第17話 領主クエスト発生

 今日はどういう訳か、冒険者ギルドの前に人だかりが出来ている。


「何が起こってるんだ?」

「領主様から大掛かりなクエストが発布されたらしい」

「大掛かりなクエストだって?」


 領主様直々の依頼と言うか、命令のようだけど、立派にクエスト扱いだ。

 普段よりも良い報酬になるし、場合によっては領主様に兵士として召抱えられるチャンスだ。

 目の色を変えない冒険者はまずいない。


 にも拘らず躊躇する冒険者もいる。

 領主直々のクエストという事は、普段の依頼より難易度が高いという事になる。

 冒険者ギルドの高ランクの者には拒否権は無いらしい。

 

 ふと横を見ればmass-crimsonの面々は目を輝かせている。


「ロザベル達はクエスト受けるの?」

「当たり前じゃない、領主様直轄の兵士になれるかも知れないんだよ?」


 どの道ギルド上位ランクパーティーに拒否権は無いらしいけど。

 前世を知ってる俺にしてみれば、縁故で固められた会社に就職出来るかも。

 と言われてるように聞こえる。


 俺には王侯貴族=ブラック企業というイメージがある。

 王侯貴族側ならともかく、そもそも平民が貴族階級の騎士に仕える兵士になるだけだろうと想像出来るけど。

 身分制度のある社会で、常識的に平民は貴族にはなれない。

 こんな世界だから一般兵士に、福利厚生なんて期待出来無いだろうし。

 実際、専制君主国家で評判の良い国って、この世界にいくつあるだろう。


 募集に応じた冒険者は、兵役に無理やり取られた農民じゃない。

 少なくとも募集に応じた冒険者に、それなりの旨みはあるのかも。


 ロザベル達にとっては、それなりのステータスを得られるチャンスと言っていた。

 出身が定かじゃない有象無象の冒険者が、領主様直属兵団の一員という市民権を得ることが出来る。

 今まで聞いた事が無いから、ロザベル達が元はどういう人達なのか解らない。

 だけど冒険者をする位だから、碌な者じゃないだろう、それは何となく解る。


「それでクエスト内容はどんなの?」

「今聞いてみる」


 ロザベルの聞いた話しによれば、国境付近に魔王の軍団が現れたらしい。

 冒険者たちは領主様の騎士団と協力して、魔王軍を押し返す戦いに参戦する事になるとか。

 功績次第で騎士の目に留まる可能性が高くなる、そうなればヘッドハンティングのチャンスが来る。

 そしてmass-crimsonは今では銀ランクAレベルの実力の持ち主だ。


「騎士団に協力するんだから大丈夫だって」


 ルグリットが言うには、騎士団の実力は金ランクと同等らしい。

 それ位有れば大型の魔獣を相手にしても引けを取らないとか。






 ノリッチを出発する俺達冒険者団は23パーティー揃った。

 1パーティー4~6人だから結構な人数が揃った事になる。

 一端領主様の城に集合して、領主様の話を聞いた後休憩し、次の日に出撃するらしい。


 領主様が直轄するヴェルストまでは、馬で一日の距離らしい。

 当然、徒歩で移動する俺達は、もう少し時間が掛かる。

 馬車を持っているような金持ち冒険者なんてそんなにいないのだ。


 さすがに領主直轄の街はノリッチより大きな街だ。

 街門を潜った辺りで、冒険者の姿を多く見るようになってきた。

 彼らは冒険者ランクが低いのか、参戦する感じがしない。

 大通りを北方に長らく歩いていると領主様の城が見えてくる。


「お城だ!」

「ラーデル君は城を見るのは初めてなの?」

「村より大きい街はノリッチしか知らなかったもんで」

「意外と田舎者ですね」

「あははは」


 どうやら皆はあちこち流れて、大きな街にも来た事があるようだ。

 そういえば街を潜ったときにも、皆は驚いている様子が無かったっけ。


 城門は今日の為に開かれている様子。

 門番の姿はあるけど、すんなり通してくれる。

 門の向こうは広場になっているようで、ここに出撃に備える冒険者が集まっている。


「他の街にも募集が掛かったみたいだね」

「それほど大規模な侵略があるのか」


 騎士団の姿はまだ無いから、明日には集合するんだろうな。

 小一時間ほど立ち話をしながら待っていると、ファンファーレの音とともに城のバルコニーに領主様たちの姿が現れた。

 従者や騎士に囲まれ、中央の椅子に座ったのが地方領主エルコッベ伯爵のようだ。

 声明を出すのは、領主様の横に控える騎士団長のような騎士だ。


 領主様の登場に静まり返る広場の冒険者達。

 城のバルコニーから庭中に響く大声で、騎士団長が声明文を読み上げる。


「冒険者の諸君、呼び掛けに応えてくれた事をありがたく思う。国境付近に進軍して来た魔王軍を我等は掃討に向う。魔族軍の数は多い、魔王軍は大群ゆえ容易ならぬ戦いになるであろう。故に我ら騎士団だけに収まらず有力な冒険者である諸君等の力が要る。魔王軍に我らの領地を荒らされてはならぬ、人里に被害が及ばぬように国境で迎え撃つ。冒険者の諸君等と共に我等は必ず勝利するであろう、明日二の鐘と共に出撃する、今日の所は英気を養っておいて欲しい、エルコッベ伯爵様の言葉は以上である」


 騎士団長の声明が終ると、気勢を上げるために冒険者達によりときの声が庭中から上がる。


 おおおおおおおぉぉぉぉーーーーー!

   おおおおおおおぉぉぉぉーーーーー!

     おおおおおおおぉぉぉぉーーーーー!


「うー、力が漲って来るようだ」


 ロザベルもルグリットもデルハイケもヘルミーネも俺もときの声を上げ戦勝気分を盛り上げる。


「魔王軍なんて押し返してやる」

「私の相手になるような魔物なんているかな」

「負ける気がしません」

「片っ端からあたしの弓の餌食にしてやるわ」


 明日朝の進軍に備え、城下町の宿に一泊する事になる。

 領主クエスト発生中だからなのか、冒険者には宿代が割引になると聞いた。

 ひょっとして街中にたむろしていた冒険者はこれが狙いか?

 宿の食堂では、つぶれない程度に酒を呑んで気勢を上げる冒険者も多い。


「皆タフだね」

「冒険者ってあんなものだよ」

「とにかく呑まなきゃ一日が終らないからね」


 前世のサラリーマンだったら、一日の仕事をやり終えたって所だろうけど、

 冒険者にとっては、一日を生き延びたという意味になるに違いない。

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