第28話 家族会議
「家族を集めてくれ」
「はい、旦那様」
この日の夜ルベルタスは人払いをして、家族会議を開く事にした。
今に集まったのはルベルタスの婦人ジェリシア、既に騎士になっているギルベルトと見習い騎士のルクハンス。
「皆、聞いて欲しい、儂は逸材だと思ったラーデルを家族に迎えた方が良いのではと思い始めておる」
「平民を養子に迎えると言うのですか?」
ジェリシアは厳しい目でルベルタスを見る。
「ラーデルって、あの従者ですよね?」
「平民の従者を養子にしたいと考えているのですか?」
ギルベルトとルクハンスも面食らう。
「
「強かったですね」
「素手で熊を倒せる上に、魔法まで使っていましたよね」
「魔法まで使うですと?」
ルクハンスとジェリシアは驚いた。
疑わしい話だが主人のルベルタスと、長男のギルベルトは目撃しているのだ。
「そうだ、あれほどの実力者を誰かに取られたら大問題になるだろう」
ラーデルを取り上げる者が、敵対者だった場合目も当てられない。
「その通りですね」
「平民が貴族の従者というだけでも、大した出世だと思いますが?」
「そうですわ、平民の従者を養子に迎えたいなど、私には考えられません」
ルクハンスとジェリシアは、平民を自分達と同等には考えられないようだ。
「
「私も捨て置けない逸材だと思います」
「ラーデルが裏切らない保証は無いのですよね?」
「裏切ったり、反勢力に取り込まれたら致命傷になると踏んでおってな、そうならない為にも保身のためにも、ラーデルを儂の側に縛っておかねばならんと考えておる」
とんでもない人物に係わってしまったという顔のジェリシア。
眉間に皺を寄せ苦悩する。
「高給を与えるというのはどうですか?」
「それでは領主様、ひいては国王様に引き抜かれ兼ねん」
「従者の一人くらい、別に良いじゃありませんか」
「母上、それでは我が家の保身になりません」
「それでもラーデルが得体の知れない平民というのは抵抗が在りますね」
「薬はどうです?」
「ラーデルは自己治癒が出来るのだ、有効策にならぬ」
中毒から自力で立ち直ったラーデルに、信じがたいものを見た思いだった。
「他に方策が無い以上、親子という情しか縛る方法が無いのかもと考えたのだ」
「ルベルタス様、私にも心を整理する時間は必要です」
「俺達より強い奴が弟になるのか」
「しかしラーデルは平民なのですよ?」
身分社会に得体の知れない平民が、家族になると言うのはどうしても自尊心が受け容れない。
「どこかでラーデルを暗殺できれば良いのですけれど」
「若しくはラーデルが勝手に目の届かないどこかへ行ってしまうとか」
「儂の利を潰すと言うのか?」
「それは……」
武力も魔法も尋常じゃないラーデルをすんなり暗殺できるとも思えなかった。
騎士でも手に余る魔獣を一人で倒すようなラーデルを始末出来る暗殺者なんているだろうか。
むしろ管理下に置いて生かし武勲を立てられれば、騎士団長ルベルタスとしても栄誉を手にする事が出来るだろう。
魔術師エルムントもエルコッベ伯爵も、目をつけ初めているのだから奪われたら出世に当然の事ながら響くに違いない。
「敵に回せば恐ろしいが、味方に付ければ頼もしいか……」
「問題はどうやって何時までも、味方にしておくかですね父上」
頭を抱え込むルベルタス。
「だからこその養子縁組だと言うのですか」
「他に良い方法があるなら聞かせて欲しい」
「それは……」
「親子だからって必ずしも仲が良いとは限らないと思いますが?」
「儂はそれが一番恐ろしい」
貴族の夫婦親子関係は、平民のようにベタベタした所が無い。
希薄になりがちな親子関係に一抹の不安も付き纏う。
親子の情で縛りたいが、出来るだろうか。
ルクハンスは兎も角としてジェリシアは見下している雰囲気がある。
「父上、ラーデル本人の意向はどうなんです?」
ルクハンスが重大な事に気が付いた。
「まだラーデルに話してはおらぬ。 先ずは地固めが必要だと思ってな」
「ルベルタス様、ラーデルにも意向を伺ってみては如何です?」
「そうだな、聞いてみるか」
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ルベルタスはラーデルの部屋にやって来た。
「儂は
「ありがたき幸せに存じます」
「それで養子にどうかと家族と話し合ってみたのだ」
「俺が養子にですか?」
意外そうな顔のラーデル。
騎士に引き上げようと考えてくれている恩人でもあるルベルタス。
天蓋孤独な身の上だから有り難い事は有り難い。
しかし【厄病神】イルデストの存在が頭の中に横切る。
いずれはルベルタスを崩壊の悲劇に引き込む事になる。
イルデストを知らなければ、運命の一言で受け容れたかも知れない。
いくら他人の人生に責任を背負い込むなと言われても、確定する未来が解るなら話しは別だ。
「この上なく有り難い申し出ですが、お受けし兼ねるかと」
「なんと!」
驚くルベルタス。
断られるとは思っても見なかった。
「何故だ?」
「俺を引き入れれば、いずれ不幸を呼び込むかと」
「未だにポルダ村やMass-Crimsonの事を気に病んでいるのか」
「そうとも言えるし、そうじゃ無いとも」
「
「それでも十分過ぎる厚遇と感謝しています」
「うむーー。 欲が無いのか、他に何か在るのか儂には解らぬ、何か儂に言えぬ事でもあるのか?」
言えない秘密は言えないのだ。
俺が疫病神憑きのドラゴンだなんて口が滑っても言えない。
言ったらどうなるか、とんでもない想像がつく。
そんな事になる位なら、今のままでいる方が良い。
「何か言えない訳が有るようだな。 解った、言える様になったら儂に相談せよラーデル、悪いようにはせぬ」
「ご配慮ありがとう存じます」
残念ながら相談事は人の手に余るだろう事は解る。
だから余計に言うに言えないんだよ。
ルベルタスは残念そうに部屋を出て行った。
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