第17変 教室でスイカ割りをするなんて思ってなかった
「スイカ割りをしましょう」
その言葉を聞いた時、全く意味が分からなかった。学校、しかも教室でスイカ割りをする意味が分からない。
「スイカ割り……。ああ、何て素晴らしいんだ。教室でやるのもまたふ、風流? があって素晴らしい!」
「そんなわけあるか。久保、何でいきなりスイカ割りをやろうなんて思ったんだ?」
「こないだ、スイカを食べたいって言ってましたよね。その時にスイカ割りの話題も出てたのでついでにと思いまして……」
そう言いながら、久保は教室に大きなブルーシートを広げ、その上に立派で美味しそうなスイカを置く。
「この教室には人は滅多に来ませんし、もし来たらその時は何とかしますので大丈夫ですよ」
「いや、そういう問題じゃないような気がするんだが」
晴翔のせいで普通に見えがちだが、そういえば久保もかなり変わったやつだった。
「それでは裕様どうぞ」
久保はそう言いながら、棒と布を渡してきた。
「まじでするんだな……」
そう呟き、久保から棒と目隠しを受け取る。目隠しをつけようとすると晴翔がこっちを見ているのに気づく。
「……やるか?」
そう言うと晴翔は嬉しそうにする。
「いいのかい!?」
「ああ」
凄くやりたそうだしな。
「津久井もするのですか……。裕様にやってもらう為に用意したんですが、裕様がこう言うのなら仕方ないですね」
「ああ、僕はなんて幸せものなんだろう。こんないい友人に囲まれていて……あ」
晴翔が話している途中に、久保が晴翔に目隠しをつける。
「裕、晴翔どこにいるんだい! ふふ、見えなくても僕なら探すことができる。きっと二人を探してみせるよ!」
「うん、頑張れよ」
「せっかくなので、スイカ割りのルールに基づいてやってみようと思います。この間、裕様に話しましたよね?」
「ああ。確か持ち時間は1分30秒で、距離を5メートルから6メートル空けるんだよな?」
「はい、覚えててくれて嬉しいです」
久保がそう言うと、晴翔を移動させる。
「な、なんだい!?」
「距離は大体この辺りですね」
慌てている晴翔を無視して、久保は話を進める。
久保、流石に可哀想だぞ。
「早速始めましょうか。本当は最初に数回、回る必要があるのですが、その必要は無いですね。津久井、準備はいいですか」
「ああ。いつでも始めてくれ」
「持ち時間は1分30秒です。よーい、はじめ」
久保の合図と共に晴翔が一歩ずつ歩き始める。
「晴翔、そのまま真っ直ぐだ」
「あ、もう少し右の方へ」
「み、右かい? ええと」
そう言うと、晴翔は左を向き、こっちに近づいてきた。
「右! 右だって!」
「何で右が分からないんですか? こっちに近づいてこないでください」
「そんなこと言われても……」
晴翔はどんどん俺らの方に近づいてくる。その時、タイマーの音が響き渡る。
「た、助かった」
俺はそう呟く。晴翔は目隠しを取ると、驚いた顔をする。
「僕はスイカじゃなくて、本当に二人を探してしまったようだね」
「うるさい」
「右が分からないとは。流石、津久井ですね」
晴翔は嬉しそうな顔をする。
褒められてないと思うんだが。
「それより次は裕様ですよ」
「久保はやらなくていいのか?」
「はい、私は最後でいいです。私がやったらすぐに終わりそうな気がするので」
確かに久保がやったら、目が見えないのにも関わらず、一直線にスイカに向かって一瞬で割りそうだ。
「それなら、やらせてもらう」
「はい。どうぞ」
俺は久保から棒と目隠しを受け取る。
「ええと、ここら辺か?」
スイカから大体離れた場所に立ち、久保に聞く。
「はい。そこで大丈夫です」
それを聞き、目隠しをつける。その瞬間、当たり前だが何も見えなくなる。
「おお……」
スイカ割りが久々なことや、教室でスイカ割りという異常な体験ができることでテンションが上がってくる。
「あ、最初に十回ほど回ってくださいね。……それでは始めましょうか。裕様、準備はいいですか?」
「ああ」
「それでは。よーい、はじめ」
俺は十回、回り終えると何が何なのか分からなくなってしまった。二人の指示を頼りにして恐る恐る進む。
「裕様、もう少し左を向いてください」
「ひ、左か?」
俺は少しずつ左を向く。
「はい。その辺りで、真っ直ぐ進んでください」
俺は言われた通り、真っ直ぐ進む。
「そのまま真っ直ぐさ。ふふ、しっかりスイカに近づいて行ってるようだね」
余計なことを言うな。
「あ、一回止まってください。ええと、少し右の方を向いて……あっ、そうです。ストップって言うまで、少しずつ近づいてきてください」
そう言われ、俺は少しずつ近づいていく。
「ストップです。……はい、いいと思います! このまま棒を振り下ろしてください」
「分かった」
「ああ。何て緊張するんだろう。この胸のドキドキはまるで、こ」
「お黙りください」
久保と晴翔の会話を聞きつつ、棒を強く握りしめた。そして、棒を高く上げ、思いっきり振り下ろす。手応えがあるため、棒は恐らくスイカに当たっただろう。
スイカは割れたのか?
目隠しを外して、スイカを見る。スイカはしっかりと割れていた。
「裕様、凄いです!」
「流石だね。裕ならやれるって信じていたよ」
何でだろうか? テストで良い点取った時よりも凄い嬉しい。思わず、顔がにやけてしまう。
「さて、スイカ割りも楽しみましたし、食べましょうか」
そう言いながら、久保は割れたスイカを持って来てくれた。俺はスイカを受け取る。
「ありがとう。それじゃあ……」
「「「いただきます」」」
とても甘かった。
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