第18話 対魔王軍戦

 翌日、城の庭に集まった戦士団は、馬に騎乗した騎士達と共に国境線へ進軍を開始した。

 街の大通りの両側の家々から歓声が揚り、送り出される軍団を後押しされる。

 行軍中にも太鼓の音が響き、戦う意欲が高まってくる。


 ……ちょっと待てよ、作戦会議はいつやるんだ?

   それとも戦地に着いてから指示が来るのかな?

   もしや俺達冒険者軍団は肉の壁にされるんか?


 生前の記憶で戦国武将の戦いは、最前線で互いの足軽の槍の叩き合いで始まったという。

 俺は兵士でもなかったし、そんな戦い方経験した事無いぞ。





 やがて魔王軍が見えてきた。

 尾根の向こうから、街道沿いに溢れるように集まっている魔物・魔獣・魔族の混成軍が布陣している。

 総数はこちらより少なそうに見えるが、尾根の向こうの本隊の事までは解らない。


 こちらも横に広がるように進軍して、両側に騎乗した騎士団が控えている。

 中央部が戦いを始めたら、機を見て両側から包み込む作戦なのかも。

 長距離攻撃が可能な弓手や魔術師は後方支援に回された。

 デルハイケとヘルミーネとはここで分かれる事になる。

 つまり、やっぱりと言うか、俺達は最前線で戦う足軽の役割だ。

 いつだって偉い武将は初っ端から、最前線に飛び出さないのが定石のようだ。


 プオーーーー

   プオーーーーー

     プオーーーーーー


 角笛の合図で戦争が開始される。


 ワーーーーーーーーーー

   ワーーーーーーーーーー

     ワーーーーーーーーーー


 戦争の事を英語で『War』って言うのはこう言う事だからかな。

 先ずは両軍から矢や魔法攻撃の応酬が始まる。

 接敵するまでの少しの距離がある内に、互いに少しでも戦力を削ろうという事だろう。

 矢や魔法が尽き始めた頃、最前線で戦闘が始まる。


 魔物や魔獣をけしかけ、剣や槍で向って来る魔族は多少強い。

 魔物や魔獣は今まで倒してきた覚えの有る種類が多い。

 腕に覚えのある冒険者達は、押し負ける事無く戦える。




 俺達はしばらく目の前の敵を倒し続けたが、一行に敵の数が減る様子が無い。

 尾根の向こうの本隊から、次々に新手が現れる。

 そればかりが、魔獣も段々と強いのが出て来る様になった。

 限が無い消耗戦だ。


「これは拙い展開だな」

「こちらが疲労するのを誘うような戦い方だと思う」


 このまま延々と戦闘が続けば、疲労した前線が破られる危険性が高くなって来る。

 敵の魔獣の中には、トロールなど大型なのが混じり始めている。


「尾根の向こうの本隊を叩ければ」

「誰がそんな事を出来る、目の前を敵に皆精一杯だぞ」


 辺りを見渡せば、両側に控えていた騎乗の騎士団も乱戦の真っ最中だ。


「尾根の向こうが見える所まで行けれれば、俺の取って置きの魔法を使えると思う」

「ラーデル君、まだ秘密の魔法が有るの?」

「うん、たぶん、危なくてまだ使った事が無いけど」

「よし、私とルグリットがラーデル君を護りながら移動する」


 乱戦の真っ只中、命令系統なんてグチャグチャだろう。

 そんな中、三名の冒険者が移動を始めても、誰も気に止められる余裕は無いだろう。


「あうっ! 痛てえなこのやろー!!」

「任せろ!」

「ルグリット!」

「いいから、走れ!」


 敵を斬り斃しながら、尾根の切れ目が見える位置から上を目指す。

 乱戦の中を縫って走るから、なかなか全速力で走れない。

 敵味方の剣や牙、爪を斬り払いながら無理やり進む。


 グオオオーーーーーーン


「手負いのトロールだ!」

「ラーデル君、先に行け、ここは私達で食い止める」


 ロザベルとルグリットがトロールに向って走っていく。

 二人とも傷だらけで、満身創痍まであと少しじゃないだろうか。

 彼女たちにとってトロールはかなり重荷になるだろう。

 完全に力負けをし、叩き飛ばされては歯を食いしばり魔獣に向っていく。


「ロザベル達、頼みます」


 彼女達が心配で気になるが、尾根の上に出る方が重要だ。

 今のままじゃ、消耗戦の末に押し負ける可能性が強い。

 俺は草や木々に苦戦しながら、追手に気を配りながら一人登る。







 そして何とか頂上付近まで上りきった。

 案の定、尾根の向こうには俺達の総数より膨大な兵員が控えているのが見える。

 俺達の三倍か、四倍か。

 やはり本隊を殲滅しなければ、消耗戦で負ける。



 俺の取って置きの魔法、それは炎の魔法をとことん圧縮した爆発系の魔法だ。

 持っている魔力が大きいから使うだけ使って、ガンガン圧縮していく。

 もう何百倍圧縮しただろうか、圧縮しまくって銃弾サイズに押し固まった魔力の塊を確認し、魔族本隊の中心にその炎魔法をぶっ放す。


 ピカッ


 ドゴーーーーーーーーーーーーーゴゴゴゴゴ


 次の瞬間、巨大で強烈な閃光が爆熱風と共に急激に広がっていく。

 正に核爆発だ、後から音がついてくる感じがする。

 つまり、音より早く爆熱風が広がって行ったと言う事だろう。

 上空には光り輝くキノコ雲が、石礫を撒き散らしながら立ち上っていく。

 尾根の頂上付近にいた俺は、爆風で吹き飛ばされ気を失った。



「何だあれは」

「魔法攻撃か?」


 爆発の音で閃光を見た多くの者達は、敵味方を問わず強烈な光で目を焼かれ失明した。

 そして増援のなくなった魔王軍は、まだ無事な冒険者達と騎士団により掃討され壊滅され始める。





 魔王軍掃討戦は一時間ほど続き、討伐軍が勝利した、





 戦闘が終って後、負傷者達は浅い深いを問わず集められ、治癒魔法を掛けられ癒されていく。


「mass-crimsonはいるかー?」

「はーい、ここに居ますー」


 気絶から目が覚め、ヒーリングを掛けられている俺は手を挙げ返事をする。

 騎士がヘルミーネを連れて俺の下に来る。

 しかしヘルミーネの目には包帯が巻かれ、目を負傷している様子。


「ヘルミーネ!」

「良かった、ラーデル君が生きていた」


 目に包帯を巻かれたヘルミーネの手をとり俺は聞いた。


「他の人は? ロザベルは? ルグリットは? デルハイケは?」

「ここにも居ないのですね?」


 ここにも?

 その一言で凍りつく。

 どうやらヘルミーネは仲間を探していたようだけど、見付かったのは俺だけという事なのか?

 ポルダ村での悲劇時に味わった似たような混乱した嫌な感情が蘇って来る。


「ラーデル君、私は目が見えなくなっちゃったの」


 戦闘中に爆発の強烈な閃光を見たのか。


「だから、もう冒険者、続けられなくなっちゃったの」


 どれほど焼かれたのか、ヒーリング魔法で治らないようだ。


「もっと強力なヒーリングを掛けられれば……」

「ここにはそれほどの魔術師はいないようです」


 眼球ばかりか、焼き切れた視神経まで治す方法を俺は知らない。

 当然、死者蘇生なんて事も出来ない。

 この戦争をもってmass-crimsonは解散するしかないようだ。


「先ずはノリッチに帰ろうか」

「そうですね」

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