第2話 羽つきの

 3時間目が終わり、僕はいつものようにトイレに行く。3、4時間目は担任の先生が教室にずっといるから、視線が痛い。「一人でいるのは可哀想だ」や「友達がいないのは問題だ」と思われたら大変な迷惑だ。まあ、今の草岡先生はそんなこと思わないだろうが、なんとなくそわそわするので教室を出てトイレに行っている。

 トイレで用を済ましハンカチで手を拭きながら、教室に戻っていると角から出てきた人とぶつかりそうになった。

「あ、すいません…」

 僕はとっさに謝りぶつかりそうになった人をみた。

「別にいいのよ」そう言い放ったのは、明らかに人ではなかった。まず、羽が生えていたし、目も髪も緑色だ。それに加え、妖精のようにぷかぷかと浮いている。

「珍しい?私の姿」

 緑の人のようなものは、ニヤッと笑いながらといかけてきた。僕は、驚きを隠せず「は、はい…」と吃ってしまった。

「ふふふ、別に怪しいものじゃないわ。私は、天使のプリィ。そんなに驚かなくても食べたりしないわ」

 天使は楽しそうに僕の周りをくるくる回りながら自己紹介をし「あなたは?」と僕の目の前に降りてきた。

「ぼ、僕は岡田太郎。よ、4年3組…です」

 天使は「ククク」とおかしそうに笑うと、また僕の周りをくるくる回りだす。しばらくして思い出したように止まると「もうそろそろ授業始まるんじゃない?」真剣な顔で振り返った。

 あっ、と思った時にはもう遅かった。「キーンコーンカーンコーン」始業のチャイムが流れて出した。僕は急いで教室に向かう。天使のことも気になったが今はそれどころではない。

 一刻も早く教室に行かないと、みんなが着席している時に教室に入ることになる。それだけは避けなければいけない。僕は、あの好奇な目を向けられるのが苦手なのだ。それに遅れた理由がトイレに行っていたなどとなれば、今日はクラス中の笑い者だ。

 「急げ、急げ」心の中で呟きながら、ほんの20メートルをダッシュする。間に合ったかどうか気になるが教室の見えないところで息を整える。息が整ったところで教室に入ると、みんなまだ席を立ってそれぞれ友達と喋っていた。

 僕は、誰とも目を合わせないように席につく。その数十秒後、草岡先生が教科書を持って教室に入ってきた。

「はい、じゃあ授業を始めるよ」

 先生は特に怒った様子もなく授業を始め出した。この前理科の中村先生に「授業前に席についてないのは3組だけだ」と言われ草岡先生からも注意を受けた。だから今回は注意を受けるかと思ったが、草岡先生も中村先生の話を聞き流しているのようだ。

 僕は、嫌いな先生が先生の中でも嫌われていることにほくそ笑みそれを隠すように教科書を開く。すると、ひらひらひらと紙が机の下に落ちていった。何の紙だろうと拾い上げると「放課後、教室にいて」とクレヨンで書かれていた。

 僕は直感的にさっきの天使からの手紙だと思った。クラスのやつの可能性も十分にあり得るが、なぜか天使だと確信している。そうなると放課後が楽しみになってくる。僕は人と会うのが楽しみとは思わないが、天使と会うのは楽しみなようだ。

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