君の隣で

姫川翡翠

1

 隣の席の君はいつも不機嫌そうに本を読んでいる。

 いつも私はそれを盗み見るのだけれど、すぐにばれてしまう。

 君はこちらを一瞥して小さく舌打ちする。

 その瞬間が、私は好きだ。

 だってその瞬間だけは、君の意識は本から離れて私だけのものだから。

 でも君はそのうち私のことなんて忘れて、本に没頭してしまう。いつもの仏頂面も、笑ったり泣いたり怒ったり驚いたり、さながら百面相だ。

 それからハッとして、自分がのめり込み過ぎたところを見られたのでは、と周りを見回してからほっと息を吐き、また不機嫌な様子に戻る。その繰り返しだ。

 そんな君が何よりも愛おしい。

 そんな君を見たくって、私は今日も盗み見る。

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