第16話 ノリッチの日常2

 今日もハントが終わり宿屋で寛ぐmass-crimsonの一行。


「今日の稼ぎも中々でしたね」

「ああ、道具の手入れもしなくちゃね」


 剣士のロザベルとルグリットは剣や槍の刃先を石で擦って研いで行く。


「デルハイケとヘルミーネは手入れしなきゃならない道具が無くて良いよな~」

「何勝手な事を、あたしだって弓の弦を交換しなくちゃならないんだよ」

「そっか、じゃあ道具の手入れが要らないのはヘルミーネだけか」

「しかし、皆さんの道具、大分ガタが来始めていますね」


 武器という物は割と消耗品だったりする。

 狩りで戦闘を何度も繰り返せば、剣や槍は脂や血がついたり、錆の手入れを頻繁に行わなければならない。

 柄にガタが来ないように、刀身と柄が一体に造られている武器は多い。

 しかし、戦闘が終わり、血や油を石で研ぎ落とす事を繰り返せば傷みも早い。

 弓も段々弦が痛んでくる。

 弓は弦を代えれば良いが、槍や刀剣は簡単にはいかない。

 時々鍛冶屋で打ち直したり、専門の砥ぎ師に頼まなければならないのだ。


「私達の武器もそろそろ打ち直しがいりそうだよね」

「きっとラーデル君の剣もガタが来始めてるんじゃないかな」

「じゃあ、明日は皆で鍛冶屋へ行こうか」

「そだね、ついでの武器屋を覗くのも良い」




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「ラーデル君、今日は鍛冶屋に行こうと思うんだ」

「そろそろ君の道具も限界なんじゃない?」


「そう言われれば、そうですね、俺の剣は安物だし」


「なら、剣を買い換えてみたら? 資金はそれなりに貯まってるし」

「良いんですか?」


 買い替えの話しが出たから、鍛冶屋の前に武器屋に行く事になった。


 貴族をお得意さんに持つような大店はきれいに整然としているけど、 冒険者相手の武器屋はどこと無く骨董屋のように雑然としている。

 店主が武器に拘りを持つような頑固親父だった場合、良い武器が揃っていたりする。


「ほー、大きな剣が有るねえ」


 グレートバスタードソードとかツヴァイヘンダーZweihanderという剣は刀身が180cmあるのも存在する。


「そのグレートバスタードソードは特注品でな、普通の物より刀身が幅広になっている」


 そんな特注品だから、他の物よりかなり重量が有る。

 相当な膂力がないと扱えないだろ、並みの人間には扱い難そうだ。


「ラーデル君なら扱えるんじゃない?」

「ラーデル君はまだ身長が足りないし、狭い所でそんな大きな剣は扱えないでしょ」

「それもそうだね」


 大きな剣は見栄えがするけど、実用的じゃない。

 戦場で騎士が扱うならともかく、狭い所へ行く事が多い冒険者には不向きな剣だ。

 それはハルバードのようなバトルアックス大戦斧も同じ。


「このファルシオンFalchionならラーデル君に向いてそう」


 ファルシオンFalchionは重量で相手の鎧を叩き斬ることを目的とした剣だ。

 大きな魔獣や硬い魔獣に有効にそうに見える。


「丁度良い、ラーデル君に奮発しちゃおうよ」

「戦力増強にも良さそうですしね」

「それはラーデル君にとってどうかと思うけどね」


 ロザベルはラーデルにファルシオンを買い与える事にした。


「ロザベル、良いかな、ぼくはこれが欲しいな」


 ルグリットはフランベルジェ波刃剣に目が止まった様子。


「そうだね、戦力増強を考えるとこれも良いかも」


 ついでにロザベルもバスターソードに決めたようだ。

 剣を打ち直すより、もう少し良い件を買い直した方が投資としてコストに見合うと判断した。


「ついでにチェーンメイル鎖帷子も買っておこうか」


 防具屋に向った一行は、全員鉄の胸当ての下にチェーンメイルを装着する事に決めた。

 少々重いと思うけど、プレートメイルより軽いし、命あっての物種だ。

 

「これで防御力も上がったね」

「ついでに武器を新調しなかったヘルミーネに、このラウンドシールドを持たせようか」

「良いのですか?」


 魔術師のヘルミーネも杖状のメイスを持っている。

 遠距離攻撃専門のヘルミーネだが、ある程度接近戦に備えている。

 ならば後一つ盾を装備しても良さそうだ。


 ……仲間って良いものだな、ソロじゃ味わえない安心感がある。




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 お互いが打解けてから、段々と心の距離も縮まって、今じゃ年上のお姉様たちにスキンシップで頭を抱え込まれてからかわわれる事も多くなって来た。

 未成年でまだ背も低い俺は、お姉様たちの格好の餌食だ、面倒見も良いんだけどね。


 そんな状態になるのは酒を呑むと、余計にひどくなる。

 特にロザベルとルグリットが酒癖が悪かった、陽気なんだけど。

 ヘルミーネは泣き上戸なのか、呑むほど静かになっていく。

 デルハイケは酒に強いのか、飲みつぶれるまで雰囲気は変わらかったりする。


「ラーデル君~、あんたいままで力隠しちゃって~~」

「そーらそーら、ぼくたちらってもっと強くなりたいぞ~~」

「うわ!うわ! や、止めて下さいよ~」

「キャハハハ、らぁ~め、ラーデル君分をもっともらわなきゃ」

「ううう……私にもラーデル君分を下さいよ~」

「わ~! 誰か助けて、」


「あんたら、ラーデル君がもみくちゃじゃないか、放してあげないと可哀想だよ」


 女将チェレーナがエールのお代わりを運んできて助け舟を出す。

 目が笑ってるから、微笑ましいのだろう。


 皆は酔い潰れるまで俺はモミクチャにされ続けたのだった。

 いくらきれいなお姉さんに抱きつかれスリスリされても、冒険者の彼女達で香水なんて着ける者はいない、むしろ体臭を移されそうで良い気分になれないのだ。

 中世ヨーロッパ風世界だから、皆風呂に入らないし。

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