第一章 第九節 ~ 三匹の盗賊 ~
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「≪ムーンフォース≫っ!」
逃げる盗賊達の目の前に、バスケットボールくらいの大きさの光球が現れる。
それが爆発して、爆風により盗賊達を吹き飛ばした。
遠距離攻撃に有効な矢避けのローブも、範囲攻撃に対しては効果が無い。
宙に投げ出された盗賊達であったが、三人共見事な体術で体勢を立て直し、華麗に着地を決めた。
不測の状況に対する判断力も高い。
盗賊だからと言って、油断してよい相手ではなさそうだ。
彼らの目の前に、ピョンピョンと跳ぶように後を追いかけて来たミラが、ふわりと降り立った。
「
ダガーを構え、鋭い視線を向けるミラに対し、盗賊達は出方を
逃げるか戦うか、迷っているのだろう。
ミラの方も、ここで仕掛けるかリオナの合流を待つか決めかねていた。
自身の
盗賊達に逃げられる前に仕掛けたいが、三対一という数の差に、若干の不安を覚えざるを得ない。
両者が
チリチリと肌が焼けつくようなプレッシャーが辺りを襲う。
民家の屋根に止まっていた漆黒の
ゴクリと息を
そこへ、少し遅れて彼女の後を追って来たリオナが姿を現した。
「やれやれ、今の敏捷性じゃ、とてもじゃねえがミラの足に追いつけねえ……全く不便な身体だな……」
金髪の後ろ髪をボリボリと
そちらを横目でチラリと見
「あ、リオナさん、今彼らを――」
と、ミラが一瞬目の前の盗賊達から気を
「――≪影討ち≫」
一番先頭に立っていた盗賊の一人がスキルを発動させ、自らの影の中に潜ったかと思うと、一瞬のうちに民家の影の中を泳いで移動し、リオナの背後に伸びた影から、ぬるりと姿を現した。
「リオナさんっ‼‼」
リオナの背後に現れた盗賊の存在に気が付き、ミラが引き
その声と同時に背後の気配を感じ取り、振り向いたリオナの顔面に、盗賊の持ったナイフが
ガチンッ!という硬質な音が静かな路地裏に響く。
ナイフの刃が当たった音だ。
ミラのいる方からは見えなかったが、刺された位置からして、致命傷は免れない。
スローモーションのように動きがどんよりと鈍った世界で、盗賊の顔がニィと
「……へえ、不意打ちたあ、なかなかいい趣味してんじゃねえか」
「ッ!」
息を呑んだのは盗賊も同じだった。
盗賊のナイフはリオナに刺さる前に止められていた。
リオナは盗賊が突き出したナイフの刃を、噛みついて止めていたのだ。
「貴様ッ! どんな反応速度してやがるッ⁉」
盗賊が慌ててリオナから飛び
受け止めたナイフを弄びながら、リオナは犬歯を
「他人の物を盗んだテメェらとオレとの間には何の関係も
拳を握り、戦闘態勢を見せるリオナ。
ひやっとする場面もあったが、無事合流することができた。これなら数の差に圧倒されることもなく、堂々と彼らと渡り合える。
ミラもダガーを構え直し、戦闘の準備に入った。
「さあ、やってやりましょう、リオナさん! 街の平和を脅かす悪党を、私達の手で懲らしめるのですっ!」
「いや、正直街の平和とか、オレにはどうでもいいんだが」
「そ、そこは合わせてくださいよ! 街の秩序の維持も、冒険者としての大事な役目です!」
出鼻をくじかれそうになるのを
どうにも彼女といると、こちらのペースを乱されてしまいがちだ。
気を引き締めるミラ達の前で、三人の盗賊達は集合し、陣形を整える。
三人共がそれぞれにダガーや
強い武器ではなさそうだが、構えからして、扱い慣れている様子が窺えた。
「シッ!」
姿勢を低くし、石畳の地面を強く蹴飛ばして、一息に盗賊との間合いを詰める。
目にも留まらぬ鋭い突進だったが、これに盗賊も上手く反応した。
先頭の盗賊が持っていた手斧がリオナの頭に振り下ろされる。
「せいやッ!」
リオナは降り下ろされる手斧の
相変わらずの破天荒っぷりだったが、効果は
のけ反り、がら空きとなった盗賊の
「ぐうッ⁉」
〝クリティカルヒット〟となったリオナの一撃は盗賊に相当のダメージを与え、僅かな隙を作り出した。
そこを畳みかけるように、更なる攻撃を加えようとしたリオナだったが、
「≪シックスハント≫~ッ!」
二刀のダガー使いの盗賊がリオナの背後から襲いかかる。
手斧使いに向かって既に駆け出しているリオナは、これに対応する手段がない。
ダガーにはそこまでの攻撃力はないから、
避けられぬ攻撃への対応は、もう一人のパーティーメンバーに任せることにした。
「≪ムーンショット≫っ!」
淡い色の光弾が撃ち出される。
しかし、それはいつもの倍以上の直径を持ち、リオナを襲う盗賊のみを狙って飛来した。
通常、≪ムーンショット≫は小さめの散弾を撃ち出す魔法であるが、チャージを長くすることで、範囲を絞ると同時に威力を高めることができる。
散弾だとリオナにも当たってしまう可能性があった為、ミラはチャージを長くして魔法を使ったのだ。
光弾というより砲弾と呼ぶべき巨大な光の弾がダガー使いに迫る。
〝矢避けのローブ〟の効果もあって避けられてしまうが、リオナへの攻撃を防ぐことはできた。
その間に手斧使いとの間合いを詰めたリオナは、
「≪ガロ流・
バキュア戦で盗んだガロ流拳術の奥義を使う。
≪崩城≫は相手を追い込むことに特化した技であり、見切りに長けた盗賊でも、最後のタックルまでは避けることができなかった。
〝マーズバングル〟の効果で攻撃力の上がったリオナのタックルを喰らい、盗賊は民家の壁まで吹き飛ばされる。
それでも上手く壁を蹴って体勢を整えたところを見るに、大ダメージにはならなかったようだ。
(こいつはちと骨が折れそうだな……)
頭を掻くリオナの横で、ミラがダガー使いと交戦していた。
先程の≪ムーンショット≫で、先に排除すべき相手と認識されてしまったようだ。
サポーターは先に倒すべきという基本を冷静に抑えている。
「アッヒャヒャヒャヒャヒャ~ッ! こ~のままなます斬りにしてあげるよぉ~っ‼‼」
「くっ! あまり、調子に……っ!」
ミラはダガー使いに苦戦しているようだった。
接近されてしまった時点でミラには不利だが、遠目から見ているリオナには、それ以上に彼女の動きが精彩を欠いているように見えた。
(……あいつの敏捷性なら、簡単に間合いを取って反撃できそうなもんだが? ……いや、違うな……なるほど、そういうことか!)
ミラの動きを観察し、瞬時に彼女の意図を見抜いたリオナは、
「……チッ、あのバカ! こうなりゃ、オレが加勢するしかねえじゃねえか!」
そうわざとらしく大声で言うと、ミラとダガー使いが交戦する方へと反転し、手斧使いを置いて駆け出した。
(さあ、どうするッ⁉)
チラリと背後を見遣り、手斧使いの様子を窺う。
案の定、手斧使いは焦ったようにリオナの背中を追いかけて来た。
(よし、釣れたな。このまま……)
そうほくそ笑んだ瞬間、リオナの前方に無数のナイフが飛んで来て、正に足を踏み出そうとしたその地面に突き刺さった。
「おっと、アブね!」
慌てて足を止め、辛うじて飛びナイフを
ナイフの飛んで来た方向を見ると、最初にリオナに不意打ちを仕掛けてきた盗賊が、民家の壁にできた影の中から上半身だけを覗かせ、鋭いナイフを手にこちらをじっと睨んでいた。
足止めされたリオナの下に、後ろから追って来た手斧使いが迫り来る。
(……どうあっても、オレとミラを合流させないつもりか。近接戦に優れたオレを二人で抑え、その間にサポート役のミラを仕留める……なかなかいい判断じゃねえか。それに、攻撃力重視の手斧使いと速度重視の二刀ダガー使い、後方支援の投げナイフ使いというパーティーバランスもいい感じだ)
思いがけぬ強敵との出会いに、リオナは
盗賊が相手というのは少し残念だが、楽しめそうなことに変わりはない。
「それじゃ、ま、気合入れ直してやってやろうかッ‼‼」
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