第31話 ラーデルを探せ

 考えてみれば俺、初期値の高いドラゴンだったよね。

 人生イージーモードだったはずだよね。

 何で逃げてばかりいるんだろう。


 最初は親ドラゴンから逃げ、

 ポルダ村じゃ何者かの闇討ちから逃げて、

 仲間が出来て戦場で失って、

 今またヴェルストの住民達から追われて逃げてるよ。


 何故なんだ。

 やっぱり【厄病神】イルデスト仕業か。

 そうなんだろうなぁ、必ず平穏な生活は崩壊する。


 今までは事情が解らず、人の提案をハイハイ聞いていた。

 しかし、これからは自分の事は自分で決めなくちゃならん。

 自由というのはそういう事なんだろう。


 魔術師エルムントは保護者じゃなく、パートナーだ。

 かなり年上だけど立場は対等だと釘を刺されている。


「エルムント様、何時までも山小屋に篭っても居られないから、どこかの街に出ましょう」

「まさしく心機一転じゃな」

「以前の冒険者登録が生きているか判らないけど、冒険者をやっていれば、それなりにでも生活出来るだろうし、だから俺は街に出ようと考えました」

「うむ、それも正解じゃろうなぁ」


 二人は国境を越えて麓の街を目指す。





-------------------------------------------





 所は王国首都。

 マクシミリアン国王に謁見を申し出ている者達がいる。

 領主エルコッベ伯爵と騎士団長ルベルタス率いる騎士団たちだ。


「エルコッベ伯爵は領地を失っただと?」

「魔族の大軍の侵攻に、我国の援軍は間に合わなかった模様」

「それでヴェルストの難民が押し寄せてきたのか」

「エルコッベ伯爵にはどの様な措置を致しましょうか」

「エルコッベなぞ廃爵せよ、自領を失った領主に何の価値がある」

「では後ほどヴェルストでの戦闘経緯報告をお届けします」

「うむ」







 マクシミリアン国王の決定に愕然とするエルコッベ伯爵。


「私が廃爵ですと……。 ではヴェルストの民はどうなると言うのですか」

「マクシミリアン国王様は、ヴェルストの難民に関与はせぬ」

「私の領地の民には行く所が無いのですぞ?」

「関与せぬと申したであろう、ザーネブルク王国首都の住民権も無いと心得よ」


 エルコッベ伯爵の申し出に対応する官吏の対応は非情だった。

 ザーネブルク王国首都の街壁の外に、スラム街をつくり住み着くか、他所へ行けと言わんばかりだ。

 エルコッベ伯爵が廃爵され、貴族の地位を失うという事は、臣下の者達も貴族位を失うと言う事になる。

 ザーネブルク王国首都の住民権も無いとなれば、国の住民以下どころか貧民や奴隷にもなれぬ者、カースト外の卑民として扱われる。


「何と言う屈辱だ」


「エルコッベ伯爵様……」

「ルベルタス、私は伯爵ではなくなる、そして其方そなた等も貴族ではなくなる。 私の臣下を辞しても構わぬぞ。私にはもう統治する領地も無いのだから」

「エルコッベ伯爵様……」


 余りの不遇に涙する一同。

 難民スラム街で暮らさなければならなくなったヴェルストの民達。

 激戦で命を失う事が無かったのは、生きて恥を偲ぶ余生しか残らなかったようだ。

 それが良かった事なのか、禍事まがごとなのか、口に出す者はいなくなった。




  ☆




「ヴェルストでの戦闘経緯報告を聞かせてくれ」

「はっ! エルコッベ伯爵からの報告になりますが」

「うむ」

 

 側仕えがエルコッベ伯爵の報告書を読み上げる。


 【ヴェルストの軍を上回る数の魔族軍が侵攻してきた事が判った。

 事前に要請された援軍は間に合わず、果敢なる防衛線も虚しく第一防衛陣を破られ、篭城戦に入った。

 間に合わぬ援軍に業を煮やしたエルコッベ伯爵の元に居たルベルタスの従者である騎士見習いが天使の軍勢を援軍に呼んだ。

 魔族軍と天使軍との激しくも苛烈な戦いでヴェルストは壊滅した】


「以上であります」

「ふーむ……、天使の軍勢が援軍に来たのか。 して、ルベルタスと申す者の従者である騎士見習いとは誰なのだ?」

「名前は報告書に記されておりませぬが、行方不明との事です」

「行方不明だと? なんと無能な。 此度の戦の重要参考人ではないか、余はその者に興味を惹かれた、早急に探し出せ」

「はっ! 承知いたしました」


 ザーネブルク王国の官吏から、エルコッベとルベルタスに従者探索の命令書が届けられた。


「件の従者の名前や顔を知るのは、其方そなた等しかおらぬのであろう、急ぎ探索し連れて参れ」

「承りました」


 エルコッベとルベルタスは冒険者に身をやつし、ラーデルを探しに旅に出る事になった。


「ルベルタス、そういえば魔術師エルムントの姿も見ないな」

「もしや一緒に逃亡したのでは?」

「うむ、あの時、臣民達や街の住人達がパニックで暴動状態になり始めたからな」

「逃げねば命が危なかったでしょうな」

「同情の余地も無い訳じゃないが、何とも割り切れぬなぁ」

「左様でございますな」

「しかし生かして連れて来るのは王命だからな」


 二人は冒険者の身形を整え、徒歩でザーネブルク王国首都を出立して行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る