第14話 ヴィルの強さ・片鱗(2)


 結構重いけど大丈夫かなと心配しつつ、俺は医務室へと向かっていた。空はすでに夕暮れに差し掛かっており、昨日も今日もあの花畑に行くことができなかった。別にどうでもいいのだけれど、ほぼ日課のようなものだったからか……違和感を感じる。


「ま、いいか。それより急がないと怒られる」


 放課後になったらすぐにこいとのことで、アリストは医務室で待っているはずだ。イタズラ好きでいつもおちょくってくる割に時間には厳しいのだ。

 それに、なぜか顔を合わせることができそうになかった。ミリアはきっと俺とは違う世界に住む人だろうかから。少し違うかもしれないけど、あの普遍な在り方というか夕焼けのような笑顔の前で耐えられない気がする。あれ以上関わればあの裏にある真実を知ってしまいそうな気がして、俺の中で俺が守りたい幻想のままでいるのが一番だと自分の中で結論付ける。


「ん。いらっしゃーい」

「ああ」


 医務室の扉を開けると、ひどい臭いがまず鼻につき、見渡すと材料がそこらに散らばって、薬草の濃い臭いが充満していた。原因は間違いなく机の上で調合していたアリストだろうと、近づく。


「ちょっと待って。すぐに終わらせるから」


 いつもより隙が多いアリスト。それだけ集中しているということか。言われて、備え付けのベッドに腰かけてじっとその作業を見つめている。今作っているのはおそらくポーションだろう。薬草から作られて即効性の治癒能力を備えているポーションは国から認められた錬金術師さけが作ることを許されている。


「ふぅ……ああ、お待たせ。さっさと終わらせようか」


 つまりこいつは一流の治癒術師でありながら錬金術師でもあるということだ。どちらも暴対な知識と経験を必要とされるらしいけど、アリストはそれ以外にもたくさんの知識を保有している。

 それを昔尋ねたときに悲しい顔をされて以降深く踏み込むようなことはしていない。


「んじゃ、まずは軽く診察から……」

「分かった」


 手に光が灯り、俺の額から全身にかけて異常がないか確認していく。数秒もすれば診察は終了し、今度は後ろに回り込んで背中……心臓の位置から治癒魔術を流し込んでいく。

 全身の至る所がボロボロのせいで、血を巡るように治癒魔術を掛けないといけないらしい。


「ふふふ。お客さーん、他に気なるところはございませんかー?」

「……なにふざけてるんだ」

「いやあ、ヴィルさんの反応が面白くて、つい」

「はあ……」


 途中でふざけて髪を弄ってくるアリストを回避しつつ、治療は続いていく。

 一気に回復はしないのでどうしても時間がかかり、始めの内はいいが何もせずじっとしているのはだんだんと飽きてくる。おまけに全身が暖かい陽気に包まれているようで、眠くなってくる。


「……」

「あれ、ヴィルさん?」

「ん。ああ、なんだ?」

「いえ……もしかして寝てました?」

「いや、そんなことはないぞ」

「寝るなら寝てもいいですよ? 一日くらいならこのベッド貸し出しても。一応、重病人の扱いですし」


 そう言って俺から手を離すとベッドをポンポンと叩くアリスト。その目は俺を心配していて、純粋に厚意からの申し出なのだろう。


「それに、かなり危険な状態だったのであまり目を離したくないので……ヴィルさんの部屋がある寮には流石に付き添えませんが、ここなら問題ないですから」


 らしいのだが、そこまで言われると断りづらい。けれど別にそこまでされる覚えはないので普通に断るけど。


「いや、部屋に帰ってしっかり安静するから大丈夫だ」

「そう? なら――」





「……はっ!?」


 気がついたら俺は医務室のベッドの上で寝かされていて、窓の外を見れば朝日が昇っていた。

 治療を受けていたはずだけど……そこから先のことはよく覚えていなかった。ただ一つ言えるの……アリスト怖い。

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