第21話 ドラゴンの親
話しは一度ラーデル誕生時に戻る。
バサッバサッバサッ
大きな翼を羽ばたかせ、親ドラゴンは住処に帰ってきた。
ドラゴンは知能があり、言葉を解するから魔獣に分類はされない。
魔法は人族も使える者は少ないにも拘らず魔法も使える知性体である。
古代、人は大型の爬虫類を『竜』と呼んだ、それは神獣というほどじゃない。
ドラゴンにしてみれば、竜種は言葉を解さない獣にすぎない。
亜人種や魔物・魔獣より最上位の存在である。
人はドラゴンを生物的な関連も繋がりも無いけど、幻獣種として見ているようだ。 口には先程狩ってきた食事にする牛を
「そろそろ卵が孵って赤ちゃんが顔を出す頃だね」
子供の誕生を期待して、ワクワクしながら住処の奥へ歩を進める。
卵を鎮座させた孵化床の卵は無事に割れているのは理解した。
しかし誕生したはずの赤ちゃんの姿が無い。
親ドラゴンは驚愕した。
全身から血の気が引く思いだ。
「どこだ、何処にいる、我の赤ちゃんは?」
住処の隅々まで探したが、赤ちゃんの姿は見付からない。
普通、卵から
……まさか人間が我の赤ちゃんを奪ったとか?
しかし、住処の中に人間の臭いは無い。
人間の臭いが無いという事は、考えにくいが自分で動いて何処かへ行った可能性がある。
急いで出入り口方面に目を向けるが、そこにもいない。
……産まれてすぐに住処から這い出したのか?
住処の外にも赤ちゃんの姿は無い。
翼を羽ばたかせ住処の上空からも探してみた。
そかし、何処にも見つけることは出来ない。
住処の麓には鬱蒼と森が広がっている。
上空からでは森の中は見え難い。
巨体のままでは森の中を歩く事が出来ないから、人化し体の大きさを変える。
必死の思いで森の中を探し回ったけれど、赤ちゃんの姿は何処にも見つからない。
捜索は陽が落ちるまで続けたが徒労に終わってしまった。
止む無く住処に戻り思案をしてみる事にした。
卵から孵って直ぐ、いきなり赤ちゃんが出歩ける物なのか?
人の臭いが無いから、人間が赤ちゃんを留守の内に奪えたんだろうか?
その人間はどうやって臭いを消した?
そして最大の懸案、赤ちゃんは一体何処に行ったのか?
遠くにいるのか、または近くにいるのか?
いずれにしろヒントとなりそうな手掛かりも物証も何も無い。
焦燥感ばかりが込上げ、恐ろしい思いも脳裏を横切り混乱をする。
有り得ない事だろうけど、産まれてすぐの赤ちゃんは人里に向ったのかもしれないと考えた。
……行商人の姿なら怪しまれまい。
親ドラゴンは人化してゲマリードと名乗り、行商人に扮装して人里へ探しに出る事にした。
背負子に荷物を積んでいくつかの村を周り、村人の話を聞き生活や村の様子も観察する。
それでも一向に手掛かりは得られなかった。
人の噂に子供のドラゴンの話題は無い。
「ちっくしょうめ、ポルダ村ばかり富を独占しやがってよ」
「おらはもう奴等を許せねーだ」
ポルダ村で産業が興ったらしいとも噂を聞いたが、孵って直ぐの赤ちゃんに人化の魔法なんて使えないだろうし、常識として産業を興せる知識も智恵も無いだろう。
つまり、産業云々は自分には関連性の無い話だと判断をした。
……人族の所にはいそうも無いか。
「人族の所には手掛かりが無い。 場所は遠いが魔族の領域に手掛かりは無い物だろうか」
ゲマリードは荷物を積んだ背負子を投げ捨て、魔族領に向う事にした。
こうなれば誰かに頼る事も吝かではない。
人の世界は利権やら身分制度やらやたらと、面倒臭いから苦手意識がある。
魔族なら人族に近しくないから話しもし易い間柄だ。
最悪見付からなければ、魔王と相談するのも良いかも知れない。
魔族領に入ると、漂う魔素が濃くなり始める。
草や木など植物は少なくなり、砂地や岩地が多くなって来た。
時折魔物や魔獣が襲って来る。
魔族の村や街に近づくほど魔素は濃くなり、魔獣も強くなる。
ドラゴンであるゲマリードには、魔素が濃い場所は具合が良い。
襲い来る魔獣は、ドラゴンの食料になっても敵にはなりえない。
むしろ人属領より食料に事欠かなくなって好都合でもある。
人に近しくない存在のドラゴンが、魔族寄りになるのはこういう事情もある。
だから人族に敵対する魔族に寄るドラゴンが、悪だと見られる事も多々有る理由だったりする。
人の姿を取り魔族領の村々、いくつかの街を探してもやはり手掛かりは無かった。
「やはり魔王に協力を願うしか無さそうだね……」
ゲマリードは魔王の治める首都へ人化を解いて向う。
トボトボと地上を歩くより飛翔して向う方が早い。
この姿で魔王城に降り立ったほうが交渉もしやすかろうし、どの魔族も巨大なドラゴンの威容に、横柄な対応はしないだろう。
そんな打算の上での演出だ。
魔王城に巨大なドラゴンが舞い降りた。
パニックになる魔王城。
目論み通り、何事かと魔王バルツィラも現れた。
「ドラゴンよ、これは一体何事であるか」
「魔王殿、お初にお目に掛かる、我はゲマリード。 魔王殿に謁見したくやって来た」
「これほどの騒ぎだ、ただ余に挨拶に来た訳でもなかろう」
「いかにも、魔王殿に相談したい事もあってな」
「解った、話しは城内で伺おう、人化出来るであろうな?」
「わかった、城内に入るに、この姿では無理だから人化しよう」
魔王バルツィラに、ドラゴンゲマリードの会談が出来るようになった。
「して、ゲマリードと申すか」
「そうだ、我はゲマリードと名乗っている」
「ゲマリードは余に何を話したい」
「恥ずかしながら申すが、我が子が行方不明になった。
探す協力を頼みたいのだ」
「ふうむ……ドラゴンの子供をなぁ」
「無論ただで頼み事をしようと言うのではない。
協力のお礼に我は魔王殿の頼みを聞こうと思う」
「そうか……」
魔王バルツィラは実りを齎す豊かな土地が欲しかった。
痩せ細った魔族領では、これ以上勢力の拡大は望めないからだ。
人族領の殆どが豊かな大地だから、戦争で奪おうと考えていた。
しかし、先の進軍で大打撃を受けている。
少しでも戦力が欲しい今、ドラゴンの参戦は願っても無いものだ。
「実はな、こちらも恥ずかしながら打ち明けるが、
先の進軍で大打撃を受けてな、今は少しでも多く戦力が必要なのだ」
「我は魔王殿の進軍に力を貸せば良いのだな?」
「力を貸してもらえるか?」
「我の頼み事を受けてもらえるなら」
「解った、ゲマリードの頼み事を聞き入れよう」
ドラゴンゲマリードは、魔王バルツィラと手を組んだ。
魔王軍の戦力増強には、まだしばらく時間が掛かる。
戦闘が始まるまでゲマリードは、魔王の食客として遇され魔王城に滞在を許された。
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