第7話 ポルダ村、発展する

 俺が考案した椅子は村人達がどの家でも作り始めた。

 何せ毛皮を売るより良い収入になりそうだと判ったからだ。


「この椅子が銀貨一枚ねえ……」

「行商人に売るんじゃなく、俺達が街へ持って行って売れば、もっと高く売れるんじゃないか?」

「おう、それは良い考えだ」


 男たちは馬車に椅子を積んで街で売ってみる事にした。

 街では顔見知りの商人に、一つにつき銀貨二枚で売れたようだ。

 ジョナード父ちゃんもロレリー母ちゃんもホクホク顔だ。


「これで俺達の村は裕福になりそうだな」


 俺は次のプランに取り掛かろうと思う。





 先ず木枠を作った。

 この木枠に泥を詰めて日干し煉瓦を作る予定だ。


 最初はロレリー姉ちゃんと二人で地面を掘り返し始めた。

 その様子を見た近所の子供達も参加してきた。

 もっと木枠を作らなくちゃ。



 日干し煉瓦はかなりな数を作る事が出来た。

 今度は日干し煉瓦を焚き火で焼いてみる。

 焼き固められたレンガはかなり丈夫になるはずだ。

 結果、焼き固めたレンガは、建築資材として街でよく売れた。


「ラーデルは色々思いつくんだね」


 ビッキー姉ちゃんは感心しているけど、まだまだこれからだ。

 レンガを斜面に並べていく。


「今度は何を作ってるの?」

「登り窯を作ろうと思って」

「登り窯?」


 そう、窯があれば炭を作る事が出来る。

 中ほどに木材を並べ、入り口で火をくべる。

 窯の中で炎の熱気は窯の中を上昇し、木材を燻し炭化させる。

 その炭化した木材が炭という燃料になる。


「これが炭だよ」

「木の燃えカスじゃない」


 試しに家の竈で炭を使ってみた。


「火力が強いわねえ」


 ロレリー母ちゃんはしきりに感心する。

 薪より火付きは良いし煙も出ない、高温の火力を得られる。

 上質の燃料は料理時間を短縮し、暖房効果も上々だ。

 

この炭もよく売れる事になり、炭焼きは村の老人の仕事になった。

時々火の具合を見たりする程度の仕事だ。

年がら年中ボサッとしている人でなければ勤まらない。






 ……次はプラン3、陶器に挑戦だ。


 粘土を成型するのに轆轤ろくろが欲しいな。

 石の台の上で木製で良いから回せるテーブルをジョナード父ちゃんに作ってもらう。


「こんな物、何に使うんだ?」

「こうするんだ」


 俺は轆轤ろくろの上に粘土を置いて回しながら器を作っていく。


「ほう、面白い物だな」


 出来た器を乾かして登り窯で焼く。

 これだけじゃ素焼きの器だ、もう少し色気が欲しい。

 灰を水に溶いて、器を潜らせ、再び窯で焼く。


「陶器の完成だ」

「ほう、これは良い食器になるな」

「これも街で売って良いのか?」


 今までは木製の食器を使っていた。

 おそらく街でも大差無い文化レベルじゃないだろうか。

 案の定、街で高値で売れた。


 木製の食器と違い、水洗いがし易い。

 木製食器では油料理に使うと、染み込んですぐに使えなくなる。

 陶器の食器なら、油を拭取ればそれで良いだけだ。

 今までに無い材質で高級感もある。






 街では『ポルダ村の陶器』『ポルダ村の炭』『ポルダ村の椅子』はブランド品になり始めたと言う。

 結構豪商からも引く手数多で、高価な物になり始めている。

 需要に対して、生産量が限られているから値段も上がる。

 それでも欲しがる裕福な家庭は街に多い。


 陶器も椅子も上流階級のステータス品になったようだ。

 炭に到っては、煙害の減少に一役買っている。

 薪を燃やすほど煙も煤も出ないのだから。


「ハッハッハッ、凄いじゃないかラーデルは」

「まったくだ、この村を豊かにしてくれたんだからな」

「ラーデルを村の要職に就けてやらねば」

「次にはどんな商品を考えてるんだ?」



 一年も経った頃、村は結構裕福になった。


 万事上々、どうやらイルデストは仕事をしていないようで何よりだ。

 今の所、何の災厄も無く良い具合に生活の質は向上している。

 俺の考案した物は街で高値で売れ、村は安定した収入が確保できた。

 事業の中心人物である俺は、村では重宝され、村長補佐という地位に就けた。






《いや、僕の出番はこれからなんだけど》


 疫病神イルデストは人知れずほくそ笑む。

 幸せが大きくなるほど、失う悲しさは比例する。

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