第22話 見習い騎士団訓練

 俺はルベルタスの館で礼儀作法を仕込まれている。

 領主もルベルタスも上級貴族だから、世話になる俺は礼儀作法がなってないと言われ、習わざるを得ない状況だ。執事の爺さん直属の教育担当メイドにしごかれる毎日を送っている。


「ラーデル君、たまには体を動かしたいだろう?」


 ルベルタスに誘われて騎士達が揃っている訓練場に連れて来られた。


「冒険者ギルドで上位ランクだった君の事だ、物足りないかも知れないな」


 騎士の実力は冒険者の上位ランク以上だと聞いた事が有る。

 いくら上位ランクだったと言っても侮れないかもしれない。

 そもそも貴族階級である騎士団の実力が、平民階級の冒険者に劣っていたら面子が立たないだろうし。


「君の剣はそれか? そんなので良いのか?」


 ロングソードに見慣れたルベルタスの目には見劣りするようだ。

 確かにファルシオンはロングソードに比べて刀身の長さは短い。

 それでも林や森の中、洞窟や室内など狭い場所で使うには丁度良い剣でもある。


「大丈夫です、自分の愛剣でもあるし」

「そうか、そうまで言うなら無理強いはせぬ」






 これから俺は騎士団長ルベルタスから見習い騎士団に紹介され、一緒に訓練をさせられると言う。

 ラーデルの実力がパーティーの協力無しで果たしてどれくらいの物なのか。

 実際に見習い騎士と手合わせをして、実力を測ろうと考えているのだろう。


「皆の者、集合ー!」


 騎士団長ルベルタスの前に集合する見習い騎士達。


「諸君等に新たな訓練生を紹介する。この者はラーデルと言う、冒険者ギルドでも上位の実力者でも有る、儂の従者として騎士見習いに推すつもりである。互いに剣の腕を磨き合い、切磋琢磨していく事を望みたい」

「平民出身でありますか」


 見習い騎士団から失笑が漏れる。


「諸君等、侮ってはならぬ。冒険者ギルドでも上位の実力者であり、戦場では見事な戦働きであったから、騎士団長の儂が直々にスカウトして来たのである。騎

士団長ルベルタスの庇護に有る者と心得よ」


「「「はっ!!!!!」」」


「これより諸君等と合同練習をしてもらうが、ラーデルに負けるような者があれば、連帯責任で訓練は厳しさを増すと覚悟せよ、以上である」


 最初は型の練習から始まるようだ。

 剣はロザベルとルグリットから教わっている物と変わらないように思える。

 むしろ冒険者だった彼女達の方が、より実践的なのかも知れない。

 どんな相手でも鍔迫り合いや、刃同士での打ち合いなんてしない。

 打ちに来たら、受け流しカウンターで突きを入れる殆ど一瞬の剣だ。


 次は互いに向き合って受け合ったりする練習だ。

 俺は相手の剣を受け流し、ロングソードよりリーチの短いファルシオンで突きを入れる。

 もちろん実戦じゃないから、寸止めで相手が怪我をしないように心掛ける。


「うお!」


 短い剣だと侮っていた相手は驚いた。


「驚いたな、まったく剣の長さが不利になっていない」

「なんだって? 凄腕だと言うのは本当なのか」

「ちょっと俺と手合わせしてくれないか?」


 腕に覚えが有りそうな奴が何やら企んでいる顔で出て来た。

 持っている剣はロングロードとは形が違う。

 両手剣のバスターソードのようにも見える。

 と、言う事は俺の短い片手剣を流される前に、ぶっ叩いてやろうとでも考えているのかも。

 だが、そんな剣にも負ける気がしない。


「いざ! せいっ!!」

「うりゃ!」


 ガッキーーーーーーン


 持久力は乏しくても瞬発力には自信が有る。

 俺は相手が思い切り振り込んで来る剣を、膂力だけで受け切り逆に吹っ飛ばす。


「それまで!」


 ルベルタスが決着を告げた。


「今の練習だけじゃまだ判断は付き難いが、結構力はありそうだな」


 俺が剣を弾き飛ばした見習い騎士がバツが悪そうに言ってくる。


「諸君等の実力は冒険者だったラーデル以下の様だな、明日から訓練の厳しさを倍にする。覚悟せよ」

「お待ち下さい騎士団長殿、まだ一人負けただけです」

「では全員一人づつ模擬試合をしてみるか?」

「お願いします」


 結果は皆、ラーデル一人に一瞬で切り伏せられた形になり、厳しい訓練は確定した。

 見習い騎士団は、恨めしそうな目で俺を見る。



「ふむ……ラーデル君の訓練は見習い騎士では役不足か」


 次からは正式騎士と練習をしても良さそうだ。


「しかしラーデル君はフィジカルは十分なようだが、メンタルが弱すぎると思うのだ」


 騎士団長ルベルタスはそのように判断をした。

 騎士団の皆は意外そうな顔になる。


「団長殿、どうして彼はメンタルが弱くてこれほど強いのです?」

「うむ、此度の戦でパーティーが全滅したと聞いておる。それほど良い仲間に恵まれていたのだろう」

「「「パーティーが全滅ですか!!!」」」


 一同驚きを隠せない。

 戦場ではパーティーが全滅するほど、過酷な戦闘を潜り抜けて来ただろう事が想像できた。

 そんな戦場でラーデルは、生き抜いてきた猛者だという認識が見習い騎士団に広がって行く。


 見習い騎士達には、まだ戦場の経験は無い。

 少しづつ経験を重ね実績を上げた者から、正式騎士として昇進をする。

 戦場で戦働きが出来るのは、本当に実力の有る正式騎士からになっている。

 彼らにはラーデルの事情が、一種の英雄談に聞こえている者もいるかも知れない。


「誰か、薬を持ってまいれ」

「団長殿、これを」

「うむ」


 ルベルタスの命令で一人の騎士が薬を差し出した。

 どうやら騎士達に戦場で心を壊さないように利用されているようだ。


「ラーデル君、これを飲め」

「何の薬ですか?」

「戦場で臆病風に吹かれた騎士が飲む薬だ、一気に気分が変わるぞ。

 メンタルが弱っているなら良く効くだろうと思う」



 覚醒剤であるヒロポンは、戦争と無縁ではない。

 戦時中は副作用の認識が無かった事もあり、覚醒剤は軍需品として大量生産された。

 覚醒剤はアンプルのほか錠剤でも配布されたという。

 特に激務の部隊に配布されたようで、戦時下に使用したと記録がある。

 現在でも日本ばかりか世界の国でも、精神高揚薬は実際に常用されている。

 それは文明の発達していないこの世界も同様なのだろう。


 貴族のイメージとして、強欲で冷血な一族とか領民に無慈悲と良く聞く話だったりする。

 こういう薬を使う事からも貴族に良いイメージが無いのはこれも原因かもしれない。


 呪術的に普及している風潮もあり、ラーデル自身もこの薬の危険性は認識していなかった。

 もっとも騎士団長ルベルタスの勧めに、抵抗する事も出来なかっただろうけど。

 こうしてラーデルは、ヒャッハーへの階段を上る。

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