第20話 騎士団長邸

 宿を出ると、ルベルタスの護衛の騎士と従者が馬車の前で待っていた。

 ルベルタスは騎士団長だから貴族階級に在るんだろうと思う。

 そんな要人を護るための騎士はやっぱり同行してたんだ。


 従者が開けたドアの馬車に俺とルベルタス、護衛の騎士二人が乗り込んだ。

 後ろに控えていたもう一台のグレードが一団劣る馬車に側近が乗る。


 ……良い馬車に乗れる俺は、招待客扱いなんだろうなぁ。


「君も知っていると思うが、今回の戦は魔族軍の謎の爆発で我らは勝利する事ができた。魔族軍側で何か事故が起こったのではと見ておる。魔族軍にどんな兵器が有ったのかは不明だが」

「左様で御座います、我が軍でも失明した者も多数出ています」


 ……俺が起した核爆発は、魔族軍の謎の秘密兵器の事故だと思われているようだ。

   被害の大きさから、益々俺の仕業だと言う事は出来ないな。


「戦場では皆見事な働きであった」

「いくつかのパーティーは目を見張る活躍でありました」

「ルベルタス様はラーデル殿に目を引かれたようですね」

「うむ、まだ未成年であろうラーデル君は、大きな魔獣に怯まずに戦いよく斃しておった」

「ラーデル殿は、その年頃に見合わぬ膂力の持ち主であろうと思われました」

「大した若者だと思います」


 ……つまり俺は戦闘力を見込まれ、ヘッドハンティングに来たのか。


「しかし戦で仲間を失ったラーデル君は今傷付いておる」


「そうでありましたか」


「我らが新たな仲間になれれば良いのですが」

「ラーデル君の心の傷を癒すためにも儂は側近に置き、見習いとして鍛えて進ぜようと思っておるのだ」


「ルベルタス様の厳しい鍛錬にラーデル殿は付いていけるでありましょうか」


「戦場であれほどの戦働きが出来るのです、きっと大丈夫だと思いますよ」


 そんな話しをしながらも、やがて馬車はヴェルストに到着した。

 馬車は早い速度だとは思えないけど、やっぱり歩くよりは早いようだ。

 馬車はルベルタスの私邸に向けられ、貴族区域に入って行く。






 平民区域と貴族区域の境界は、壁と門で仕切られている。

 騎士団長のルベルタスは、よほどのVIPとみえて門番はスルー状態だった。

 ルベルタスの私邸は上級貴族らしく、広い庭の奥に結構大きな館が建っている。

 三階建てで一体何部屋あるのか、幅広のきれいな館だった。


 玄関に馬車が到着すると、館の中から執事やメイド達が現れる。

 馬車のドアが開けられると、館の中からルベルタスの奥方達が現れる。


「今帰った」

「お帰りなさいませ」

「紹介しよう、この者は儂の客のラーデル君だ」

「さっそく部屋の手配とお召し物の用意を致します」


 執事は慣れた様子で事を運ぶために、メイドたちに指示を出していく。


 俺はメイドに客間に案内されていく。

 ルベルタスは奥方達と話があるのだろう、別の部屋に案内されて行く。


 さすがに上級貴族の私邸の客間だ。

 今まで俺が泊まっていた安宿とは、段違いの豪華さに目が眩みそうだ。

 調度品の何もかもが高級品で、ベッドには天蓋まで付いている。


 目に付いた椅子に座っていると、メイドが着替えを持ってやって来る。

 体を濡れタオルで拭かれて汗と汚れを清められ、着替えに掛かる。

 メイドが俺の着替えを手伝おうとしてくるけど、馴れない事は上手くいかないものだ。

 何とか着替えを終え、ボーッと立っているのも何だから、椅子に座って窓の外を眺め待機する。

 こういう場所で俺は何をすれば良いのかさっぱり解らない。困った物だ。


「ラーデル様、晩餐の用意が整いましたので、お部屋に案内いたします」


 執事がやって来て夕食の用意が有ると言う。

 腹が減っているから丁度良い。

 家主のルベルタと奥方は既に席についている。

 食事の部屋には多くのメイド達と側仕え達が給仕をしているようだ。


 ……貴族の食事ってこんな風景なんだ、まるで高級ホテルのようだ。






「おお、身奇麗になったなラーデル君」

「恐れ入ります」


 ルベルタスは俺に奥方を紹介した。

 俺の事は奥方には既に話をしてあるようだ。


「腹が減ったろう、先ずは食事をして話し合おうじゃないか」


 テーブルの上には様々な豪華な料理が用意されている。

 それは良い、良いんだけど、料理が盛られている食器に目を見開いた。


 ……見覚えがある、この食器はポルダ村で俺が作り始めたものだ。


 忌まわしい記憶が蘇ってくる。

 商売で豊かになった村が、近隣の村に襲われ滅ぼされたんだ。


「見事な料理に、見事な食器だろう」


 ルベルタスは自慢げだ。

 料理自体も豪華で、平民が口に出来る物じゃなさそうだ。


 そして食器にも自慢話が行く。

 王侯貴族でさえ、ポルダ村の食器が世に出る前は、木製や金属製の食器を使っていたとか。

 今は無きポルダ村の食器は、貴族のステータスとして扱われているらしい。

 しかしポルダ村が滅んだ今は、二度と手に入らない幻の名品の陶器として重宝されていると言う。


「ええ、料理も食器も凄いですね、さすがに貴族は違うと思いました」


 適度な社交辞令を言って俺は口を紡ぐ。

 正直、貴族じゃない俺は食事マナーでヘマをしていないかヒヤヒヤ物だ。

 だが、ルベルタスは俺が貴族じゃない事を念頭にすべて見逃してくれている。


「ラーデル君は儂の側近として騎士見習いになるのだ、今後この館の部屋を与えようと考えておる」

「ありがとう存じます」


 ……きっとこういう待遇をロザベル達は夢見てたんだろうな。


 冒険者をやっていた俺は元々荷物は少ない。

 いつでも、何処へでも身一つで動けるようにしているからだ。

 財産と呼べそうな物は、剣と防具、今まで溜めた金しかない。

 部屋を宛がわれれば、その日からでも活動は出来る。


「ラーデル君の働き次第では、領主様から良い装備を下賜されるだろう」

「貴方は随分とその子に入れ揚げているのですね」


 ルベルタスの奥方の目は冷ややかだ。


「うむ、年は若いが戦場では素晴らしい戦働きをしておってな、儂直々に招いて来たのだ」

「我が家の利益になれば良いのですけれど」

「うむ、それは間違いないだろうと期待しておるのだぞ」


 明日は領主様に挨拶をして顔繋ぎをする予定らしい。

 領主様との挨拶が終れば、騎士団に紹介をするらしい。

 その後は側近としての教育や訓練が待っていると聞かされた。


 やはり上級貴族の側近ともなれば、言葉遣いや礼儀・行儀が必要になる。

 冒険者と違って堅苦しくなるのは、やむを得ないだろう。

 食事の後、俺は明日に備え寝室に案内されて行く。

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