第一章 第八節 ~ あ!野生の泥棒が飛び出して来た! ~


     ☯


 その事件が起きたのは、リオナ達が会計を済ませ、飲食店を出た直後だった。


「泥棒だあーーーーッ‼‼ 誰か捕まえてくれえーーーーッ‼‼」


「泥棒?」


「泥棒ですって⁉」


 声のした方を振り返ってみると、黒づくめのローブに身を包んだ盗賊らしき影が三人、こちらに向かって走って来るのが見えた。

 小脇にコインの大量に入った頭陀ずだぶくろを抱え、街行く人々の頭を軽々飛び越えて逃げている。

 その身のこなしから見ても、かなり高レベルの盗賊であることがうかがえた。


「させませんっ! ≪ムーンショット≫っ‼‼」


 気付けば、隣にいたミラが〝ムーンダガー〟を引き抜き、盗賊達に向かって魔法を放っていた。

 淡い光を放つ光弾が次々に盗賊達へと飛んで行く。

 しかし、


「なっ⁉」


 三人の盗賊は速度を緩めることもなく、ひらりひらりとミラの放った魔法をかわしていく。

 その様子たるや、光弾の方が彼らを避けていくかのようだった。


「ほう……〝矢避けのローブ〟か」


 遠距離攻撃に対する回避率が上がる装備である。

 〝矢避け〟と名前が付いているが、魔法にもその効果がある。


 そうこうしているうちに、盗賊達はリオナ達の目と鼻の先へと迫っていた。

 遠距離攻撃では仕留められない。

 なら、近接攻撃を仕掛けるしかない。


「リオナさんっ‼‼」


 リオナと盗賊が衝突する。

 差し迫る盗賊に対し、リオナは、


「ふむ」


「……え?」


 何もしなかった。

 すぐ脇をすれ違った盗賊に追い討ちをかけることもせず、無感動な瞳でただ平然と彼らの背を見送る。


 直立不動の彼女に対し、ミラが慌てて詰め寄った。


「ちょ⁉ どうして止めようとしなかったんですかっ⁉」


「どうしてって、そりゃテメェ、オレには関係えからだろ?」


「泥棒と聞いたら逃亡を阻止するのが普通でしょう⁉ 関係無いからって、そんな……!」


 彼女達が言い争っているうちに、三人の盗賊は暗い路地裏へと逃げ込んでしまった。

 複雑な路地裏で一度見失えば、彼らを再び見つけ出すのは不可能に近い。

 まんまと逃亡を許してしまう。


「くっ……! 言い争っている時間はありませんっ‼ かく、後を追いますよっ‼‼」


「ああ、いってらっしゃい」


「リオナさんも来るんですっ‼‼」


 半ば強引に引きずられる形になりながら、リオナは渋々盗賊達の後を追った。

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