第34話 エルコッベとルベルタス

 街道を馬で行く男の二人旅。

 元エルコッベ伯爵と元騎士団長ルベルタスだ。

 国王マクシミリアンから自領を失った領主として廃爵されてしまった。

 しかしラーデルの顔を知る元エルコッベ伯爵と、元騎士団長ルベルタスは捜索の旅に出される事に。


「エルコッベ様、爵位を失ってさぞ無念でありましょう」

「ルベルタス、私はこうして冒険者に身をやつして気が楽になった気がするぞ」

「何を暢気な事を」

「ルベルタスは知らぬと思うが、領主でいると色々面倒でなぁ、今は王命が無ければ自由そのものじゃないか」

「左様で御座いますか?」

「ああ、貴族達が保身の為に暗躍をする世界は気が休まる暇が無い」

「確かに、今は自分の心配をするだけで良いですからな。しかしラーデルめはとんだ災厄の種でありました」

「愚痴を言うな、思い出すと嫌な気持ちが湧き起こって来る」

「失礼を致しました、街道をこのまま進めばソーニッジの街に到着ですな」

「今日はその街で情報収集と休憩にしよう」

「そうでありますな」


 ヴェルスト領壊滅の際、重要参考人のラーデルと魔術師エルムントは姿を消した。

 老人と少年という特徴で情報を集めれば本人に当る確立は高いだろうと踏んでいる。

 逃亡者となった二人だから、祖父と孫などと偽っている可能性もある。

 食事と宿泊の必要性はあるから、金を稼ぐために冒険者をしている可能性も高い。

 故に冒険者ギルドを張っていれば、見付かる可能性は高いだろう。

 二人はその様に推測し、いくつかの街の冒険者ギルドを巡って来た。

 その考えは当っていたようで、時折冒険者の噂で魔術師と孫の話が出る。


「次のソーニッジの街に奴等がいれば良いのですが」

「上手く逃げよるな、いつも空振りを食らう」

「それでもいつかは追い詰める事が出来るでありましょう」








 二人はソーニッジの街の冒険者ギルドを探し当て入り口を潜る。

 中を見回しても件の二人の姿は無い。

 依頼票が張り出してある壁の側に、この場に似つかわしくない者の姿が目に付いた。


「行商人の女性が冒険者ギルドに来るなんて珍しいな」

「何か依頼を出しに来たのかも知れませぬな」


 既に依頼手続きを終えたのか判らないが、行商人の二人は壁の依頼票を眺めた後、ギルド内にあるテーブルにつき休憩に入ったようだ。

 場にそぐわない違和感はあっても、気に留めなければならない程じゃない。


「我等も席について周りの話しを聞き入りましょう」

「うむ、そうだな何時ものように情報収集せねば」


 しかし、この街の冒険者の噂から『老人と孫の冒険者』の噂は出ない。

 どうやらソーニッジの街には、来なかった可能性が高いようだ。


「この街はハズレのようですな」

「のように考えても良いだろうな、路銀は大丈夫か?」

「先の街での稼ぎはまだ十分に残っております」

「ならば次の街で一稼ぎしておいたほうが良さそうか」


 二人は宿で食事と休憩を取り、翌日次の街に出立する事に決めた。







 翌日二人は街から出ようとした時、先日冒険者ギルドで見かけた二人の行商人の女性の姿を見つけた。


「あれは昨日ギルドで見た行商人だな」

「どうやら女性の二人旅のようですな」

「それにしても、あの二人無防備すぎないか?」

「そうですなぁ、護衛も無しに女性二人だけというのも危なっかしいと言うか」

「護衛を雇うほど金が無いのかもしれん」

「次の街までなら、我らが護衛をしてあげた方が良いでしょうな」


 エルコッベとルベルタスは、二人に声を掛ける事にした。


「其方等、この街を出立であられるか?」


「え? ええ」


 二人の女性は警戒をしているようで言葉は少なめだ。


「護衛の姿が見当たらぬので、もしや雇えぬのかと心配をしている」

「次の街までなら、我らが護衛をして差し上げようと思ってな」


「そうでありましたか、しかし私共に護衛は……」


「なに、我等に金の心配は要らぬ、次の街までは我等も行くのだから、護衛はついでだ」

「元とは言え、我等は貴族だったのでな、ジェントルマンなのだよ、心配致すな」

「遅れたが自己紹介しよう、儂はルベルタス、この方はエルコッベ様だ」


 女性達は小声で相談をする。


「ゲマリード、どうする?」

「断り続けると不信感を持たれかねないだろう、止むを得んか」

「途中で正体がばれて、るにも、梃子摺る事は無さそうだし」

「その時は私のおやつにすれば良い」


 二人は護衛を受け入れる事にした。


「ありがとう存じます、私の名はベラルダ、こちらがゲマリードです」


「ベラルダとゲマリードか、高貴そうな名前であるな、ははは」

「次の街まで我等が護衛するのだ、ご安心あれ、お二方」


 行商人の女性二人の身の安全は、保証されたも同然と胸を張る。


 ……馬鹿な男共め、鬱陶しいですね。


 ベラルダは内心で舌打ちをする。

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