第12話 ハンティング

 1kmほど歩いてノリッチ近郊の森に来た。

 クエストの名目は『害獣退治』だけど、鳥でも野獣でも魔獣でも狩れれば何でもOKだ。


「じゃあ、追い込む班と、仕留める班二手に分かれて行こう」

「ボクとヘルミーネが追い立て役ね」


 ルグリットとヘルミーネが組んで音を立てるようだ。

 俺とロザベル、デルハイケが迎え撃つ班になった。


 ポルダ村の時もそうだけど、皆が森の中をゾロゾロ歩いていても、獲物は人の気配で逃げるだけだ。

 だから獲物が逃げる方向を待ち受け班になるように、離れて派手な音を立てながら、待ち受け班の方へ進む。

 待ち受け班は追い立てられて逃げて来る獲物を狩るのが仕事になる。


「さあ、ラーデル君の腕前を見せておくれよ」


 ロザベルが不敵に笑う。


 ……まあ、こういう狩りも俺は初心者じゃないから大丈夫だし。


 今まではソロだから、森に入って手当たり次第に狩っていた。

 当然、一人じゃ手に余るような獲物には手が出せなかったけど。

 さすがに複数の熊なんて手に余る。

 今回からはパーティーだから大丈夫かも。


 しばらくして遠くの方で火の玉が上がり、騒がしい音が始まった。

 やがて森の中が獲物の移動で、騒がしくなり始める。


「そら来た、ぬかるなラーデル君!」

「よっしゃ!」


 上空には鳥が飛び立ち始める。

 取り合えず小物は無視だ。

 デルハイケも無駄に矢を撃たないで前方を凝視する。




 こちらに逃げ込んできた野犬や兎を矢と剣で仕留める。

 仕留めても、すかさず次の獲物に意識を向ける面々。


「ほう、手馴れてるじゃないか」


 デルハイケは感心するが、次の獲物の気配が近づいてくる。

 今度は鹿と熊が二頭。

 俺は二人に鹿を任せて、熊に対峙する。


「あ! バカ、一人で熊に向うな!!」


 走ってくる熊を俺は拳でパンチを入れ、怯んだ熊を蹴り飛ばし気絶させる。

 すかさず、もう一頭の熊の首を抱え込んで、思い切り締め上げ、首の骨を折る。動けなくなった熊を後に、もう一頭の熊に止めを指す。


「なんだって! 熊を二頭も」


 驚くロザベルとデルハイケ。


 熊なんて獲物は剣でも簡単に倒せる獲物じゃないのだから。

 とにかく強靭な筋肉と厚い毛皮は致命傷を与え難い。

 更には人間を上回る運動神経と重量、凄まじい力がある。

 素手で熊を相手に出来る人間は殆どいないはずだ。


「まだ来るぞ!」


 今度は大きな鹿が二頭。

 俺は剣で鹿の脚を薙ぎ払う。

 もう一頭の鹿は、ロザベルとデルハイケが仕留めた様子。

 脚を切断され、もがく鹿に俺は止めを入れる。

 森からは小動物がいくつも出てくるが、小物は無視をする。


「凄いじゃないかラーデル君」

「あんたがこれほどの腕前だ何て知らなかったよ」


 やがてルグリットとヘルミーネが森の中から現れた。


「どうだった?」

「ラーデル君は凄かったよ」

「ラーデル君が?」


 狩った獲物を見渡せば、熊二頭、鹿三頭、狼四匹、兎五羽。

 これは一人で一度に狩れる数じゃないな。


「ラーデル君を入れて正解だったようだね」

「熊を二頭もラーデル君が斃したの?」

「信じられない……」

「魔法も使わないのに凄いですね」


 どうやら彼女達でも、これほどの獲物は狩れないらしい。

 ましてや熊なんて全員でかかって倒せるかどうかだと言う。


 少し日も傾き始めたので、俺達は倒した獲物を荷車に載せ街に帰還する。

 数々の獲物は冒険者ギルドで換金した。

 均等に分配した報奨金は、一人金貨一枚銀貨五枚になった。

 当然、ギルドレベルは加算される。


「今日は良い稼ぎになったね」

「私らは拠点の宿に帰るけど、ラーデル君はどうするの?」

「僕はどこかで夕食をして修道院に帰ります」

「修道院に泊まってるの?」

「一人ぼっちの未成年じゃ、どこの宿も泊めてくれなくて」


 皆は気の毒そうな顔で俺を見た。


「ラーデル君は行く所が無かったんだ」


 そもそも冒険者なんて根無し草なのが多い。

 冒険者なんて家庭のある者がやる物じゃない。

 家庭のある者は冒険者じゃなく、ハンターになるか街での仕事に就く者が殆どだ。


「じゃあ、私らの宿に来ないか?」

「パーティーメンバーなら一緒に泊まれるだろう」

「そうそう、メンバーなら一緒にいる方が何かと都合が良いし」


「そうですね、じゃあ有り難く一緒させてもらいます」




 俺は修道院に退去して宿屋に移る事を伝えた。


「良かったですね、仲間ができて」

「困った時には、また何時でも頼って良いのですよ」


 今まで俺の素行は悪くなかったせいか、修道院長もシスター達も親身になってくれる。

 幸いにも修道院が祀っている神から神罰はないようだ。


「その時にはまた宜しくお願いします」


 俺はお礼に再び幾ばくかの寄付金を納め、修道院を出て行った。




 世の中は狭いと言うか、彼女達の拠点の宿屋は、俺に食事をさせてくれた親切な女将さん、チェレーナの宿屋『ピーアニー亭』の三階だった。


「おや、ラーデル君あの人達と仲間になったんだ」

「はい、やっと女将さんとの約束を果たせそうで」

「贔屓にする約束だったね、よく守ってくれたよ」


 街の屋台で買い食いすることも多かったけど、この宿で食事をすることも多かったっけ。

 一応男性の俺は、彼女達の隣に部屋を借りる事が出来た。

 女将さんによれば、冒険者の彼女達『mass-crimson』は常連さんだとか。

 ノリッチに滞在するたびに、『ピーアニー亭』を常宿に決めているらしい。


 『mass-crimson』はこの宿を拠点として、冒険者ギルドの依頼を次々にこなして行った。

 帰って来ては、宿で一日の反省会や方針を話し合い、食事をして一息つく。

 やっぱり仲間がいるって安心感が違うな。

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