第30変 普通VS変な人
小倉さんからL○NE?
『今どこ? ちょっと話せない?』
……なんで俺のL○NEを知ってるんだ。話のことも気になるが、まずはそこが気になる。ま、まあいい。早く返信をしよう。
『今は公園にいますが、どうしましたか?』
『どの公園?』
『
『分かったわ』
本当にここに来るんだろうか。
そもそも、日菜ちゃんと一緒にいるこの状況を知られたら、なんて言われるか。多分、いや絶対に罵倒される。
「お兄ちゃん? どうしたの」
「いや、その、小倉さんからL○NEが」
「お姉ちゃん? なんて言ってたの?」
「ちょっと話せないかって。それで居場所を教えて……」
「え! じゃあ、お姉ちゃん、ここに来るの!?」
「ああ。もう来てると思うぞ」
そう言うと、日菜ちゃんは突然焦りだす。
「寄り道したことがバレる! ごめんね、お兄ちゃん。先に帰るね。お姉ちゃんには私といたこと内緒だよ! じゃあね!」
「ああ。気をつけて帰れよ」
日菜ちゃんは俺に手をぶんぶんと振ると、足早に去って行った。
それにしても本当に小倉さんはここに来るのだろうか。……そもそも本当にこれは小倉さんなのか?
「えっと」
L○NEを開き、さっきのトーク画面を開く。名前は『志乃』、アイコンはモデルの人だろうか? 確か、小倉さんの名前は志乃だったよな。多分、これは小倉さんだ。じゃあ、なんで……?
というか、さっきの話を聞いたばかりでどんな顔したらいいのかが分からない。
「ねえ」
突然の声かけにびっくりする。顔を上げると、そこには小倉さんがいた。
「……来たばかりで突然だけど、単刀直入に言うわ。私、応援団を抜けようと思うの」
「え?」
「あの人と一緒に活動なんてできないわ。わがままを言われるだけなら、我慢できる。でも、人の気持ちも考えない人と一緒にいたくないの」
あの人? タピオカシオンのことか。
「私の代わりとして他にやってくれる人をちゃんと探すから、そこら辺は安心して。先生やクラスのみんなにも伝えておくわ」
それなら安心だ。……って、そうじゃない!
急に小倉さんに抜けられたら、この先どうしたらいいんだ。……でも、応援団を抜けたい気持ちもよく分かる。それに、小倉さんが抜けるのを止めるなら、それはもう自分勝手だ。
「応援団の人にはあなたが話してくれない? あそこに行ったら、あの人と会うかもしれないし」
「は、はい。分かりました」
そう言うと、小倉さんはじっと俺を見てくる。お面を被っているので表情は分からない。
「止めないの?」
「え?」
「私が応援団を抜けるの、止めないかって聞いているのよ」
「……止めません。俺に小倉さんを止める権利はありませんから」
やばい、ちょっと厨二病ぽいセリフを言ってしまった。普通に恥ずかしい。
「そう。それじゃあ、伝えるのよろしく」
小倉さんは足早に去ろうとする。
「あ、あの」
「なに?」
「えっと、一回だけでもタピオカシオンに会ってあげてくれませんか? 本人も反省してるみたいで、会って話がしたいって」
「……考えておくわ」
公園はいつの間にか誰もいなくなっており、辺りも暗くなりかけていた。
これで良かったんだよな?
そして、翌日。
いつも通り教室に入ろうとするが、今日はなにやら様子がおかしい。大勢の人が3組と4組の教室に集まっている。
「なんでしょうか?」
久保はそう言うと、人混みを分けて教室に入っていく。俺も久保に続いて教室に入った。
「ん?」
黒板が目に入る。そこには『至急、昨日の場所に集まるように! byタピオカシオン』と書かれていた。
えっと、タピオカシオンってあのタピオカシオンだよな? 昨日の場所はあの空き教室か? なんでわざわざこんなこと……。
「なにこれ」
いつの間にか隣にいた小倉さんが呟く。すると、急に俺の腕を掴んできた。人混みに揉まれながら、人気の少ない場所へ引っ張られるように移動する。
「あれ、どういうこと?」
「いや、俺もよく分からなくて」
「じゃあ、一体なんなのよ……。集まれって書いてたわよね? 昨日の場所に行けばいいのかしら」
「た、多分、そうだと」
「仕方ないわね。授業が始まる前に早く行くわよ」
俺達は空き教室に向かった。
教室に着くと恐る恐る扉を開ける。教室の中には応援団のメンバー全員がいた。みんな状況が分かっていないのか、不安げな表情を浮かべている。
「お、君たちも呼ばれたんだね」
そんな中、おでんイエローが話しかけてきた。
「先輩もタピオカシオンに呼ばれたんですか?」
「うん。黒板に『至急、昨日の場所に集まるように! byタピオカシオン』って書かれてたんだ」
「俺達のクラスにも書かれていました」
「そうらしいね。それにしてもタピオカシオンは何をする気なんだろね。すっごく興奮してきたよ」
……この人もやっぱり変わってるな。それより、俺達を呼び出した張本人はどこに行ったんだ?
「お待たせー!」
突然、扉がバンっと勢いよく開く。それと同時にタピオカシオンが飛び込んできた。
「みんな集まってくれてありがとねー。応援団の内容について話したかったんだよね」
「応援団の……内容? それなら……放課後でも……」
ジュースオレンジの意見に同様だ。わざわざ今、話さなくてもいいと思ってしまう。
「昨日、考えてたらすっごい良いこと思いついちゃったんだよねー。それで、放課後まで我慢できないなって思って」
「そのすごいことってなんだ!?」
ラーメンゴールドが目をキラキラさせながら聞く。
「それはね。今回の応援団で『普通と変』どっちがいいか決めようと思って」
……普通か、変?
「応援団の中で二チームに分けて、一チームは普通の応援団。もう一チームは変で変わった応援団。このどちらかに分かれてどっちが盛り上がるか対決式にしようってこと」
「ほお、やりたいことは分かったわ。そやけど、限られた時間で二回演舞するのはややこしいなちがう?」
「ん? もちろん、同時にやるっしょ。だってそっちの方が盛り上がるじゃん」
無茶苦茶だ、常識ではあり得ない。でも、なんでだろう。とても楽しそうだ。
「……私は反対です」
緩やかな雰囲気の中、小倉さんの一声で空気が一変する。
「応援団はみんなを応援するためのものであって、仲間同士で戦う必要がないと思います」
「うーん。確かに言ってる通りだけど……。でも応援団同士で戦ってはいけないっていう決まりはないよね? それに、くじで選ばれたあーし達も体育祭は楽しみたいじゃん? 自由でOKしょ!」
「なにもともあれ、私は反対です。でも、私にはもう関係ありませんね」
「……どーゆーこと?」
「私、応援団を抜けさせてもらいます」
みんなが一斉に小倉さんを見る。
「私にはここは合わないような気がします」
「ふーん」
「……なんですか」
「逃げるんだ。じゃあ、変の勝ちっていうことで」
「何が言いたいんですか」
「やっぱり普通はつまんないってこと」
小倉さんはタピオカシオンの前に立つ。
「今の言葉、取り消してください」
「私に勝ったら取り消してあげる」
「……分かりました。でも条件があります」
「なに?」
「私が勝ったら、あなたは一切変なことをしないでください。変なことができないのは最も辛いことなんですよね?」
「悪趣味だね。本当はあーた、性格よくないでしょ? でもその条件でいいよ。受けて立つから」
お互いに不気味な笑顔浮かべ、睨み合う。空気がピリピリしている。蚊帳の外である俺達はオロオロしながら、そんな二人の様子を見守っていた。
「っていうことで、私が変チームのリーダー。ホワイトが普通チームのリーダーっていうことで。で、みんなはどっちかのチームに分かれてもらうんだけど、それはみんなに自由に選んでもらうよー」
どっちのチームか自分で選ばないといけないのか。どうしようか迷うところだな。でも、普通は……。
「俺は普通チームに入る」
「ごめんね、七音ちゃん、じゃなくてタピオカシオン。私も普通チームに入るよ」
「ぼ、僕も。す、す、すみませ、ん」
「うちも普通チームに入るわ」
「……」
「俺様は変チームに入るぞ!」
「兄ちゃん、俺は普通チームに入るっすよ?」
「そうなのか!? じゃあ、俺様も普通チームに入るぞ!」
「えーと、私は……」
「
「へ、は、はい……」
「私はもちろん普通で」
「わ、我は運命の鼓動を辿りし……。えっと、私もゆんちゃんと同じ!」
話をまとめると、予想通り、ほとんどの人が普通チームの加入を望んでいた。
普通チームのメンバーは『レッド、グリーン、ブラウン、バイオレット、ゴールド、シルバー、グレー、ピンク、ホワイト』だ。あとの人はまだどちらか決まっていない。
「……俺は……変チームに……入る」
ジュースオレンジはポツポツと呟く。
「うーん、僕も変チームに入ろうかな。そっちの方が血肉が騒ぐって感じがするからね。もちろん、平沢ちゃんもこっちだよ?」
「え……」
変チームのメンバーは『オレンジ、イエロー、ブラック、シオン』だ。
「ブルーはどうすんの?」
そうか、俺も決めないといけないんだった。普通はみんなのように普通チームに入るべきだろう。でも、
「……俺は、変チームに入ります」
正直、変チームの方が楽しそうって思ってしまった。もちろん、普通の応援団も楽しいはずだ。でも、常識に囚われないほど楽しいものはない。
……ちょっと前までの自分なら普通チームを絶対に選んでたな。普通が正しいって思っていた。でも、あいつらと毎日を過ごして、変なことも楽しければいいやって思った自分もいる。余計なお世話かもしれないが、小倉さんにも『変』の楽しさを知ってほしい。
「じゃあ、そっちはそっちで自由にやってよろー。あーし達は放課後に話し合おっか」
そうして応援団の練習が始まった。
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