第32話 暗躍する仲間

「ではまず、僕たちが行っているフィールドワークのテーマについて発表をしたいと思います。えーっ僕たちが調べている対象は地元の稲ヶ崎商店街というところで、様々な業種に渡って今回ご協力をいただきました。

えーっ本日の中間発表は映像形式をとった発表とさせていただきます。

それでは皆さん、どうぞご覧ください―――」


 前振りを終えた玉野がマウスをクリックして映像がスタートする。

事前にこういう形式で発表するとは聞いてなかった俺も、意表を突かれる思いで映像に注目する。


  ≪稲ヶ崎商店街のくらしレポート≫

 軽快なBGMと共にタイトルと映像が流れだす。

商店街を俯瞰で撮った映像が流れ、お店や食べ物が次々ダイジェストで映し出される。

ローカル局でありがちな街ブラ番組の入り方だ。


『ここは多くの人たちでにぎわう稲ヶ崎商店街。地域に根差した昔ながらの商店が軒をつらね、近隣の人たちに愛されています。

一時はショッピングモールの出店に押されて落ち込んだ人波も、新興の住宅街が周りに出来たこともあり、再び活気がよみがえりつつあるこの商店街に、今回は・・・・・・』


 まず商店街の説明を入れるためのナレーションが聞こえてくると、

俺はその声にどこか違和感を覚えてしまう。

淡々とした語り口で起伏に乏しく、ナレーションにしては少し下手じゃないのか?と感じていたが、やがてそれが普段聞き馴染みのある声だということに気付く。


『―――本日は商店街の運営組合に、この街の歴史や現在の景気についてのお話をうかがうことができました。担当は当グループのレポーターである―――』

 女性の声にしてはやや低めで落ち着いた感じの・・・・・・、

そうだ!これは盛川の声じゃないか!!

「えっ!もっ、盛川が喋ってるの・・・・コレ?」

横を見ると暗い中で「シーっと」指で口を押えている盛川の姿が見えた。

ウンウンとうなずきながら照れ臭そうにしてるのを見ると間違いない、

コレは盛川が吹き込んだナレーションのようだ。

 

 俺が知らない間に、こんな作業やってたんなら教えてくれよと思いながらも、

映像の邪魔をするわけにもいかずに、映像を確認するために目を戻したところ、

立て続けにまた簡単に驚かされてしまった。


『ハイ、ということで今回は商店街の会長さんに案内してもらいながら、食べ歩きをしつつこの商店街をご紹介していこうかなーっと思いまーす。それではレッツゴー!』

 

 ナレーションに続き、これから商店街でロケをする感じで登場した女性。

その後ろ姿に俺はすぐピーンと来て、赤髪をひるがえしてカメラの方に

その顔を向けた瞬間、ああやっぱりお前かーい!と心の中で突っ込んでしまった。


『あっこのおせんべいおいしそー。わーっいただきまーす』

おせんべいを加えてポリポリ食べ歩きをやっているそのレポーターは、

まぎれもなく我らのレイちゃんだった。


「おぉ、おまえもかいぃっ?」

レイの方に不満の表情を向けてみるが、

「しーっ」とやはりレイも暗い教室のなかジェスチャーにてご静粛を求めていた。


 二人揃って、ちゃんと発表に参加しているなら何故事前にそうと説明してくれないんだよと、不満に思ってみても今はどうしようもない。

俺には何の役割もあてがわれなかったことに、多少の虚しさは覚えるが、

とりあえず3人は協力していたことには安堵しつつ、あとは家族目線で映像を眺めることにした。


 商店街組合の会長さんに付き添われながら、レイが食べ歩きをしつつ街ブラするという映像がしばらく続く。その食べっぷりに見ているコチラ側が食傷気味になった頃合いで、

メインストリートに並ぶ商店街イチオシのお店が一通り紹介されていく。

その後、レイが付き添ってくれたオジサンにお話を聞くというVTRへと場面は

切り替わった。


『この商店街は、それなりに歴史は古く、いわゆる昔ながらのお店も多いのですが、実際は時代に合わせて大きく変化しているのです。

地域の人たちに親しまれ、互いの顔が見える関係で、昔から地域の人たちと連携が取れたうまい運営がなされていると自負しています』

『ぶっちゃけー課題とか?これからの商店街を運営する上での心配とかはありますか?』


 商店街の運営を自賛する組合長さんのコメントの後に、レイがたどたどしく質問するという流れの構成のVTRにコレといった見せ場は無いのだが、

かっちりとしたおっさんにイキった口調のギャルが話を聞くコントラストに、妙なおかしさが込み上げてくる。


『ええそれはもちろんあります。それは時代に上手くマッチできるかどうかということでしょう。

昨今この辺りに移り住む若いご家族さんも増えて、求められるニーズも変わってきています。それをいかに取り込むか。

商店街ではいくつかのお店がそろそろ代替わりするタイミングにもあたりまして、そういうお店では柔軟な発想が出来る若者たちも増えていますから、私どもはあんまり悲観はしていませんよ、ハッハッハ』

『アハ~ハハハハハーありがとうございましたー』

 おじさんとレイの笑い声がユニゾンする絵でカメラは引いていき、

続いて街の人たちへのインタビューシーンへと切り替わる。


『そうだね~。私は昔っからこの辺に住んでるから。うんそうだね、買い物するのはいっつもここだわよ~。・・・・・ここが無くなったら?ああそりゃダメだね~困るよ。私らほら脚が悪いじゃない?遠くのモール?ってのあんなとこまでよう行かんわ~』


 レイが通りの人たちを強引に捕まえて、マイクを向ける形のインタビューが進行していく。

『えー何ですかー?ここら辺のお店?・・・・ああ、まあ便利だとは思いますねー。ちょっと何か足んない時とかすぐ足運べて、大概どんなお店でもあるしー。

・・・・えっ?ああそうですねー。オシャレさは無いけど気にしないでしょ』

 

 お年寄りから熟年夫婦、若い女性層までまんべんなくインタビューが行われ、

そのうちの一人に、藤間マートによく訪れるおばさんの姿が映ると、そのクセが出た喋り方に俺は思わずクスっと笑ってしまう。


『・・・・・ということで街の人たちにたくさん意見を聞いてみましたけどー、

皆さんにとってこの商店街は概ね評判がよく、無くてはならない存在であるってことがーよく分かりましたー。あーっキタキター!うっわー何このパフェすっごーい超デカ盛りじゃーん!ってことでウチはこれをいただいてから帰りまーす。

それじゃあバイバーイ!・・・・・パクッ』

 インタビュー映像を引き取った後で、何故かレイがパフェをおいしそうに頬張るシーンへ切り替わり、その絵をバックに締めのナレーションが流れだした。


『私たちの稲ヶ崎商店街は、確かな歩みを続け、望まれる姿へと変容し、

きっと未来まで人々に愛され続ける街並みであることでしょう・・・・・』

 食べる映像とは対照的に感情の薄い盛川のナレーションにて、

商店街紹介ビデオは締めくくられた。


 

 俺自身はかなり興奮して観ていたが、見知った街並み、そして知り合いが出ている映像でなければここまで見れたものじゃなかったはずだ。

概して街ブラ映像とはその程度のものであり、人々の街へ対する愛着度が生み出す、ある種の地域貢献策でもあるのだろう。

その点で、玉野がこのようなビデオを作製したことには納得感がある。


「今見てもらった映像はとりあえず商店街をプレゼンする意味合いで作ってみました。で、ここからは実際調査して回答を得られたアンケート結果を交えて、簡単に説明させてもらいます。」

 10分程度の映像が終わると、そこからは玉野がパワーポイントを使った説明に入る。


 商店街に店を構えるオーナーや周辺の企業などへ、営業を始めた時期や、始めてからの売上の推移、そして今後の見通し、商店街の活動で期待していること、

挑戦したいことなどのアンケートを取った結果が示される。


「・・・・・とまあこんな感じで、いくつかの結果はグラフにしていますけど、

今のところはまだ全ての店舗から回答を頂けてませんし、とうぜん集計・分析もまだ途中なので、現状はここまでということで、

最終的にはまた新しい映像も追加して次回発表したいと考えています。

えーっと以上で僕たちのグループの発表を終わりとさせていただきます。

どうもありがとうございましたー」


 玉野が指をパチンと鳴らすと、キレイな拍手の音が聞こえてきて教室の照明が再び灯る。

特に何もすることが無くただ観ていただけの俺だけど、同じグループの仲間が知らない間にしていた仕事に誇らしい気持ちを感じていた。

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