第8話 闇夜の襲撃者

 ポルダ村は豊かになり、生活水準も街並に向上した。

 誰もが良い事だと歓迎してくれる。

 俺もそれなりに満足だ。



 ポルダ村の村の中ではそうだった。



 少し距離をおく近隣の村々は、栄えるポルダ村に嫉妬と羨望の目を向け始めた。


「ポルダ村から技術提供をしてくれんか」


 他の村から、そういう事を言う使者が何人も来た。

 しかし、技術を教えるとポルダ村の利益を削られるだろう事は誰でも想像がつく。


「ポルダ村は自分達の努力で繁栄したんだ、利益を削る事は認め難い。

 あんた等も自分達で智恵を絞ったらどうだ」


「それが難しいから相談に来たんだ」


「ポルダ村じゃあ、あんた等の希望に添えそうも無いぞ」


「ちっくしょう、どうなっても知らないからな!」


 恨み言を吐きつつ立ち去る使者たち。




 イルデストが裏でどの様に働きかけているか知らないが、益々広がる富の格差に、他の村の意識は羨望から憎しみに変わっていく。

 どの村も広場に人が集まり怨嗟の声を上げ始めた。


「どうしてポルダ村ばかりが栄えるんだ」

「俺達は貧しいだけなのか」

「俺はもう我慢ならん、ポルダ村の富を奪ってやらねば俺達は生きていけない」

「そうだ、他の村も仲間に入れろ、一緒に襲うんだ」

「村落戦争だ! 武器も人も集めろ!」

「ポルダ村の奴等は許せねー!」

「村人どもー、武器を手に立ち上がれーー」

「おおーーーーー!」


 周りの村々総数1500人が野盗と化していく。

 一つの村でも女子供・老人達が参加しないから、戦いに行く男達の数はそれ程にはならない。

 しかし、そんな村々が集まった連合軍だから襲撃要員は増えるのだ。



 

 一軒の家にいくつかの村の村長が集まり、作戦会議に力を入れている。

 一つの村を攻めるにしても、正面突破の総力戦では味方側の被害も少なく無いだろ。

 ではどうするか、敵勢力の分散、気の緩んだ時刻を狙うために夜襲を行う案が出た。


「敵の村から少し離れた所で捕まえている魔獣を放ちましょう」

「良いアイデアだ、で、どこの村が魔獣を捕まえにいく?」

「俺達が請け負おう」

「良し、任せる」

「魔獣が出ればポルダ村の奴等の何人かは討伐に向うだろう」

「そいつ等を囲んで襲えば良い」

「後は俺達が火を放って火事と混乱を起せばいいんだな」

「火矢の準備はどうだ?」

「20本は用意できている」

「ポルダ村がパニックになったら、全員で総掛かりで急襲する」








 一方『ポルダ村』では――――――――


「村長、何だかキナ臭い空気が日毎に濃くなってるだな」

「そうだな……自警団を強化しておいた方が良いか」


 村の周りに張り巡らせた野獣避けの柵は点検・補修された。

 後は要所に自警団を配置されただけで終ってしまう。


「経済差が大きいんだ、こちらには余裕がある筈だ」


 暴動を経験した事が無い村長はそんなことを考えている。


「村長、考えが甘くないか?」

「なぁに、何か有ればこちらだって相応の戦力はあるんだ」


 村の要所要所には自警団が詰めている。

 夜襲に備え、篝火かがりびや呼子、武器の用意も万全だ。

 ラーデルも自警団員として夜の歩哨に当っていた。


 ピーーーーーーーー


 突如東南方向、森の中での方で呼子が吹き鳴らされた。


「何だ、敵の襲撃か!」


 他の歩哨とともにラーデルは呼子の知らせる方へ急いだ。


「魔獣だーーー、魔獣が出たーーー!」


 魔獣は馬ほどの大きさで、五つの頭を持ち四足歩行の奴が荒らしまわっていた。

 何と言う魔獣か知らないが、何でもかんでも食い荒らすらしい。

 そんなのが村に入ったら大変な事になる。


 ラーデル達歩哨の村人は五人いる。

 何とかこの五人で魔獣を斃さなければ。

 三人が剣を抜き、魔獣に斬りかかる。

 二人は弓で後方から支援する。

 しかし誰しもが精々獣狩りの経験しか無い。


「くそっ、何だこいつは」

「やり難い」


 いつもの獲物と大分勝手が違う。

 始めて見る異形の魔獣に止めを入れにくく、どうしても手間取ってしまう。

 五人の村人は四苦八苦しながら魔獣を討とうと頑張った。

 しかし背後の森の中から矢を射ってくる奴がいる。


「うっ!」

「ぐああぁぁ!」


 村人は一人、また一人と討たれて行くではないか。

 味方の誰かの流れ矢ではない、明らかにラーデル達に向けられている物だ。

 矢に倒れた者は次々と魔獣の餌食になっていく。


 ……これは不味い事になった。


 相手を見つけ難い夜の暗い森の中。

 ラーデル以外の村人は皆討たれてしまったようだ。

 もはやこちらに勝機は無い。


 ラーデルは逃げる事にした。

 仲間の村人は既に無く、見つけ難い敵から相変わらず矢が飛んでくる。

 何本かの矢はラーデルに当っているようだが、幸い傷をつけるに至らないようだ。


 ……何とか逃げ切り身を隠さなければ。


 草の中を走り、倒木の陰に身を隠し、段差を飛び降り、また走る。




 


 どれほど森の中を逃走しただろう。

 追手は無事に撒けたようで、追撃は無くなった。

 草の中に身を横たえ気配を消し、辺りの物音を聞こうと集中する。


 ……追撃者の物音はもう聞こえないな。


 今すぐ村へ帰ろうとすれば、また襲撃者に見付かるだろう。

 村が心配だけど、今すぐ動く事は危険だろう。


 ラーデルは草むらの中で睡眠を執り夜が明けるのを待つことにした。

 敵の策略なのか、ラーデル達は不意打ちを受け全滅したのだ。

 いくら見通しの悪い森の中でも、陽が出れば判る事もあるだろうと判断をした。

 不意打ちを受けた後だ、ラーデルにとっても建て直しの時間も欲しい。

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