第13話 ラーデル君
今日は皆、ギルドや食事中に話すだけ話したから、今更反省会しようという気分じゃないようだ。
ラーデルは宿の部屋に篭っている。
明り取りに一応程度の窓はあるけど、ベッドと木箱以外に調度品は何も無い。
冒険者が泊まる安宿じゃあ、こんな物かもしれない。
広くて数人寝起きする部屋か個人部屋という区別があるくらいだ。
ラーデルは一人ベッドで横になり、目を瞑っている。
眠っている訳じゃなく、イルデストと思考会話を始めている。
脳内に届くイルデストの言葉に、一々言葉を口に出す必要は無いらしい。
……イルデスト、以前ブレスについて教えてくれるって言ったよね?
《ああ、ドラゴンブレスね、あれは魔法なんだ》
イルデストは魔素を魔法陣の形にイメージングして、口の前に作らなければならないと言う。
……どういう魔法陣を描けば良いんだろ。
《イメージを送るけど、覚えていられるかな?》
それは無理っぽい。
一度だけ見せられて、目の前にクッキリ描き出すなんて出来る人いるんか?
一度だけ見聞きして、完璧にこなせる人はいないと思う。
《そうだろうね、本当に必要な時が来れば、ある程度僕がサポートしなければならないようだね》
……その時は頼む、イルデスト。
《はいよ、でもそのうちには覚えた方が良いよ?》
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一方別室の『mass-crimson』の面々。
「今日の狩り、ラーデルは凄かったよね」
ロザベルはラーデルの活躍に衝撃を受けた。
「私らは見てないから何とも」
ルグリットとヘルミーネは現場を見ていないから、どう凄かったのか解らない。
「そう、あれはまるで人外の力と言うか」
色々腑に落ちないデルハイケは、ラーデルが人じゃないかもと言い出した。
「普通の成人前の男子にしては、出来すぎな感じは有りますよね」
ヘルミーネも何となく何かを感じるようだ。
「ラーデルは何者なの?」
皆が聞いたのは何者かに襲われ消滅した、ポルダ村の生き残りという事だけだ。
「ラーデルの力は異常だと思うの」
「もっとラーデルの事、知る必要がありそうね」
「私が呼んできましょうか」
「うん、頼む」
ヘルミーネは隣の部屋のラーデルを呼びに行った。
「ラーデル君、良いかしら?」
「あ、はい、どうぞ」
「皆で君の事、もっと知りたいと思ってね」
「はい、わかりました」
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初めて女子部屋へのご招待だ。
しかし、ここは宿屋の一室、自分の部屋と大差の無い簡素な部屋だ。
ベッドに座るロザベル・ルグリット・デルハイケ・ヘルミーネの視線が集中する。
LOVEな感情じゃなく、疑念の感情がこもった視線だ。
「単刀直入に聞くけど、ラーデル君、君は何者なの?」
ロザベルが先ず聞いてくる。
「ポルダ村の生き残りと説明したと思うけど……」
「ポルダ村で村人だったの?」
「そうですよ?」
「私にはその話し、素直に聞けなくなっちゃったんだ」
デルハイケは膝にひじを置き頬づえ死ながら話す。
「単なる村人が素手で熊を倒せる訳無いじゃん、しかも二頭も」
「ああ、あれは身体強化魔法で」
俺は咄嗟に嘘をつく。
「身体強化魔法? そんな魔法聞いた事無いですよ」
「ラーデル君が呪文唱えてるのも、聞いた事無いけど?」
「だって、無詠唱だから」
「無詠唱魔法ですって?」
ヘルミーネが目を剥いて驚いた。
魔術師であるヘルミーネは身体強化魔法なんて聞いた事が無いし、無詠唱魔法なんて伝説か御伽噺くらいでしか聞いた事が無い、もはやフィクションの世界だ。
「何で只の村人が、無詠唱魔法なんて超高度な魔法が使えるのさ」
「それは亡くなった爺ちゃんから……」
彼女達に実は人化したドラゴンでしたなんて言えないだろう。
少なくとも人の住む所に亜人種の姿を見た事が無い。
ドラゴンがどういう存在か想像は付く。
そんな中で正体が知られたらパニックになるに違いない。
皆は亡くなった爺ちゃんなんて言い訳を、信じられないという顔をしている。
「まあ取り合えずだけど、得体が知れなくなっちゃったけど、ラーデル君は仲間になったんだよね?」
「そうですよ、俺はもう皆さんの仲間ですから、味方です」
「うん、まあ、敵じゃないってのは助かるよね?」
「何か釈然としないけど、今は敵じゃない事を信じよ? 皆、ね?」
「ラーデル君、無詠唱魔法ってどうやるの? 身体強化魔法ってのも教えてくれる?」
ヘルミーネは魔法について興味津々の様子。
「先ずは目を瞑って意識を自分の体内に向けるんだ、魔力を感じるでしょ?」
「…………うん」
ここまでは聞きかじった知識だ。
「その魔力を筋肉に纏わせるんだ、それが身体強化魔法ね」
これは嘘だ。
最初から出来ないだろう事を、最もそうに語った。
「うーん、上手くいかないですね。 それで無詠唱というのは?」
「たった今、ヘルミーネさんは魔力を無言で操作したでしょ? つまりそういう事」
これもいい加減な事を言った。
いや、半分はイルデストに教わって出来るようになったんだっけ。
元々の能力パラメータが高いのも影響してるだろうけど。
「そうなんだ。 少し解った気がします」
……おぉ、嘘に納得してくれたようだ。
ヘルミーネ以外の人達は魔術師じゃないから、良く解っていない様子。
いや、自分でも解らないんだけど。
「つまり、ラーデル君の正体は魔法剣士だった、て事かな」
「その若さで魔法剣士ってのは信じられないけど」
「魔法を見せてくれたら、もう少しは信じられるかもね」
腕を組んで考え込んでいたルグリットが言う。
「そうですね、私も実際にこの目で見たいです」
「それは流石に室内じゃ無理でしょうね」
デルハイケの意見で、街の外で魔法実証をする事になった。
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