第19話 神の見えざる手
織田信長が天下を掌握するまで、危機は何度も訪れたんだ。
いっそ、泥水のなかに倒れても不思議じゃなかった。
彼は圧倒的な勢力で、軽く天下を取ったんじゃない。まして、彼のカリスマ的な力で家臣や兵をまとめ上げたってのも嘘。
とっぴょうしもない軍事的才能があったというのも違う。
じゃ、当時、偉大だと思われた武将が天下を取れず、なぜ、信長は統一目前までいけたのだろう……。尾張という土地に絶妙な地の利があったと書く者もいる。
では、同じ状況、同じ条件下なら、他の人でも天下は取れたのだろうか。
たとえば、織田家の家督をついだのが、家臣が認める優秀な弟信勝であったなら、天下は取れただろうか。条件は同じだが、私は否と書きたい。
弟の信勝は優秀で人望もあり家臣に慕われていた。
人の意見を聞く良き領主になったであろう。それゆえに古くからの重鎮と尾張を統一はできそうだ。そこまでなら、信長のように家中をまとめるのに10年かからなかったかもしれない。
信勝は能力主義ではない。羽柴秀吉や明智光秀など、どこの馬の骨かわからない人物を登用しない。
古くからの家臣に温情を与える。なぜなら、彼は優秀でいい子だからだ。人から褒められたい人間だからだ。
僕はすごいと思われたい。
そこが信長と違う。
弟の信勝は足利義昭を追放し、比叡山焼き討ちをする胆力はない。
2度も兄信長に逆らうプライドはあっても、そこ止まりのいい子の秀才でしかない。
信長は理論的に物事をみる。こと仕事となると情に流されない、人をこき使い、自分についてこれる優秀な人材だけを集める。
従来の家臣という
先の見えない時代、信長のような経営者は少ない。そして、彼についていく部下は並大抵では務まらない。
意外なことに信長は何度も裏切られ、負け戦も経験している。
彼の人生をみると、他の戦国武将と同様、途中で命を落としても不思議じゃないことが何度もあったんだ。
なぜ、彼は天下人、ま、直前までだけど行けたのだろう。天下統一は9割方できていたのだ。その後は豊臣秀吉でなくても配下のものなら天下を取れたろう。
だから考えてしまう。
そこに神の御手が働くのだろうか? それとも、実力なのだろうか?
天正元年(1573年)夏、信長最大の危機が訪れようとしていた。
(つづく)
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