第17話 ヴィルの強さ・片鱗(5)
「……
「ほう。……たしかベルクリア公爵の令嬢、だったな」
「はい。次女のエリス・ベルクリアでございます」
誰も怖気づく、そんな中で堂々と名乗り出る者が一人。青髪がドリル状に巻かれていて、どうやったらそんな髪型になるのかさっぱりだけど、それが特徴のお嬢様。
代々王族の側近として仕える公爵家の次女。授業でもその家の名前は出てくるほど有名で誰もが知る名門の一家。
「騎士学院の生徒として過ごしているという噂は本当だったようだな」
「もちろんですわ。我が一族は武においても優秀なのですから」
「いや俺が言いたいのはそう言うことではなく……まあいいか。それで、俺と戦うということでいいんだな?」
きっとそんないいとこのお嬢様がこんな所にいるのか聞きたかったのだろうが、きっと聞いても無駄だと悟ったのだろう。ちなみに貴族用の学園や、武を磨くような場所もある。だというのに、この騎士学院に通っているのはどうしてだろう。
考え始めたら俺も気になってきた。
「では……参りますっ!」
「む……速いな」
「ふふふ。ベルクリア家が得意とする魔術属性は“雷”……それを併用する近接武術こそ、美しく、なによりの誇り!」
「では、こちらもそれ相応には応えるとしよう」
雷光を纏い、音だけがワンテンポ遅れて伝わってくる。本物の雷と見紛うほどの
落雷が落ちるように、焦げ付いた匂いが漂い始め……一度立ち止まり息を整える。片手剣を正眼に構え、再び雷走するがその速度は先程よりも落ちていた。俺が目で見えなくもないような、そんな速度でそれでも俺からしたら速いが、文字通り目に見えて疲れていた。
「……っ! ……っ!」
「……ハアッ!」
ガリア団長の前に立ち止まると、消耗を抑えるためか加速した一撃を捨て長期戦を想定し、確実な一撃を目的とした千歩だった。
閃光のごとき突きの連撃。大きな剣をまるで盾のように構え、その全てを綺麗に撥ね返す。火花が散ってなお、まだ余裕そうな表情に対して挙動がおかしいエリス。
「その《雷装》……どうやら使用者にフィードバックふがあるようだな。長時間纏い続ければ、その雷撃に自らが滅ぼされる」
「……ええ、その通りですわ。ですが、そんな自傷などマナ強化で補えば何ら問題などありませんわっ!!」
気丈に振舞い、更に濃くなっていく雷光。同時に腕に裂け、血が溢れる。痛みで顔が歪むが目つきが鋭く尖っていく。
もう模擬戦の域を超えている。これ以上続ければ――
「……ふぅ。ここまですれば十分だろう」
「え? 何をおっしゃっていますの? これからでしょう!」
「これ以上は体が持たん。それに――」
「かひゅっ――」
「……お前は速いが、遅い。動きの始まりが見えれば対処などいくらでも可能だ」
首を支点に押し倒し、そのまま抑えつける。いつ動いたのか、どんな力を使っているのか。まったくわからない。
「虚と実、この二つにおいてはどちらも欠かせぬもの。ひたすらにまっすぐ突っ込み倒せるのは相手が格下だからでもなんでもない。ただ上にいる者の傲慢さとスペックの高さ故だろう。だから、こうして削り取って、無駄を省いたただの技に負ける」
「ぐ……うぅぅっ……」
そうしてなぜかこちらを見るガリア団長。気のせいでもなく、本当に目が合った。手を放してその手でこちらを指さしてくる。……え?
「その点。そこの少年は技のなんたるかを理解している。……そうだな、試しに俺に一撃を当ててみろ。その動きを見れば少しは理解できるだろう」
「……え?」
「どうした? ……ああそうか、すまんかった。俺は動かないし防ぐのに使うのはこの剣だけだ」
誰もが「なんだこいつは?」という顔をしていた。視線が集中して、自然と心拍数が上昇してくる。
涼しげな顔でこの状況を作った元凶はまだか、と待ちぼうけていた。
「……」
さっきの戦いぶりを忘れたわけではないが……こうもとぼけた態度を取られると、少しばかり胸にくるものがある。
壁に立てかけられている直剣を抜き取り、まっすぐガリア団長のほうへとむける。開始の合図を開こうとするガリア団長。
「では、こ――っ!」
その隙をついて、左手の鞘を投げつける。右手の剣をむけることで集中させ、さらに隙をついた意識がいからの攻撃。しかし、その挙動を見透かされあっさりと防がれるが、これも計算の内。
俺は、イメージを固める時間が欲しかっただけ。
「――――《清水》!」
近づいて、頭上から水を生成させる。
「ふんっ!」
「まじ……かっ!」
剣圧で魔術を吹き飛ばして、勝ったと思った俺の気持ちを驚きへと変えさせられた。
すかさずマナ強化で殴りかかってみるが、児戯のように先程の攻防よりもあっさりと受けちめられガリア団長の後方へと流されてしまう。
必死で考えるが、さっきので決まったと思ったので何も考えていなかった。
「……がああ!!」
「そうくるか……!」
面白そうに、今日初めての笑みを見せる。獰猛な獣を前にしているようで怖気づく……だから、こちらも同じように対抗する。何も考えず、ひたすらにがむしゃらに剣を振る。当然のようにあしらわれ続ける。
息が切れるほど、早く斬り続ける。
「ぷっ……おいおいあいつ。なんだよあの戦い!」
「あっはは。まるでただの獣だな」
「これの何から学べというのか……さっぱりですなぁ?」
「……ッ!」
余計な雑音が入る。
それを断ち切るように、大振りに剣を掲げて――
「な……」
「一撃、ですよね?」
弾くために剣を上に向けたところを、がら空きの胴へと鞘を食いこませていた。
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