第31変 行事の準備期間が1番楽しい、ことが多い

「さーて、何をするか早速作戦会議っしょ!」


 放課後の空き教室。

 その中でタピオカシオンは元気よくそう叫んだ。


「なにかしたい人いるー? なんでもいいよ」

「……はい」

「お! 杉野ジュースオレンジ、なになに〜?」

「ジュース……飲む……大会とか」

「うーん。よく分からないけど、楽しそう!」


 というか、今とても大切なことに気づいた。このチームには変な人しかいない。その証拠に作戦会議はどんどん難航していっている。


「玉に石灰を入れて、みんなに投げつけるのはどう? みんな白くなって楽しいよ」

「あー、普通に怖いからパスで」

「そっか。ねえ、平沢かぼちゃブラックちゃんは何かないの?」

「え、私? えっと、その、歌を歌ったり?」

「カラオケってこと!? まじいーじゃん!」


 このまま放っておくと、とんでもないことをやらかしそうだ。


「あ、あの。まずはコンセプトを決めるのはどうですか?」

「コンセプト?」

「何かテーマを決めておいたら意見がまとまりやすいんじゃないかと」

「いいじゃん、ナイスアイディア! うーん、コンセプトかー……」


 みんな一斉に無言になる。少し経つと、ジュースオレンジが何か閃いたような顔をする。


「……戦隊」

「せんたい?」

「戦隊モノ、つまりヒーローをモチーフにしたら……応援団にも……俺達にも……合ってる、はず」


 なるほど『ブルー』とか『オレンジ』というように呼び合っている、俺達にはピッタリなのかもしれない。


「めちゃくちゃいいじゃん!! サンセー! みんなは!?」

「僕も賛成だよ。ね、平沢かぼちゃブラックちゃんも、そうだよね?」

「あ、は、はい」

「俺も賛成です。じゃあ、次は何をするか決めましょう」

「はいはーい! この前みたいにさ、マントつけて自己紹介しようよ!」

「……決めポーズ……とかも……必要だよな……」


 コンセプトを決めたからか、何をするかの意見がどんどんと出てくる。


「あ、あの」


 そんな時、黙っていたかぼちゃブラックが声を上げた。


「ん? どうしたの、平沢かぼちゃブラックちゃん」

「戦隊モノって敵とかが必要ですよね。ヒーローだけだったら、物語が作りにくいんじゃ」

「なるほど。さすが、平沢かぼちゃブラックちゃんだね。その意見は出てこなかったよ」


 俺もこの考えは出てこなかった。確かに、敵とかがいた方がストーリーも作りやすいな。


「敵かー。じゃあ、この中の誰かが敵役をしないといけないってことだよねー。もち、リーダーはあーしでしょ」

「あ、あの、言い出しっぺの私が」

「駄目だよ。平沢かぼちゃブラックちゃんはヒーロー役ね」

「え」

平沢かぼちゃブラックちゃんのことだから、目立つヒーロー役は嫌なんだよね? 敵役は顔を隠す可能性があるから、敵役がいいんだよね? 僕は、だからこそ、平沢かぼちゃブラックちゃんにヒーロー役をして欲しいんだよ。ね、平沢かぼちゃブラックちゃんに拒否権はないからね?」

「ふぇ……」

 

 怖っ、この人。もはやサイコパスなのかメンヘラなのか分からなくなってきたが、とりあえずかぼちゃブラックが可哀想だということは分かる。

 って、それより、本当にどうするべきか。このまま、誰も名乗りでないなら俺がやるか。


「……俺、やる」


 そんな時、ジュースオレンジがぼそっと呟いた。


「ま? いいけど、杉野ジュースオレンジって演技できんの?」

「……一応」

「じゃあ、杉野ジュースオレンジが敵役ってことで。脚本はどうするー?」

平沢かぼちゃブラックちゃんでいいんじゃないかな。そういうの得意そうだし。ね?」

「は、はい。分かりました」

「衣装……とかは?」

「やっぱり、マントっしょ! あ、でも敵役の衣装はこだわりたいよねー。仮面とかもりもりに盛っちゃう!?」


 どんどんアイディアが膨らんでくる。

 一時間ほど話し、大方意見がまとまってきた。


「よしっ。大体のアイディアは決まったから、とりあえず今日はここまでにしよっか」


 タピオカシアンはそう言うと、ぐっと背伸びをする。


「……そうだな。もう……暗くなってきたし……」

「あ、それなら、俺、戸締りしときます」

「本当!? じゃあ、後はブルーに任せて、私達は先に帰っちゃおっか」

  

 先輩達は別れの挨拶と共にこの教室から出て行き、ついには俺一人になった。夜の教室に一人、だんだんと怖くなってくる。

 早く帰ろう。そう思い、荷物を持つ。


「ねえ」


 突如、後ろから声が聞こえてきた。反射的に体がビクッとなる。


「何よ。そんなに驚かなくてもいいじゃない」


 声の正体は小倉さんだった。


「す、すみません。えっと、何でまだ学校に?」

「応援団で何するか考えてたら遅くなったの」

「ほ、ほかのみんなは?」

「話し合いは明日からってことにして、今日は帰ってもらったわ」

「それじゃあ、小倉さんは、なんで」

「何で、って。一応、私がリーダーなんだから、他の人より遅く残って作業するのは当たり前のことでしょ」


 ……やっぱり、小倉さんはすごい人だな。


「あんたは? 何してるの?」

「さっきまで、みんなで何するか話し合ってました」

「そう。あんたのところは大変そうね」

「そう、ですね。今日も若干みんな暴走してたし……でも、結構楽しかったです」


 そう言うと、小倉さんは黙り込む。


「そんなに変なことって楽しいかしら」

「え?」

「今は楽しいかもしれないけど、人目に出たらただ馬鹿にされるだけよ」

「でも、それでもいいかなって。普通でも変でも、結局楽しかったらいいんですから。あ、馬鹿にする人も巻き込んでしまえば」

「なによそれ。そんな無茶苦茶なことできるわけないじゃない」

「いや、でも。えっと、ボランティアの時、みんなでてるてる坊主作ったの覚えてますか?」

「覚えてるけど、それが何?」

「最初はてるてる坊主は子供が作るもの、高校生になったのにてるてる坊主?って思いましたよね。でも、最後は俺たちも周りの大人の人も楽しんでた。だから、一回こっちにみんなを引きずり込んだらいいんじゃないかなって……」

「そんなの簡単にいくわけないわ。受けいられなかったら、一生馬鹿にされるだけよ」

「なら、馬鹿にされないように、みんなを巻き込んでみせます」

「はあ? 言ってることが全部無茶苦茶よ」

「そ、そうですか?」

「そうよ! 失敗すれば変人っていうレッテルを張られるのに、突き進もうとするその姿勢が意味分かんない。そもそも体育祭に来る人は何百人もいるのよ。生徒もあわせたらかなりの人数になる。それこそ、津久井晴翔だったらなんとか巻き込めるかもしれない。でもあなた達がそんなのできるわけないわ。……でも」


 でも?


「もし成功したら、絶対に忘れられない体育祭になるでしょうね」

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