第27話 魔法の可能性

「もっとじゃ、もっと儂に見せてくれ! 未知なる魔法をもっとじゃ!」


 基本的には魔法の種類・攻撃方法・形状・威力、等々すべてはイメージングの産物だ。

 イメージさえ出来れば、技なんか無限にづくり創れると言っても過言じゃない。

 それを奥技と言って良い物かどうか。

 技の全てを見せよと言われても、その場で思いついた事が技となるから無理がある。


「実は俺、一般の魔術ってそんなに知らないんです。 エルムント様の魔法も見たいと思うんですが、宜しいでしょうか?」

「儂の魔法をか、其方そなたには最早参考にはならぬと思うぞ?」


 そうは言っても、今まで多くの魔術師を教えてきたエルムントだ。

 一目置いているとは言え、気分の乗っている今、披露するに吝かではない。


「炎の魔法はこうじゃ」


 エルムントは魔道書のページを開き、呪文の詠唱を始める。


「炎の神アグニの力よ、集い力となりて炎獄と為し、我の指し示す的を焼き尽くせ、ファイアーボール!」


 魔術師エルムントの杖から火炎弾が撃ち出され、ロックタートルの一部を炎に包む。


 ドシュッ! グォワ!!


「如何であろうかの、これが従来の魔法じゃ」


 魔道書に記されている呪文を見てとなえている。

 それは以前仲間だったヘルミーネと、それほど変わるものじゃないようだ。

 例えるなら、無詠唱魔法がフルオート銃なら、詠唱魔法はマスケット銃か。


 魔法が発動するまで、手順が煩雑だとしか思えなかった。

 呪文詠唱というのは、体内に流れる魔力のコントロールを敢えて言葉にしているように感じた。

 そういう事なら、流派ごとに呪文が違うという事は十分に有り得るだろう。


「しかしラーデル、剣士を兼ねられる魔術師は非常に珍しいのう」

「珍しいとは?」

「魔道を突き詰める者で剣士を志す者はおらぬ」


 エルムントの言うには、魔術師となり魔道を突き詰める事に、一生を捧げる者が殆どだと言う。

 インドア派はアウトドア派にならないという事かな。

 道理で体力自慢の魔術師がいない訳だ。


「それは武の道を志す者も同様であるな」


 ルベルタスも同意する。

 剣や弓の道を志す者で、魔術の道も目指そうと考える者もいないと言う。

 そういう訳で騎士と魔術師はきっちりと住み分けが出来ているそうだ。


 脳筋の騎士団にインテリがいないと言う事かも。

 むしろ号令で即座に行動出来なければ兵士としてどうかという所か。

 軍部のインテリって大概、作戦司令部とか上部にしかいないイメージがあるし。

 文武両道なんてスローガンでしかなかったのかな。


「儂にしてみれば、ラーデル君の若さで両立している事が驚異的だと思っておる」


 感慨深そうに語るルベルタス。

 どちらの道に在ろうとも、両方を兼ねれば有利に違いない。

 しかし人は器用貧乏に陥り易い、両方を追い求めても結局物にならないで終ってしまう。

 それでも実現出来る可能性を示し、その可能性を取り込みたいと考えている。



「してラーデルよ、先の『ドリル弾』と申した物、炎魔法を繋げるアイデアは大した物だの」


 魔術師一人で、一度に複数の魔法を操るのは難しいと言う。


「他にもアイデアは有るのだろう?」

「そうですねえ……、魔力を圧縮するとか」

「魔力を圧縮だと?」


 土系魔法なら圧縮すれば、より堅固な物質を作れるだろうし。

 水魔法を圧縮して小さな射出口から高圧縮水を出せば、ウォーターカッターになるだろうし。

 水魔法に毒属性を混ぜれば、毒水として獲物の命を奪える確立が上がるだろうし。

 火系魔法なら温度魔法という概念で考えれば、冷却系魔法になるだろうし。

 風系魔法なら大気の流動とか、流動の概念で考えれば移動系魔法にもなるかも知れないし。


 ラーデルの考えたアイデアに目を見開く魔術師エルムント。


「そのアイデアをどの様に実現出来ると言うのだ? どの様な魔法陣を考えれば良いのか想像もつかぬ」

「俺の場合、全てはイメージングで何とかなるかと」

「それらの魔法は今はまだ無いのだな?」

「そうです、まだアイデアの段階で」


 全てはイメージングで起こる魔法なら、たった今は存在しなくても次の瞬間に出来上がってもおかしくは無い。 いや、出来上がっても不思議でも何でもないじゃないか。


 益々憧れと尊敬を深める魔術師エルムント。


「むう……」


 騎士団長ルベルタスはラーデルに実力差に対する嫉妬と恐れを感じ始めてしまった。反逆でもされたら、間違いなくルベルタスは敗れ去る。


 そうならないためにも、如何にしてラーデルの裏切りを防ぐかが急務になり始めた。

 ラーデルを下手に領主様や国王様に近づければ、主人としてルベルタスの立場が危うくなるだろう。それだけはなんとしても避けねばならぬ。


 ……失敗したか?

   儂はラーデルを騎士に押し上げない方が良いのかも知れぬ。


 しかし領主様は既にラーデルと顔を合わせてしまっているのだ。

 騎士達にも紹介をしてしまったし、実力も披露してしまった。


 ……ラーデルを従者として、

   何時までも信頼を寄せられる立場を作らねばならぬ。

   それはどうしたら良い、まるでラーデルは危険人物ではないか。


 ラーデルを退けるには、もう遅い。

 怖れて退けたとしても、反対勢力に取り込まれては目も当てられない。

 何時までもルベルタスの従者として側に付け、ラーデルの力を自分の為に使わせ続ける必要が有る。

 薬で隷属させるという手段は、自力で回復できるラーデルには通用しないだろう。

 養子に迎え、親子関係と言う情で縛る手段も考えられるかも知れぬな。


 騎士団長ルベルタスは気が付いてしまった問題を、館に帰って考えを纏める事にした。

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