第6話 スローライフって、軟禁生活って意味だっけ?

 小谷城陥落からどれくらいの時間が経ったか、もう数えるのも飽きたので止めて久しい。娘というか、私的には妹のように思ってしまう実子達と隔離されてからも長いのよね。出産時に表に出ていなかったせいか、本当に自分の子供と言う意識が薄い。申し訳ないけど、許してほしいなぁとは思うし、会話位はしたかったのだけど、その機会が守山城に来てから一切訪れていないのよね。


「というかさ、思いっきり監禁? 軟禁? 的な生活よね。まあ、不自由と感じるかといえば、そうじゃないから性質が悪いのかもしれないわ」


 思わずボヤキが口に出る程にすることがない。三食昼寝付の終身雇用的な何かだ。市とか馬鹿クレオみたいにやりたいことがないのも一因なのは分かってる。でも、前世の記憶じゃないわね、前々世の記憶があやふやになってきているのが一番の問題点だし、どうしようもないという悪質さだわ。


「あ、監視ご苦労様―」


 廊下ですれ違う下女さんや庭先で見かける忍者っぽい人に手を振る私。超絶鈍感現代人だった私がどうしてわかるかって?


 悔しんだけど、市とか馬鹿クレオの時は全然分かんないんだけど、何故か私が表に居る時は向こうから接触してきたり、あからさまに視線を向けてくるので分かるのである。気が抜けてるか、仕事の手抜きかどちらかだと思う。

 だって、100%私が表の時しか、そういう事がないから。私の事がバレているのかと思ったけど、そうではないらしく私が気の抜けた状態だと思われているらしく、そういう時まで向こうも気を張りたくないらしい。


 それはいいのだろうか?


 絶対、私じゃない時に、何かやられてると思うよ。だって、私が表なら、残りが裏だもん。この状況は100%見えてる筈だし、そういう所をあの二人が利用しない訳ないでしょ?


「まあ、これで私の暇つぶし付き合ってくれる人が居たら最高なんだけど……。この前の碁石を代用したリバーシに付き合わせた非番の武士の人の『何考えてんだ、コイツ』っていう視線が痛いのなんのって。碁とかわかんないし仕方ないよね?」

「にゃー」


 縁側に腰かけて猫相手に愚痴るのも寂しいわね。




 そんな生活を送っていたある日、場内が慌ただしくなった。極力、誤魔化そうとしていたみたいだけれど、人間に口がある限り秘密は漏れるように出来ているようで、数日後に原因がハッキリした。勿論、聞きだしたのは私じゃないよ。言ってて悲しいけど、コレ本当なのよね。


「於市様、信長様が討ち死になされました。仔細は不明なれど、本能寺に逗留中に襲撃されたと伝わっております」

「そう。お兄様が。それでお相手は誰かしら? お猿さん? 金柑頭? 意表をついて性悪狸かしら?」

「!! そ、その、明智、明智光秀にございます。しかし、その命も風前の灯かと、織田家総出で仇敵討伐の準備をしているそうにございます」

「準備ねぇ……間に合うといいわね」


 市は、早馬の伝令を捕まえて情報を聞き出しているが、普通なら出戻りの監視されている妹に話すような事じゃないと思うけど、今更ね。というか、私の記憶を覗いたのかな? 信長がお兄ちゃんが死んだのに妙に冷静ね。


「貴方、もうここでのお仕事は終わりですわよね?」

「はっ、もう戻るだけにございます」

「なら、少しお願いがあるのだけれど、聞いて下さるかしら?」


 うわぁ、いやらしいわね。そっと手を握りながらとか、見た目は10代だから中身はおばさんでも威力抜群じゃん。この人、外から来た人だから私の事を良く知らないのかもね。ツイてないなぁ。古参の伝令なら、こんなことはないんだろうけど。


「も、勿論であります!!」

「じゃあ、■に、この文を渡してくださいね。これは、ほんのお礼よ」


 色だけじゃなく、金まで使うのね。徹底してるわ。馬鹿クレオなら色だけで済ますとこでしょうけど、市はそういうの手抜きしないのが怖いのよね。これって兄譲りなのかしらね?


 と言うか、誰に渡すのか聞き取れなかったけど、気になるじゃない!

 嫌がらせと言うか、色々と蚊帳の外で辛い……けど、私は負けないもんね!

 転生者舐めんな、バックトゥ○フューチャーも戦国○衛隊も学習済みだかんね、今に見てろって話なわけよ。


 臨時収入に喜んで去っていく伝令を見送りながら、何を書いて渡したんだかと考える私。史実っぽい流れなら秀吉が大きなアドバンテージを取るのよね。光秀やっつけちゃってさ。あぁー、そういや、秀吉って市が好きなんだったっけ?

 でも何か、昔、市が猿とか不細工は嫌とか言ってた気がするね。


「あらら、初心な伝令さんに酷い事をするのねー」


 醸し出す色気が少し濃くなった感じがするってことは、馬鹿クレオが強めに出てるのかしら?


「骨肉の争いの匂いがプンプンしてきましたわー。お兄様の子供達の愚鈍さと言ったら、思わず笑ってしまう程に手が付けられませんしね。それに加え、家臣も尖ってる者ばかり、これでは家中は纏まりませんわぁ。何か直系鬼札でも無い限り……うふふ」


 監視の者達に聞こえるような大きい声での独り言を繰り返す馬鹿クレオ。めっちゃ、煽ってますよね?


 鬼札?


 普通に考えて、信長の子だけど、長男も一緒に死んだって言ってたよね、さっき。長男が、後継者だったんだから、次男以降もチャンスだから揉めるんだよね? 

 それも無能同士で。


 あ!


 後継者の子供が居たらっていうか、居たよね確か。

 でも、それって、鬼札っていう?

 私、馬鹿よりだから自信ないけど、そういうときって切札とか単に後継者とかって言えば済むような気がする。色ボケしててても元女王様な馬鹿クレオがそういう言い間違いする? いや、日本語がおかしいのはお互い様だけど、なんか含むところがありそうな気がするんだよね。



 あれ?

 考えに耽っている間に、いつの間にか部屋に戻ってるじゃん。つか、もう寝るの?

 流石にそれはなくないとか言っても主導権がないから、どうしようもないんだけどさ。ちょっとくらい私にも情報くれても罰あたらないよ? 最近、記憶覗きもブロックするし、酷いって話だよ、こっちは筒抜けっぽいのにさ!!


 あー、なんか引っ張られるように意識が飛ぶぅー。くっそ、卑怯だぞ!

 睡魔まで送り込んでくるな……ん――。




――いつもの二人の悪巧み?


「あー、流石に可哀想じゃないかしら?」

「そう? 過程はともかく、決定にはかなりあの子の意向を受け入れてると思うのだけれど?」


「んー……」

「まあ、そのあたりの話は収まりがつかなくなるからこれまでにしてくださいね。それと、近いうちに直接的に戦に絡みたいので期待してますよ、クレオパトラ7世様?」


「まあ、やれって言われればやるわよ? でも山岳戦とか昔の彼に聞きかじった程度くらいしか知らないから期待外れでも怒らないでね?」

「そのあたりは貴女のカリスマで士気さえ上がれば解決するとおもいますから大丈夫ですわよ。皆死兵になってくれれば戦力の多寡や指揮の差など些細な事ですもの」


「出来ればそこまでしたくないのよねぇ。戦争は基本兵力差で勝つものだしねぇ?」

「それは無理な相談ではなくて? あの子の言う、破滅フラグを持っている私達に、そういう環境は巡ってこないことくらい分かってますわよね?」


「はぁ……それを言われると困るのよねぇ。まあ、最大の機会だった金ヶ崎でしたっけ? あそこで遊んじゃいましたもの」

「そういうことです」


「仕方ないわねぇ。最善を尽くしましょう。戦場で良き男が見つかることに希望を見出しましょう」

「貴女のそういう前向きな所は好きですわよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る