第33話 スポットライト

「ハイ大変良い出来だったと思うぞ玉野。

あとはデータを集計してまとめたものを、どう見やすく工夫するかだなー。

ウン映像の作り方も感心したなー」


 講師や生徒からの賛辞も伝わるなか玉野に反応は無く、何か考え事をしているように上目を向いていた。

 仕方なく俺が玉野の代わりにパソコン等の片付けをしようとすると、

俺の動きに釘を刺すがごとく講師の橋岡から一言注文が付け加えれられる。


「しっかし頼田、君だけは映像のどこにも登場してなかった気がするが、

君はこのグループで何か役割を果たしているのか?

こんなことは言いたくないが、優秀な人間に乗っかって楽をするためグループを

組んだとかいうんだったら将来苦労するのは君になるんだぞ、

なあ頼田もっと頑張ってくれよ、期待しているから言うんだぞ」


(何だよなんで俺だけ?だってこんな映像作っているなんて教えてもらえてなかったし。それに俺だってお店何軒も回ってアンケート取りに行ったりしてらぁ!

そもそも最初に玉野やレイに誘われたのはこの俺なんだぞ!)


 俺たちグループの作業分担のすべてを把握しているわけではない講師からの、

俺のみを対象とした叱咤はかなり理不尽なものに感じたが、それでも今回どんな発表をするのか把握していなかったのも事実だし、重要な部分に俺は絡んでいないようだったから何も言い返すことは出来ず、悔しいがうなずくしかなかった。


「あっハイ。えっとじゃあ次頑張ります・・・・」

「頼田気にしないでいいって。ウチらが勝手に考えてやったことなんだし、

アンタはアンタでいろいろ頑張ってるじゃん」

「うんそうだよ。私なんか映像で声聞いたらめちゃ下手くそだったし、

邪魔してたぐらいだったよ。アレは別にライトでもよかったんだもんね」

 レイと盛川からそれぞれソフトタッチされたうえでなぐさめの言葉までかけてもらい、俺の傷んだ心は秒で回復していく。



 ―――その時、明るくなったばかりの教室内の照明が再びじんわりと暗くなり始める。


「えっ何これ?」「もう終わりじゃないの?」「あっまだ映像流れんじゃねぇの?」

 発表も終えたことでリラックスしている生徒たちのテンションが一斉に上がり、ざわめきの声が響きだした。


「おっおいどうした玉野!?まだ何か発表が残っているのか・・・・・?」

 講師が焦った様子で玉野に近付いて確認を求めると、玉野は不敵な笑みを浮かべながら橋岡に告げた。


「先生、大事な映像を流し忘れていましたよ。実は僕たち商店街でのお祭りで大きなイベントを企画してまして、それの予告映像なんですけど。

ライト、頼田くんにはそこで大きな活躍してもらう予定なんで、

みんなに宣伝のために伝えておきます」


 ドゥンドゥン・・・・・ドゥンドゥン・・・鼓動のようなリズム音がスピーカーから響きだし、徐々にテンポアップしていく。


  ≪緊急告知!≫ 

 再び映像が流れはじめた。

≪商店街のお祭り、稲ヶ崎フェスティバルにて、あの因縁再び・・・・!≫

甲子園での激闘で、互いに大きな傷を負った二人の両雄―――

狂肩VS侍の四番の 再起をかけたバトルが、ここに開かれるー≫


 威勢の良い音楽に合わせて、煽るように文字が連続して行き交う、

そしてその合間に、突然俺の映像が映し出された。


 ≪狂肩マッドネスアーム!!非難の嵐に一度は沈んだ彼が、マックス155キロのボールを持つ投手へと転生して、ついに勝負の舞台へと舞い戻ってくるー!!≫

 

 あの甲子園での落球から大暴投するシーン、その球が現在の俺の投球するボールへと自然にシフトしていく映像に、俺は鳥肌が立ってしまう。


 最近おこなったピッチング映像で、スピードが際立つシーンが角度を変えて3球バシン!と映し出される。

その速さ、衝撃音に驚いた教室内から、

「うおーー」「スゲーなんだよこの球!」

といった歓声がわき起こる。


 ≪マッドネスアーム、頼田ライト!!投手LR学園≫

ドラフト指名を彷彿とさせる呼び声でハッキリと俺の名前が紹介されると、

皆の視線が一斉にコチラに集まる。

「あっはははは、どうも俺です」

急にスポットライトを浴びせられた俺が照れ笑いを浮かべている間に、

画面上は次の映像へと切り替わっていて、皆の視線は瞬時にそっちに戻る。


 キレイな放物線を描いた打球が次々と、スタンドへと突き刺さるシーンが

映し出されるとその飛距離にみなが驚嘆の声を上げた。


 ≪高校生ナンバーワンスラッガー!!ハイペースでホームランを量産しつづけるこの男に、対戦するピッチャーの選択肢はそう多くない・・・・・。

ホームランを打たれてマウンドを降りるか、勝負から逃げるかー、

そう、逃げの一択しかないのだから―!≫

 ≪天性のホームランアーティストー、明宮真太郎―!!≫


 同世代ならだれもが知ってるスター選手のまさかの登場に、喚声のボリュームが一段と上がる。

 ≪檻から放たれた二人の野獣選手による究極の戦い!

一度は沈められたそのボールへの恐怖心を振り払い、

彼は狂肩の球を打ち返すことが出来るのか・・・・・!?≫


≪狂肩マッドネスアーム頼田ライト(投手)VSホームランキング明宮真太郎(打者)

再起をかけた一打席対決!≫

≪稲ヶ崎運動公園にて7月末の三連休にて開催予定!!乞うご期待!!≫


 映像が終了し教室内の照明が再度明るく照らし出されると、現実へと帰還する。

散々対決を煽るようなVTRを見せられた後で、それがまさか地元規模の

お祭りで開催されるという現実感の無さに、映像が終わった教室内はシーンと静まり返っていた。



「えっと玉野?本当に今の映像のことは実際に決行するつもりなのか・・・・?」

 講師が玉野に近付いてその信憑性について問いかける。

「ハイもちろん。さっき先生も言ってたでしょ?同じグループ内でそれぞれが役割を果たせって。だからライトくんの活躍できる仕事を用意したまでです。

あと商店街の振興にも貢献できると思いますけど、それが何か問題でも?」

「そりゃあるでよー第一許可はどうなってる?商店街の組合とかに承諾を得て言ってるんだろうなあ。あと明宮くんまで勝手に呼ぼうなんて無茶にもほどがあるだろ」


 まあ関係性を知らない講師の立場ならそう言うだろうが、実際明宮とも顔を合わせている俺からすると、コレはかなり実現味が高いイベントとして受け止めている。

「すでに明宮くんには予定は伝えていて、了解も得ています。

商店街の組合長さんにも話は通していて、これは大きな宣伝になるからと喜んでもらいました。・・・・あっそのついでに作ってもらったコレみんなに配っていいですか?」

 

 ぐうの音も出ない事実のみを伝えると、その証拠として作成したチラシを講師にアピールして見せ、玉野は同級生のみんなにそれを配りだす。


 ≪商店街で開かれる年に一度のお祭りイベント!!

稲ヶ崎フェスティバルにて甲子園のスターが相まみえる!

熱狂VS侍の四番の 再起をかけた一打席の勝負、稲ヶ崎運動公園にて

7月の三連休に開催予定!!(雨天決行)≫

 さっきの映像で見たような煽り文句が載ったチラシをみんなに行き渡らせると、

玉野はさらに大声で内容を宣伝した。


「えーっ、ここに載ってあるイベントは実際に開催するので、ここにいる皆も興味があれば、僕らの仲間である頼田くんを応援する意味でもぜひ来てくださーい。

お祭りなんで食べ物の安くて美味しい出店なんかがあったりするので楽しめると思いまーす、コレで本当に以上となりまーす。お時間取らせてすいませんでしたー」


 騒然とした状況で授業が終わると、みんなから

「頼田頑張れよー」「お祭り楽しみにしてるぞー」

「頼田くん、明宮くんからサインもらってきて」

などの声が俺にかけられ、チラシを片手にそれを話題にしながら各々が帰っていった。


 講師の橋岡からの事情聴取が一通り終わったあとの玉野に、俺は文句の一つもブー垂れたくなる。 

「ふっ玉野やってくれるじゃん色々と、アドリブキツイって」

「そう?今日のところはライトくん見てるだけで良かったんだしいいじゃん」

「いやでもさあ、映像のことぐらい教えてくれても良かったんじゃないか?

俺今日の発表めっちゃ不安だったんだぞ。・・・・あっ今もっと不安になってるかも」

「ライトくんには、練習に集中してもらいたかったから。あと商店街の紹介番組はレイちゃんがノリノリでやりたがってたからさ」

「ふ~んそうか。まあ分かる気がするけど・・・・。でおい、明宮との勝負

本当に大丈夫か、アイツ受けてくれるってマジか?」


 玉野は人を小馬鹿にするようなにやけ顔をしたまま、しばらく間をあけてから答える。

「い~やまだ全く。商店街にも許可取ってないしー」

「はあ!?マジか?ふっ、ハハハハ!ってお前そんなこと勝手にやってて大丈夫かよ?」

 あまりに堂々としたウソの告白には、呆れを通り越しておかしくなってくる。


「だって、ホントに対決が開催されたら何も問題ないわけじゃん?

ライトくんにさえ何も伝えてなかったわけだし、それとも何ライトくんはさっきの企画、自分は参加するつもりは無いなんて言うつもりかい?」


「いや、やるしかないだろう。あんな大それた宣伝までやられちゃあな。

それに俺だけ映像制作に絡んでないし、練習までさせてもらってて・・・・って

お前追い込んでるだろ?」

「まあね、でもほ~らライトくんはやっぱ乗り気になってくれてるじゃん。

それなら明宮くんだって多分同様だよ。

人はね、望む気持ちがあるところに橋をかければすーっと渡らざるをえないんだよ。」


 「望む気持ちか・・・・。」

俺も明宮も一旦失ったものは同じだが、今度の舞台を望んでいる気持ちは明宮の方が強いだろうと感じている。


 対決の舞台をお膳立てしたなら進んで参加するだろうと、軽く思われてることは若干しゃくになってくるが、明宮のためにも、そして俺を生かしてくれようとする皆のためにも、

気持ちを奮い立たせてメインアクターを演じるしかない。


「はあ~、これからしんどくなるな」

「ウンだね。やると決めた以上、フェスティバルでの対決イベントを絶対実行し、成功に導かなきゃいけない。僕はそのことを考えるとちょっとプレッシャーかな。

・・・・でも実のところ一番負担が大きいのは君なんだよ。

明宮くんとの勝負こそが一発本番の完全アドリブだからね。

全ては君たちのパフォーマンスにかかっているんだから。ね盛り上げてよね、頼むよライトくん」


 玉野から渡された分厚い台本には、事前設定のみが記入されていて台詞は

一切空白。そう考えると俺の心はブルーになっていく。


 いざ舞台に立った時には相手役者との掛け合いのみで人々を楽しませるようにと、役者の能力へ過度に依存した脚本は、大コケする危険性を常にはらんでいることに、

玉野はどのくらい計算に入れているのだろう。

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