第10話 ライトノベル作家としての兆し
真由菜とは高校一年生の時に同級生となって知り合った。
元々、リョータと同じ中学の彼女である。俺とリョータが仲良くなると、彼女とその女友達が付いてきた。
俺はまず彼女の容姿に見とれた。その次に彼女のスタイルだ。
咲と比べればいささか華奢ではあるが、スレンダーで彼女には合っている。
次に声だ。その声は可愛らしく、アニメの声優になりたいといった真由菜にピッタリの職業だと思った。
真由菜と話してみれば俺とは趣味が良く合った。リョータと真由菜をヒエラルキーのトップとしたクラスのグループの中で、俺と真由菜は会話が弾んでいたように思う。
俺は少しずつ想いが募っていた。きっと彼女も同じ気持ちだろうと考えていた。
今にして思えばヒドイ勘違いである。
だが、若気の至りとはこういう事の連続だ。
俺はトイレの鏡に映る自分を眺める。醜男というわけではないが、印象は何とも頼りがいのない男といった感じだ。
ナメられやすい。これは自意識が強い俺にとっては耐え難い苦痛である。
リョータが、「リョータ先輩」と呼ばれるのに、俺には「ユウト君」と呼んでくる後輩がいるくらいだ。
生まれが先か後かなんて、今の時代流行らない事なのかもしれない。
だが、その後輩の様に、『敬うか敬わないかは自分で決める』ような考えは、俺には到底できない。
だけど、自分が目上の者を敬っているかというとそうではない。
俺は目上の者を遠ざける傾向にあった。
要するに俺は面倒な男なのだ。
俺は誰の下にも付きたくないのに、尊敬されたがっていた。
何のさしたる才もない男が、自意識過剰であるのは、喜劇としか言いようがないが、自分がこの世界の主人公だと思って生きるしか救いようがないのも事実だ。
でなければ、真由菜に告白なんて出来なかったであろう。
俺が教室に戻っても真由菜は一瞥もくれない。
自分の事を好きだと言った男子なのだから、少しは気にしてほしい。
要は俺の告白なんて真由菜にとっては、何の影響も与えないつまらないイベントなのだと、事実を突きつけられている。
真由菜とは、あれ以来あまり話す事がなくなった。
というよりも無視されていたのではないだろうか。俺はモテない高校生活を送っていたので、そういう事に敏感であった。
だが、真由菜との接点が消滅しても小説は書き続けている。
星を3つ付けて貰うだけで、頑張って書く。応援と称してハートを送られれば、アイデアを練る。読む人がいると辞められないのもカクヨムの魅力といっても良い。
「カクヨムアプリの中毒性はヤバいな」
◆◆◆
GWも間近になったそんなある日、俺のスマホが鳴った。
それはカクヨム運営からのメールであった。
このメールアドレスが、俺のモノで間違いないかという内容である。
「こわ!」
そのメールを読んで俺は震えた。
何か変な小説を書いたのだろうか? いや違う。そんな事はない。なんだろうか?
俺はおそるおそるメールにあるURLをタップした。
結果的に言うと、それはカクヨムWeb上で開催している小説コンテスト『カクヨムwebコンテスト』通称『カクヨムコン』に応募した俺の小説が特別賞に選ばれたとの通知であった。
大賞は、書籍化と賞金が貰える。特別賞は、書籍化を検討してくれるという話だ。
俺の小説は、どうやら書籍化に向かって出版社が動いてくれるというのだ。
他言無用で、書籍化を進めていくという。
「今更やな……」
真由菜に振られた俺は、Webで書いてる小説が書籍化したとしても既に意味はない。
真由菜に告白してから一月も経っていない。
まるで、地獄から天国に引き上げられたかのような感覚だ。
真由菜にフラれ、無価値だと思っていた俺は、誰かにそんな事はないと言ってほしかった。
要するに、このカクヨムコンの特別賞は、そう言ってもらえた気がしたのだ。
夜、俺は咲にこの事を報告した。
咲は俺の部屋のベッドで寝そべっていたが、俺がカクヨムコンの事を報告すると身を起こした。
「え? スゴっ! ユウトの小説が本になるって事なん?」
「いや、大賞ちゃうから、まだ本決まりやないけど、これから検討してくれるっていう賞やな。だから特別賞」
「そうなんや……でもおめでとう」
「ありがとう」
そう言いながらも、俺は苛ついていた。
思えば誰かに誉められたという記憶はない。賞というものや、誰かに勝つという勝負事にも無縁の男だ。高校受験はたまたま上手くいったが、それだけだ。
俺は咲の嬉しそうな顔をいぶかしむ。何故、幼なじみのこの女は喜んでいるのか。
ライトノベルなんて興味もないのに。その苛立ちが伝わったのか、咲の顔に緊張が走った。
俺はやっぱり苛立っていた。素直に喜べない俺は自分自身に苛ついていたのかもしれない。
「咲は、ホンマに……」
俺は言葉に詰まる。
「ねえ、私はユウトが賞を取って嬉しいよ」
咲は俺の肩に手を置いた。
素直に喜べない矮小な男は卑屈な笑みを浮かべるのみだ。
俺は肩に置かれた咲の手に自分の手を重ねた。
驚くにヒンヤリとしたその手の甲は、柔らかかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます