第5話 お兄様は、敵か味方かどっちなの?
ここ何度か意識が深層に沈んでいたお蔭で、身体を動かせないのに意識があって情報だけが取り込まれて来る面倒さと苦痛を忘れていたわ。
本当につまらない上に苛つく。
3分割されていた頃は、何かと文字通り口出し出来たりしたんだけど、あの二人が融合?した結果、私がおまけみたいな感じになってしまった。まあ、市と言う人間の人生に割り込んでいる時点でおまけなのは否定しないけど、これじゃあんまりだと思う訳。
「市ぃ、おみゃぁは何処に付く?」
で、暇を持て余す私は戦後処理というか、小谷城脱出の後、すぐに信長の下に連れられてきたみたいなんだけど、久し振りに聞くみゃぁみゃぁには、思わず噴き出した。勿論、心の中で。
いやいや、方言について思う所はないんだけどさ、この強面お兄ちゃんこと信長が言うとギャップが酷くてさ。
「お兄様、それは答えようがありませんわね」
「にゃん――なんだと!?」
いやいや、その言い間違いはないわ。やっぱりワザとキャラつくってんじゃん、お兄ちゃん。
「昔々、私はお兄様に武田家などが嫁ぎ先が良いと述べました。しかし、結局は先の読めぬ箱入り甘ちゃん息子の長政様の下へと嫁ぎました。これはお兄様の要望です。お兄様の節穴のような目で見極めた嫁ぎ先がしでかした不作法を私に付きつけられても困りますわ」
「……」
どうやらこめかみがピクピクしているけれど、最後まで聞いてくれる感じみたい。
「それに小豆袋はお役に立てまして?」
「……あの程度の仕事で全てを帳消しにせよとでも申すのか?」
「あら? あらら? もしかしてお兄様は、あのような風情の欠片も無いお知らせをこの市が為したと本当にお思いで?」
「!? 市! お前、最初から知っていたとでも申すのか!?」
「あら? 最初からも何も、お兄様はこうおっしゃっていたと思いますが?『織田家の事も大事ではあるが、長政を気に入れば手助けしてやれ。だがその時は織田家からの支援はないと思え』でしたか?」
あー、私が寝ている間にそんなやり取りもあったのね。全部が全部記憶を覗くのも同じ時間だけ掛かるから適当に検索して見てたら、こういうのが抜け落ちるのよね。で、長政を悪い意味で気にいったんだろうね、市か馬鹿クレオかどっちかは知らないけど。
「長政様には丁寧にお話して策を弄した結果、お兄様は無様にも虎口に飛び込んで頂けたわけですが、そんな状況で私がお知らせすると思います? うふふふ」
「それではおかしいではないか!? 符丁も細工もお前しか知らぬものであったのだぞ」
あー、怒っていると言うより、何がどうなっているんだと言う感じですかね。つか、丁寧にお話とか、それって私がブチ切れた件ですよね?
「それはそうですわ。甘くて愚かな、それでいて可愛い長政様の行為を手助けしたのも私ですもの。お兄様が私の思っていた名将であったなら金ケ崎で天に召されていたのですけれど、残念ながら凡将であったようです。畿内に楔を打ち込む重要な戦の最中に他家に嫁いだ妹の文をあっさり受け入れたなどと知った時には、下品でしたがお腹を抱えて笑わせていただきましたわ」
「……ぐぬぬぬ」
あー、そりゃ怒るわ。でも怒鳴れんわね。
救われた報せが裏切者の長政仕込みで、それを知っていて子供の悪戯のように手伝う妹。金ケ崎の悪夢のような挟撃が妹の長政を操り仕切ってみせた知略は、自分の何気ない言葉が生んだと知るに至っては、もう心の中はぐちゃぐちゃでしょうね。
裏切り上等、親族でも信じるなという世界でもやはりどこかで血の繋がりは大切で、そんな中でそれなりの聡さを見せていたのを見ない振りで他家に嫁がせた妹に生死を握られていたと裏切者討伐後に知らされるとか、私だったら逆切れするわ、絶対。
「お兄様が楽しんで頂けたのであれば幸いです。浅井家も無くなりましたし、息子も殺すのでしょう? であれば、娘たちを含めた私達をお好きに駒として使われればよろしいかと思いますわ。これでも織田家総領の妹ですものね、使い勝手は此度の戦をみればご理解頂けるかと」
「……であるか……下がってよい。追って沙汰を申し伝える」
「はい。では、お兄様の武運長久をお祈りしておきますね」
いや、マジで私死んだかと思ったんだけどさ。信長って短気で有名なのに、これで怒んないのは凄いよ。つか、市マジ鬼畜じゃん?
いやいや、私も絡んでる部分あるけど、この子こんなにキツイ子だったっけ?
でもまあ、命繋がったのは有難いのか、このやるせない状況がまだ続くのかと思うと微妙ですよね、ホントにさ。身体の主導権ないし、痛覚ない今なら破滅フラグで死んでもよくない?
はっ!?
いやいや駄目でしょう。何か考えがおかしくなってきてる。何が原因かわかんないけど、マジヤバいって。寝たくないけど、こんな時は全部投げ捨てて寝るしかないわ。おやすみなさい、次起きた時には追い込まれていませんように! 振りじゃないからね、マジで。
――二人は於市、心情最大
「さてさて、どうしたものでしょう。お兄様に嫌われていなければ良いのですが……」
「無理じゃない? あの子じゃないけど、さっき殺されていてもおかしくなかったよ? 私の前世だったら確実に死んでたね。ネフティス様来ちゃって葬式のあとオシリス様の下にごあんなーいって感じだね」
「貴女、私との繋がりを持ったのですよね? それにしてはあの子の影響を受けすぎではなくて?」
「それは仕方ないと思うわ。2世代という言い方が正しいか分からないけれど、前世でも一緒だったあの子に引っ張られるのはどうしようもないもの。だから、先に貴女と合流したのですよ? 誰が好き好んで自我を混ぜ合わせたいと思います? 私が私であるからこそ輝くのです、それは貴女もよねぇ?」
「そうね……でも、お兄様の扱いに関しては私が一番よ。お兄様には強く出るべき時に怯んでいては駄目なの。短気で傲慢な所もあるけれど、基本は慎重で思慮深いのよ。あれだけ私達の怖さを示せば少なくともすぐに殺されたりはしないわ。すぐには、ね?」
「そうだといいわねぇ。私前世で、弟に殺されたっぽいから兄弟は信用しないかなぁ。血って時には毒より酷いものよ」
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