第2変 言っていることが無茶苦茶です。

 絶望感で重くなった足を動かし、教室に行く。いざ教室の前になると緊張し、絶望感が消えていった。

 深呼吸をする。そして、恐る恐る教室に入り、席に座った。


 席は出席番号順。前が久保、後ろが晴翔だった。


 ど う し て だ ?


 俺の苗字は洲本すもと。『け、こ、さ、し』から始まる苗字の人はいないのか? 佐藤とか、日本で一番いるのに。そして、『せ、そ、た、ち』から始まる人もいない。田中とか結構いると思うんだが。


 まぁ、良い。隣の人と仲良くなれば……。まずは右の人をこっそり見る。ヤンキーだ。入学そうそうにも関わらず、机に足を乗せている。怖い。


「あぁ?」


 目が合った。急いで前を向く。俺は見なかったことにし、期待しながら左の人を見る。


「え?」


 思わず声が出た。

 その人はよく屋台とかで売っている、狐のお面をかぶっている。こっちも怖い。顔が全く見えないが、長い髪とスカートを履いていることから女子だと分かる。明るい性格の子らしく、入学初日にもかかわらず複数の友達と話している。

 ……他の人は何も思わないのか?


 やっぱり俺の周りには変なヤツしかいない。


 それから俺達は入学式やホームルームを行った。授業は無く、すぐに放課となった。


「裕様、一緒に帰りましょう」

「裕、僕は君と一緒に帰るのを望んでいるようだ」


 面倒くさいのに絡まれた。

 二人は美少女・美少年なので、沢山の人から注目を浴びている。新学期であってか、より二人は注目されているような気がする。いつもは一緒に登下校しているが、今日は別々に帰りたい。普通の学校生活を送りたい俺にとっては、注目されることは何とか避けたいからな。


「俺と帰るより今日できた友達と帰れ。お前らのことだからたくさん友達ができたんだろ?」

「それはそうですが。それでは、裕様は誰と帰られるのですか?」


 予想外なことを言われた。


「裕様を一人で帰らせることはできません。裕様のお母様にも頼まれましたし」


 母さん……。というか普通、立場が逆なはずだが。久保はお嬢様なので俺が守らないといけないのに、俺がお嬢様に守られる。おかしい。

 これ以上言っても聞かないだろうから、久保は諦めるか。


「晴翔は? 大勢の人に一緒帰ろうと誘われてただろ?」

「もちろんさ。だけど、朝言ったように裕とは運命の糸で結ばれているんだ。そんな人を放っておけないだろう?」


 どうやら一緒に帰りたいらしい。

 こいつの言葉が微妙に分かるようになってきた。辛い。


「……分かった。じゃあ、いつものように三人で帰るか」

「さすが、僕の親友だ。その決断力に惚れ惚れするよ」

「どーも。ん? 久保、どうした?」


 何か言いたげな顔をしている。


「私たちは小学生の頃からずっと一緒に登下校してきましたよね」

「え。あ、ああ、そうだな」

「なので高校生になったことですし、心機一転として、これからずっと津久井とは別々に帰るのはどうでしょうか」


 うーん、酷い。

 実を言うと、久保は中学生の頃から晴翔を嫌っている。久保曰く、晴翔の馴れ馴れしい態度が嫌いらしい。また、言葉の使い方が意味不明で、晴翔のことを全く理解できなくなったのも嫌いになった理由の一つらしい。昔は仲が良かったのにな……。


「あぁ、花織。いつも通り冷たいね……。けど、そんな冷たい花織も可愛いよ。はっ、もしかして僕があまりにも輝きすぎていて、一緒にいるのがしんどいってことかい!? 僕はなんて罪な男なんだ! 子猫ちゃんを疲れさせてしまうなんて……」


 晴翔が言葉を発するたびに、久保が不機嫌になっていく。

 やばい、機嫌が悪くなった時の久保は物凄く怖い。何とかしないと。


「落ち着いてくれ。こいつは言葉が痛いだけで、根は良いやつなんだ。昔から一緒にいるから分かるだろ?」

「それは……」

「だから、見逃してやってくれ。もし我慢の限界がきたら、その時はその時だ。文句でも言ってやれ」

「文句を言うのは良いのですか?」


 久保が微笑む。


「裕様、言っていることが無茶苦茶です」


 俺も微笑み返す。


 そして、忘れてはならない。完全に空気になったヤツのことを。

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