第2話 ぼっちインザスクール

『あのさ~頼田くんさぁ、私に連絡してくるのホントもうやめてくれるかなあ?

ってか、ホントアタシはね君のことなんて全然好きじゃないんだからね!あの、これホント超マジのやつだからね、じゃあサヨナラで♡』

 夏の終わりやれ二学期が始まろうかというある日、布団にくるまりつつ何とか自責の苦しみから逃れたいと現実逃避に励んでいた俺に対し、突如不可解でショッキングなメールが送られてきた。

 

 野球部の二年女子マネ、鳴海桜子なるみさくらこさんからの、唐突な別れを告げるメールであった。俺と桜子さんは実際付き合ってはいたのだが、それもついこないだ始まったばかりの話で・・・・。


 あれは甲子園のメンバー発表の翌日のこと。

『アタシたちさ~ぁ何かちょい地味好きどうしみたいだし~、気ぃ~合いそうだからさ~あ、付き合ってみよっか?・・・・・ねっ?』

『あっ、はっハイっ!そうっすね!』

という彼女からの告白と、軽いノリによって俺たちは何となく付き合うことになっていた・・・・・はずだったのに!


 彼女だ!桜子さんの方からだ!それが勝手にもうサヨナラだとぉ!?まだ付き合ってひと月も経ってねぇぞー!正味14日だ!

 それがもう連絡しないでだとぉ!?そもそも俺から彼女にまだ連絡したことなんてねぇのに!

 甲子園で活躍したならその後に俺の人生初デート!だぜぃ!とか、ひと夏のイチャイチャ妄想とかしてたのになぁ~・・・・。俺は深く沈んだ。


「はぁ~、やっぱ俺のやらかしたことが大きすぎるんだろうなぁ・・・・・・」


 あの甲子園での事件以来というもの、周りにいる人たちの反応があからさまに

俺を避けるものとなっていた。

 しかもその拒絶感をほぼ全てスマホを通して伝えてくるという、いかにも今の若者らしいドライさというかハブり方というか。

 

 自分の犯したことの重大性は、そのスマホを何となく触ってる時なんかに否が応でも目に入ってきてしまうのだ。

【悪夢のサヨナラゲーム、甲子園の悲劇!狂気のバックホームに襲われた明宮真太郎、選手生命の危機か!?】


 俺がやらかした明宮への大暴投事件は、このようなセンセーショナルな取り上げられ方をしていたこともあって世間からのバッシングは日に日に強まる一方だった。

 

 明宮をめがけ意図的にボールを投げたのだという類の誹謗中傷がマスメディアには溢れかえり、その悪影響は学校や野球部までにも及んでいるらしく、俺はしばらく部活動に参加自粛を通告され、その後は目立った行動も控えるため今はほぼ自宅に

軟禁状態。

 

 それでも世間のバッシングはなかなか止んでくれずに、俺がまだ少年であることから本名をさらしての公開処刑はさすがに憚られたのだろう。

 

 俺に対しては狂った肩、通称”狂肩”(マッドネスアーム)という異名までもが付けられている始末だった・・・・。


 元カノマネージャーからのメールついでに、野球部内の連絡網として使っている

チャットアプリのグループメンバーからも外されていることに気付いた俺は一層

深く、闇に陥る手順を踏んでいったような気がする。

 終わった何もかも。明宮の件で俺は全国レベルの事件をやらかした罪人なんだ、

狂肩だ。マッドネスアームなんだ、もう詰みだ詰んでいるのだ。俺はそんな心境に陥っていった。


 なので甲子園から帰ってからというもの残りの夏休みの間、予定もよく分からないし自粛だし、部活にも全く顔を出さずにいたが、もう休みも終わりいよいよ二学期が始まるということで、何とか気持ちを切り替えてとりあえず普段通り学校に通おうと考えていたのだが・・・・。


 実際あの事件の後に会う学校での皆の様子までもが、そりゃ以前と大きく変わっていたのさ・・・・・。

 

 クラスメートも野球部の仲間も、どいつもこいつも皆一様に俺に対する態度が絵にかいたような腫れ物に触るものとなっていて、あいさつだろうと日常会話だろうと、

とにかくこちらが何を話しかけようとも皆が目を若干ななめ上にそらしながら、


『あっああっ・・・』『おっおおうぅ・・・』

程度しか返ってこないという始末。


「おはよー」と言っても

『あっああっうぅ・・・』


「なぁ今日の昼どうする?食堂行くだろ?」と言っても

『あっううぅ・・・、きょお、べっべんとぉぉ・・・・・』


 次第に自分がゾンビウイルスが蔓延した世界に飛ばされたかのような気持ちになっていたのだが、どうやら怪物の類だと思われていたのは俺の方であり、その気持ちの表れがあのようなゾンビ対応をさせていたに違いない。


 なにしろ明宮の件に関して好きなようにマスコミやネット民に言われ放題だったし、とても多感な年ごろの精神に耐えられるモノでは無かったよなあ。学校でのまともな活動もできないほどに、みんな追い込まれていたってことだろう。


 せめて俺も機転を利かして甲子園でやらかしたプレーをネタにした笑いでも取れれば良かったのかもしれないけど、じゃあどんな風にやれば良かったんだろう・・・・・?

 

『へへっ、見てくれたか?甲子園での最後のスーパープレー。なっ言ったろ、俺には必殺のレーザーライタキャノンってやつがあるってよ。おっなんならキミも受けてみる?・・・・・ってね、うそじゃ~い!』とか?

 

もしくは

『なぁ俺、明宮の件でネットとかでめっちゃバッシング受けてんだろ?実はあれさ、ホントは監督とコーチの指示でやったんだぜ。明宮潰せってな・・・・・。

それでな、実はこの後会見開いて泣いて謝ってみる予定なんだ。・・・・・だから、ぜってぇ見てくれよな!・・・・・ってね、ウソやで!』とか?

 

 いや絶対無理あるだろう!一介の高校生風情がそんな高等なお笑いネタぶち込めるか!?プロの芸人でも自分の不祥事ネタに笑い取ってるやつなんてそうそう見たことないぞ!


 こんな調子で皆にハブられ続け幾数日か過ごしているうちに精神も次第に病んできて、一人孤独のカラに閉じこもるようになっていた。

 そして気力を失った俺がそのうちに学校に通えなくなるのも、時間の問題だった。


 決定的だったのは野球部での扱いだった。

なんとか学校での生活に張りをもたそうとした俺は、勇気をだして野球部に復帰しようと頑張ってみたのだけれど・・・・・。

『おっおおうぅうお~い頼田、おっ、お前はまっまだやるのか野球?それならまずは

ボールをしっかり捕って投げるところからだな・・・・うっ、うん。よ~しキャッチボールでもやっとくかぁ』


 監督やコーチまでもがあからさまに俺のことを避けていて、練習内容の指示はほぼ

キャッチボールのみ。

チームとしての全体練習に参加させてもらえない俺にはキャッチボールしてくれる

相手すらいなかったのに・・・・。だからいつも一人で壁あてをし、それに飽きればランニングするぐらいしかやることはなかった。


 もともとこの高校には野球をやる目的のためだけに入っていた同然の俺にとって、日ごろの教室におけるクラスメートらとの関係性もさして築けていなかった。

 部活一本槍戦術をとっていた者にとって、この野球部でのあまりのやりがいのなさや希望の無さは決定打となった。

 

 孤独さは無視して無理にでも食らいつけば何とかなるとも考えたけれど、それも一か月ほどが限界で、そこはやはり多感な年ごろであり、あまりの虚しい時間に耐えられるはずもなくついに俺は虚無感の虜となった。


(目標だった甲子園にも一応一度は出れたんだ・・・・。やり切ってはいないけどな~、しょうがないし・・・へへっ、もう、いいかな・・・・へへへへ・・うんそうだ、もういいんだ・・そうだ~そうだ~そうしよう)


 学校にも行かなくなった俺はそのまま豊鳴館高校を退学し、そこから何していいかも全く分からず何も手につかない、もっぱら部屋の中で寝て起きては後悔ばかりを繰り返すという、栓無き暗中模索の生活に入っていた・・・・・。




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