第4話 騎士団長会議、剣聖王女は戦陣へと参らん
今日は久しぶりに王城の会議室に訪れていた。いつもの動きやすい村娘風な衣装とはかけ離れた騎士然とした軽装に、お父様――陛下より賜った宝剣を携えていた。
「……もしここにヴィルがいたなら、驚くかな?」
彼のことだ。きっと驚いた後、似合わないと面白そうに笑い飛ばしてくれるだろう。
しかし、彼のような者はここにはいないしいたとしても、この場で笑える者などそれこそ、相当な身分の者でしか許されないだろう。
「姫様。そろそろ」
「ええ。分かったわ」
私に仕えるメイドが会議の始まりを告げるとそっと、その場から姿を消す。
この口調は相変わらず、慣れないな……
「みな、出そろったか……」
円卓の上座に位置し、そう言葉を発するのはこの王国の最強にして圧倒的な軍事力を誇る『黒竜騎士団』の団長、『黒竜狩り』のガリアだ。
英雄譚に上がるほど彼の異名となった黒竜討伐の物語は私も子供ながらに憧れたものだ。……もっとも、今は英雄としての尊敬はあるが憧れは薄れているけど。
片目に、鋭い眼光は他の者を委縮させる。
そんな中で、次の言葉を待つ私たち
「では、前回の被害報告と帝国との最前線の状況を……サキナ団長」
「は、はっ! 現在我が王国騎士軍はそちらの……『剣聖』殿によりやや優勢ではあります。被害としては、食料の備蓄や士気の低下でしょうか?」
『花蓮騎士団』を率いる女性騎士のサキナは、緊張しながらも的確に帝国との戦争の状況を伝えてくる。
王都は平和そのものだが、こうして戦線の現状を聞くと現実に引き戻されてしまう。
「ふむ。食料に関しては次回の『ロイヤルナイト』の派遣に際し転移魔術に伴い搬送するとしよう。……王族親衛隊としては魔術師の負担などはいかがなものかな?」
「はい。問題ないでしょう。親衛隊の者はそれしきのことでへばるほどやわな鍛え方はしておりませんので」
「けっ、お姫さんのおままごとに付き合ってるだけのへっぽこ騎士どものくせによく言うぜ」
ガリアの問いに、先程私に伝えてくれたメイドの……マリーは威圧感がすごい団長にも引けを取らず淡々と答えていく。そして、その様子に対して嫌味を放つ『蒼狼騎士団』の団長。
元々『ロイヤルナイト』とは、王族率いる直属の騎士団であり現在は陛下の指揮ではなく私――『剣聖王女』であるミリア・フォルメ・フローレスによって率いられている。そのせいかこうしたやっかみが多く苦労が絶えない。
そして『ロイヤルナイト』はもう一つの騎士団を傘下としている。それがマリーを主軸とする少数精鋭の『王族近衛騎士団』。その中でも特別な『特務親衛隊』。マリーはその団長と隊長を務めており、肩書が『王族近衛騎士団団長兼特務親衛隊隊長』とかなり長いことになっている。
「……今のは、姫様の侮辱捉えますがよろしいので?」
「けっ、事実だろ。こうしてオレにあれこれ言われても何一つ行動できない軟弱な王族だろうがよ」
「…………」
マリーはかなり怒っていて、腰を上げかけるが……この場ではふさわしくないと思い留まってくれる。
私に対して少し、過剰気味なほど反応してしまうのが偶に傷だ。
「さて、『月光騎士団』のその後の進展を」
「は、はいっ。え、えと……その、現在帝国の首都まで潜入が完了……それ以降の進展は、えっと……ない、です」
「そうか。引き続き情報収集に努めてくれ」
しどろもどろになりながら自身無さげに答えるのは諜報活動を主とする『月光騎士団』の団長……ではなく、その代理の副団長だ。団長である、アリサはよく行方が分からずこうして会議にもよく欠席する。が、いかんせん優秀でどこから集めてきたか分からない有益な情報を提供しているため見逃されてはいる。
「『紅玉騎士団』と『蒼狼騎士団』の魔獣討伐の現状を」
「はっ。全て滞りなく」
「問題ねえよ。ただ、数は増えてやがるがなぁ」
「そうか……やはりこの時代にかの“魔王”が復活するのかもな」
『…………』
魔王――魔獣と呼ばれるマナに汚染された生物をまとめ上げより凶暴化させる伝承にしか存在しない。
太古の昔に勇者と呼ばれる者が討伐には至らず『封印』したらしく、この時代に復活するだろうと予言されている。
「け、んなもんはいいけどよ、帝国の戦争をどうすっかだろ? なあ?」
魔王の単語で緊迫した空気に、嘲るような声が響き一変する。
「……その通りだ。それで先程も伝えたがミリア殿下には――」
「はい。私が最前線へと赴き、敵を殲滅。兵士の士気を高める……ですよね」
「………………そうだ。3日はかかるだろうから、その準備を忘れずに」
「はっ」
ガリアは悲しそうに、そして何より辛そうにこちらを見つめてくる。小さい頃からの知り合いであるからか、もしくは私が王女だからなのか、気にかけてはくれている。
しかし、心配は無用だ。
私は――
「ひゅ~……さすがだぜ王女サマ。即答かよ」
「当然です。王女として自国のため、身を粉にして尽くすことは義務です」
「ほー、そうかい」
ひどく矛盾しているとは我ながら思うが……ヴィルに対して普通の女の子として接してそうなりたいと願っているのにこうして王女としての責務を果たそうとし、そのことに確かな誇りを掲げていた。
一体自分は何をしたいのか、たまに忘れそうになってしまう。
「ではこれにて、騎士団長会議は閉鎖とし――」
「あー、ちょっといいか?」
「――なんだ、『白金騎士団』団長」
「すこーしばかり、私的なことなんだが報告しなきゃならないことがあってな」
ぼさぼさな黒髪に寝不足気味な隈の濃い目つき。よれよれのコートを着て何かに取り憑かれているようにいつも落ち着いていない、不気味な騎士団長。
名前はルキだったはず。
「最近、帝国に関して妙な噂を聞くようになった。それは、魔王信望者が蔓延るようになったそうだ。……これに『月光騎士団』が気付かないはずがない。そのことに対しての説明を求めたい」
「何? それは本当か?」
「ついでに言うなら、『魔獣喰い』も流行っているな」
全員が、『月光騎士団』副団長のほうへと目を向ける。ルキもルキで情報の出どころが謎なところが多いが、今はそのことを気にしている余裕はなかった。
「ひぅっ……ええっと……だ、団長の指示で、ルキさんが発言するまで言ってはダメだって……」
「ちっ……やっぱりアイツかよ」
『魔獣喰い』……この国、世界で禁忌をされる行為であり、かつてこの国に災禍をもたらしたのもまた『魔獣喰い』である。
その地獄を体験したものはごぞってこう言うのだ。
――2度と味わいたくはないと。
「まぁ、いい。
「……待て、貴様……仲間を、あまつさえこの場にいることを許可された者を疑うというのか。それは、陛下にたいしての侮辱だ!」
これで終わり、かに思えたがルキの何気ない一言がサキナの逆鱗に触れることとなった。
彼女は潔癖、騎士道や仲間の信頼など忠義を重んじ、とにかく綺麗なことが大好きでそれを汚すものは許せない。
「ちっ、面倒だな……」
「……ッ。貴様ァ……!」
一触即発の雰囲気を感じ取り、それぞれが戦闘態勢へと思考を切り替えていくがズンと腹に重しが乗っかったような衝撃に一瞬で意識を向けられる。
「……君たちねぇ……今日こそ黙って見てようかと思ったけど、流石に度を越しすぎ。いい加減にして?」
「ちっ……」
「ふん」
誰もが知らず知らず恐怖していた。このものはあらゆる生物の頂点に位置すると、本能が認めていたのだ。
だから、逆らわない。反論しない。
「ま、じゃあね。もう終わりでしょ?」
「あ、ああ、はい。これで以上です」
そうして、騎士団会議はいつものように後味が悪く苦い思いを抱えて終わりを迎えた。
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