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今日の君は、いつもと少し違う。眉間にしわを寄せてなんとも言えない顔をしながら、分厚いハードカバーの単行本と向き合っている。確かに普段からそんな感じではあるけれど、それでもどこかいつも不機嫌そうな顔とは違う気がする。
君の邪魔にならないように、こっそりと表紙を覗き込んでみた。
そこには難しいことばが並んでいて、私にはなんだかよくわからない。よくわからないなりにひとつわかったのは、これが難しい本だということだ。
そうか。今日の君は難しい顔をしているのか。
いつも小説しか読まないのに、少し挑戦してみたくなったのかな? それとも、毎日の読書は最初から難しい本を読むための訓練だったとか? そうだったのなら、なんだかすごくさみしいな。
……ん?
そういえば昨日、クラスの勉強のできる男子が難しい本を読んでいて、クラス中にちやほやされていたっけ。
まさかそんなわけない。……よね?
君の単純さが可愛くって、可笑しくって、噴き出してしまう。
隣から視線を感じる。
バレちゃったかな? 徐に隣を見ると、君がこちらをにらんでいた。
目が合った。いつもだったら腹立たしげに一瞥するだけなのに、今回は長く、一生懸命にらみつけてくる。私は嬉しくなって手を振ってみた。もちろん笑顔は忘れずに。
すると、すぐに君は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
周りなんてお構いなく、私は大胆にガッツポーズ。君の隣の席になって初めてまともに君と目があった。でもやっぱり、目をそらされて少し残念。すごいねって言ってあげればよかったのかな。
また君を盗み見る。予習のためにと教科書を読むフリをして盗み見る。
あれ? いつの間にか君はとっても楽しそうな表情。
わかった。読んでいる本が変わったんだ。
さっきまで読んでいた分厚くて難しいハートカバーは雑に鞄へ投げ込まれていて、君はお気に入りの革のブックカバーのかかった文庫を開いている。
無理して背伸びするキミもいいけれど、やっぱりそうやって無邪気に本を楽しむ君が、いちばん好きだ。
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