第43話 到着
街まで、あともう少し。道中になんやかんやありはしたが、それらをいともたやすく払いのけていった。
そうして、無事に町の前まで無事に着くことができたのだが……なにやら街の様子がおかしかった。
なにかに怯えるような、そして……。
「これはこれは、カナリア殿下に……かの“英雄”様でいらっしゃいましたか。私はこの街の領主を務めさせていただいております、オリーと申します」
「ああ、ご丁寧にどうも。ウィルです」
「カナリア=フィリス=フローレスです。此度は、騎士ウィル様の各地への外征に同行させていただいている身にございます」
「ええ、陛下より言付かっております。ささ、外は寒いでしょう。どうぞ、中へお入りください」
領主オリーはそういって、領主館の中を案内する。
赤い絨毯に、温かい室内。
寒暖差で、うっかり眠気がやってきたのかカナリア殿下は目蓋を落としつつも目を擦って、頑張って隣を歩いている。
俺が運んでもいいのだが、それは不敬にあたる。
それにカナリア殿下も子ども扱いは癪に障るだろう。
「おい、騎士様と殿下をもてなす準備を」
領主オリーはメイドに言づけると、メイドは即座にどこかへと去ってしまう。
応接間に通され、ふかふかのソファに腰かける。
「それで、外征――とおっしゃいましたが、どのような目的がおありなのでしょう? “英雄”様」
「いや、単なる私欲……欠損を再生するような方法と、とある竜の捜索を行っている」
「それは、確か……」
「ええ。ティーアの怪我と……俺が英雄なんて呼ばれるようになった、あの事件のことです」
「ならば、ちょうどよかった。実はですね――」
なんでも領民が言うには、雪山に囲まれたこの街の上空を一匹の巨大な竜が去っていたという噂が流れているらしい。
それに伴い、魔獣の被害が増大しているとも……。
俺は、胸の傷が疼くことを感じつつもその話を詳しく尋ねていく。
「……分かりました。ひとまず、ここは騎士として、魔獣の被害を少しでも減らせるよう……山に向かいたいと思います」
「おお! 頼もしい限りですな! 剣聖姫の妹君と、英雄様がいらっしゃれば魔獣など一網打尽でしょう!」
「とはいえ、被害を減らすだけなので、継続的な街の警護は領主殿の兵にかかっていることをお忘れなく」
「無論ですとも。それは領主として、最低限の心得ですからな」
そういって、領主オリーは高らかに笑うのだった。
***
……領主のご厚意に甘えて、領主館に寝泊まりさせてもらうことになり……現在。
護衛の面から、カナリア殿下となるべく近い部屋にと頼んだのだが、殿下が「それでは一緒の部屋でも構わないでしょう!」と言い出し、結果同じ客室で寝ることになってしまった。
「……カナリア殿下。いくら騎士相手とはいえ、無防備になる室内に二人きりというのはいかがなものかと」
「いいえ。だからこそ、ではありませんか。騎士様……護衛するなら、徹底的にです」
「それは……」
確かに反論の余地もなく、騎士として当たり前のことだが……異変を察知できる部屋の扉の前でも構わないと思ってしまうのは怠慢なのだろうか。
「それに――今更、だと思いますが?」
「……?」
「一緒に野宿した仲ではありませんか。それに……ここなら、騎士様が火の番をする必要もありませんから!」
「………殿下はお優しいのですね」
「えへへ。お姉様にもよく言われました」
「……ミリア殿下ですか」
ミリアの名前を聞くと、胸が引き締められるように痛い。
罪悪感、なのだろうか? それとも、なにか別の感情。
ティーアに対しても、同じ感じなので多分罪悪感なのだろう。
こんな、過酷で茨な運命に巻き込んでしまったことに対する。……守り切れなかったことに対する。
いつか、カナリア殿下にも襲い掛かると想像するだけで眠れない。……確かに、同じ部屋のほうがまだマシなのかもしれない。
「そういえば、騎士様はお姉様と仲がよろしかったですね! どういったお話をされるのですか!?」
「……そうですね。他愛のない、雑談です……俺はよく剣の稽古をしていたので、あまり記憶にないのですが」
「へぇー……それで、他には?」
「ああ。前線都市でも一緒に戦いました。その時はミリア殿下があの『剣聖姫』だとは知らず、とても驚いたことをよく覚えています」
「なるほどー。では―――」
夜更けまで、カナリア殿下の質問攻めは終わらず……疲れて眠ってしまうまで、喋り続けて……俺もすっかり喉が痛くなってしまったが、久しぶりに安息を感じて、その日はぐっすりと眠りについた。
けれど、やはりというべきか――俺に安息は許してくれず、見知った悪夢と、見知らぬ悪夢に襲われるのだった。
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