「一泊だ、明日には街を出ようと思う、二部屋用意して欲しい」
「そうかい」
しばらくして食事は運ばれてきた。
パンとスープ、ハムの盛り合わせで安宿によくある質素な料理だ。
「食べ終わったら食事の代金を払っておくれ」
「解った、いくらだ?」
「そうさねぇ、一人金貨二枚だね」
「金貨二枚だって!」
いくらなんでも高過ぎる。
他の街で同程度の宿でも一人頭、銀貨一枚位が相場だ。
「お客さん、クレームを付けようってんじゃないよね?」
「クレームも何も、ボッタクリだろ金貨二枚なんて」
宿の女将は豹変した。
キャーーーーーー
「誰かー、誰か衛兵を呼んでおくれよー、食い逃げだーーーーー」
「な! 何をいきなり」
女将の叫びとともに街の住人達がドヤドヤと駆け込んでくる。
「どうしたんだ、女将さん」
「食い逃げだよー、あのお客さん達がボッタクリだって言うんだよー」
「何だと! ふてえ奴だ」
「あんたら、来てもらおうか」
この街の衛兵と見られる男達がエルコッベ達に詰め寄ってくる。
「私達は法外な請求に異議を
「話は詰め所で聞くから来るんだ」
エルコッベ達は衛兵に腕を捕まれ詰め所に連行された。
四人は手枷を掛けられ、剣を奪われ牢の中に入れられる。
「何だ、なぜ話しも聞かずに牢に入れられる」
「大人しくしてるんだな」
「お前達の荷物は没収だ」
「何だと!」
衛兵達はニヤニヤ笑いながらこの場を立ち去っていく。
「一体何が起こったと言うのだ」
「エルコッベ様、我等は嵌められたようですな」
「ここの者達は街ぐるみで外部から来た人間を餌食にしているようですね」
ベラルダは憎々しげに吐き捨てる。
「なんとしても逃げねばなるまい」
「しかし、この鉄の手枷をどうやって外せば良い物やら」
「機会を狙おうじゃないか」
ゲマリードとベラルダは無表情に座り込んでいる。
エルコッベとルベルタスは脱出の機会にどうやって逃げるか思案に暮れた。
牢の中で一夜が開けた。
「そこの女二人、出ろ!」
衛兵はゲマリードとベラルダを連れ出していく。
「何をする気だ!」
「お前らは後だ、先ずは女から売れるようにしないとな」
「売れるだと!」
「荷物も没収されて文無しのお前らだ、奴隷に売り払うくらいしか使い道は無いだろう」
衛兵達は笑いながら牢を後にした。
「くそったれ! なんて街だ」
エルコッベは怒りに震える。
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