第3変 委員長にはなりたくない!!
今日は学級委員長を決める。
正直にいうと、俺はこの日が嫌いだ。その理由は久保にある。
俺は小学生の頃から一時期を除いて、ずっと学級委員長だった。それもすべて久保が俺を指名していたからだ。久保はみんなからの人気者であり、そんな久保に指名されていたため、断ることもできなかった。それに久保に指名されることによって、みんなから期待の目を向けられていた。しかし、俺が優れていない人間だと分かると、みんな残念な目で俺を見る。俺はその瞬間が大っ嫌いだ。
今年こそは絶対、委員長にならない。
「裕様。今年も私にお任せください」
と思っていたところ、久保が自信満々に言ってきた。
今年も俺を委員長にする気だ。久保には悪いが、止めさせてもらう。またみんなから冷たい目を向けられるよりはマシだ。
学級委員長を決めるのは午後。
俺はお昼の時間に、久保を人気のない場所に連れ出す。
「どうしましたか? もしかして、お弁当を忘れてしまいました? でも、それなら教室で言ってくれれば……裕様?」
久保は俺が良いと思って指名してくれている。だから、丁寧に頼まないと傷つけてしまうかもしれない。気をつけないとな。
「すまん、久保。学級委員長を決めることについて話があるんだが……」
「その件でしたら、さっきも言った通り、私にお任せください。心配しなくても大丈夫ですよ」
久保が自信満々に言うたびに申し訳なくなってくる。俺は深呼吸をし、
「ち、違うんだ。その学級委員長への指名をやめてほしいんだ」
と弱々しい声で言う。
「……どうしてですか?」
「俺には学級委員長は務まらない」
「そんなこと絶対にありません。小学生の頃から、ずっとしてきたじゃないですか」
「俺はもう限界なんだ」
「でも、私は裕様が良いと思って!」
手強い。このままでは絶対に譲ってくれないと思うので、あの方法でいくしかない。
土下座だ。
「この通り。俺を指名するのはやめてくれ!」
俺はもう、あんな冷たい目で見られたくない!
「え、えっ? 裕様、顔を上げてください!」
「お願いだ」
久保は俺の顔を無理やり上げようとしてきた。
「これでも無理なら、俺は……裸になって土下座してやる!」
「は、裸!? 意味が分かりません!」
久保は顔を赤めながらも、無理やり俺の顔を上げようとする。
あと一押しでいけそうだ。俺はプライドを捨て、服を脱ごうとする。
「わ、分かりました! 指名しないので服を脱がないでください。顔を上げてください!」
勝った。そのかわり、何か大きなものを失ったような気もする。
ついに学級委員長を決める時間になった。
久保とは『俺を指名しない』と約束した。大丈夫だ。
「学級委員長を決めるぞ。まず、立候補者はいるか?」
先生の声が響く。
誰も手をあげない。まぁ、普通はあげないよな……。
「それじゃあ、誰かを推薦、指名したいやついるか?」
ついにこの瞬間がくる。久保を見ると、何故か震えていた。そして、紙に何かを書いて俺に渡してくる。そこには、
『もう、限界です』
と書かれていた。
早い、早すぎる。そんなに俺を学級委員長にしたいのか?
久保には申し訳ないが紙に、
『もう少し頑張ってくれ』
と書き、久保に渡した。久保は紙を見て、辛そうな顔をしている。
「先生〜! 久保さんがいいと思いまーす。」
そんな中、クラスの中心的な人が叫ぶ。その瞬間、クラスのみんなが賛同した。
久保が驚いた顔をする。断りたい様子がひしひしと伝わってくるが、クラスメイトの人達に期待されて断りづらそうだ。このままでは、久保の意見を聞かずに勝手に決められてしまう。
ガタン。
突如、久保は立ち上がり、廊下に出て行った。みんな驚いた顔をしている。
数分経って戻ってきた久保の手にはスマホが握られていた。
何があったんだ? そう思い、久保に話しかけようとすると、
「辻先生、大変です!」
そう言いながら校長先生が息を切らし、教室に入ってきた。呼吸が荒いまま担任に近づき、何かを話している。話終わったころには担任の顔が、真っ青になっていた。
「み、みなさん。今からお偉い方が話に来てくれます。よ、よく話を聞くように!」
校長の声が震えている。
俺の頭の中は疑問しかなかった。
偉い人? 何故急に? あの様子では相当偉い人なんだろうな。
「こんにちは」
その偉い人が入ってきた瞬間、教室がざわめく。
その人物は、総理大臣だった。
「は? え?」
思わず声が出る。
予想外の人物すぎる。どうして総理大臣が?
あ……。
久保の不思議な行動を思い出す。
もしかして、久保が? 確かに久保の家なら総理大臣を呼ぶくらい簡単にできると思うが……。いやまさかな。
「知っている人は知っていると思うが、私の名前は深山だ。よろしく。それで、私が何故ここにきたかと言うと、あるお方に頼まれたからだ」
そう言い、久保の方を見る。この行動で久保が総理大臣を呼んだと理解した。
まじか、何のために?
「今、学級委員長を決めているらしいな。そこで指名したい人がいるんだが……」
嫌な予感がする。
「それは、洲本君だ」
総理大臣と目が合う。その瞬間、クラスのみんなが一斉に俺を見る。
久保は俺を学級委員長にするために、わざわざ総理大臣を呼んだのか。相変わらずとんでもないことするな。
「ということで、後はよろしく頼む。辻先生」
総理大臣は担任の肩に手を置き、帰っていった。
クラス中が沈黙に包まれる。そんな中、先生が震えた声で、
「洲本……さんで良いか?」
と言い、みんなが頷いた。
そして、放課後。
帰る準備をしていると久保が俺の席の前にくる。俺は顔を上げ、久保の顔を見る。
「どうしたんだ、久保?」
久保の様子がおかしい。いつもの元気な感じがない。
「あの……約束を破ってしまって申し訳ございません! 私、裕様の一生懸命に頑張っている姿を見るのが大好きで、そんな裕様を見ていたかったから、だから……」
だから俺をいつも推薦してたのか。そう考えると、恥ずかしくなってきた。
「指名された時、嫌だと思っても周りを気にして断れなかったんです。裕様の気持ちが分かったような気がしました。もし、委員長が嫌なら、私と変わりましょう。こうなったのも私のせいなので、私が……」
「久保」
「は、はい」
久保は下に向けていた顔を上に上げ、俺の顔をじっと見る。
「確かに委員長をするのは、はっきりと言って嫌だ。仕事も多いし、精神的にもきつい」
「そうですよね……」
「でもな、物凄くやりごたえを感じるんだ。だから、最終的にはやっても良いと思ってしまうんだよな。それに、小学生の頃からやってるのもあって、今さらやらないのは何か変な感じがするし」
「裕様……」
「まあ、もし俺が困っていたら助けてくれ」
久保はたちまち嬉しそうな顔をする。
「はい。……裕様はやっぱり良い人ですね」
「何か言ったか?」
「いえ!」
俺と久保は教室を出た。
次の日から、俺は『総理くん』と呼ばれるようになった。
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