第4話 どうして、状況が悪化してる訳?


 小谷城が燃えている。

 いや、正確に言うと燃えかかってるって感じね。包囲されて逃げ場なしで、本丸にも敵勢は押し寄せているからね。小丸というか、隠居部屋に隠れてた義父上の首が落ちったっぽいし、本当にヤバいですね♪って感じだわ。


「っつーか、何でこんな事になってるの!? 私、言ったよね? 手段を選ばす信長の首を取れってさ? 言ったよね?」


 目の前で観念してる馬鹿夫に癇癪をぶつける私は悪くないと思う。だって、市&馬鹿クレオの記憶を覗く限り、信長にチクったの馬鹿夫だよね?


 バッカじゃないの?


 自分が討ち取ろうとしている相手に作戦ばらすとか、無能すぎて私、涙が止まらないわよっ!


「秀吉殿から使者が来ている。於市の身の安全は保障すると。娘も義兄上の機嫌次第では息子も生き残れるかもしれないとも」

「はぁっ!? この期に及んで何夢見てんのさ? お猿さんの点数稼ぎに決まってんでしょ? 息子は斬首に決まってるわよ!!」

「!?」


 私が叩きつける言葉にビクリと肩を震わせる馬鹿夫長政。

 いやあ、市も馬鹿クレオも思う所があるだろね。身体の主導権をあっさりと私に渡して傍観を決め込んでいるんだから相当でしょ。多分だけど。


「そもそも私の名を語っても特殊な符丁と細工がないとお兄様に届かないからね? 馬鹿みたいに小豆袋送ったって、普通は毒物扱いで捨てられるに決まってるでしょ。そんなのも分かんないから、こんな馬鹿な事になってんのよ!」

「え? え? だが、確かに届いた筈……だから、義兄上は金ケ崎から退けたのだろう?」

「そうよ、どっかの馬鹿乙女というか色ボケが、馬鹿旦那の行為を手助けしちゃったんでしょうね。イライラする、本当にイライラするわ」

「??????????」


 そう。馬鹿夫のチクリを手助けしたのは、市と馬鹿クレオなんだよね。何考えてんのか知らないし、分かりたくもないけど絶対何か企んでる気がする。というか、私を追い込んでるのは運命とか馬鹿夫じゃなくて、市と馬鹿クレオなの?


 いやいや、もしそうだとしたら自作自演の破滅フラグとか笑えないんですけどマジで。馬鹿クレオは前世の死に方に懲りてないのか?


「あー、何か焦げ臭くない? 絶対に火を使ってるわよ、コレ。雨将軍とか言われてる癖に火攻めとかジンクス舐めんなよ、お兄様」

「そ、そんな馬鹿な!! 於市を逃がすまでは火攻めはしないと秀吉殿が請け負ってくれていた筈だ!」


 馬鹿長政がアホ面さげて、馬鹿な事を吠えているのを見えると百年の恋も冷めるよね?

 馬鹿クレオもそう思わないかしら。


「あのさ、落城寸前の城主との約束なんて守る義理あるのかしら? そもそもお猿さんがお兄様の一言に逆らえるとか、そんな事を考えている時点で馬鹿確定ですよね、マジで。しかも、君裏切者って自覚ある? 都かぶれ?だっけ、あの朝倉の老害。アレと組んだんでしょ? そんな人間をお兄様が許すとか思うの?」

「だ、だがしかし、於市を娶っているではないか?」

「ないわー、そういうのないわー。嫁とか100%相手のスパ――間諜じゃん。そんなのを人として、いや親族としての計算に入れてるとか無能もいいとこよ? お分かり? お前様」


 最後の方で市が私の台詞をかっさらって言ってるのは超納得いかないんですけど。全部言わせてくれない?無茶苦茶ストレス溜まるよ、私。あとさ、子供はアンタの子じゃないしとかぶちまけようとすると言葉が出ないとか、妙な所で割り込んでくんじゃないわよ、馬鹿クレオ!!


「でもね。お前様の心優しい最期の気遣いは嬉しいわ」

「お、於市……」


 わぁ、マジか、市、マジか?

 そこで主導権分捕っていくの?

酷くない?

酷いでしょ?

 つーか、馬鹿夫はどうして感動した感じになってんの?

 私、めっちゃ酷い事言ったよね?マジギレして破滅とかどうでもいい感じになってぶちまけたよね?そういうのちゃんと聞いてた?右から左だったわけ?かなりムカつくんですけど?


「長政君の愛は忘れないわ。それを胸に抱いて生きていきたいの。だから、お別れは悲しいけれど、長政君の力で成し得たお猿さんとの繋がりで出ていくわ。ほら、お前達、お父さんにお別れを言いなさい」


 馬鹿クレオ200%じゃん。話の流れ的におかしいよね。私が言えた義理じゃないけど、めっちゃおかしいよね。それで何で涙流して娘を抱きしめてる訳?


 いやいや、息子も感動して抱き合ってるけど、息子ほぼ死刑確定じゃん?とか、一緒に死なせてやれよ、武士として、次期当主として死ねるだけ誇りが守れるよね?降ったら、捕虜扱いで獄死的な感じじゃない?

名誉も何もあったもんじゃないよね?

いいのそれで?


 そんな私の混乱を助長するように駆け込んでくる一団。明らかに違和感。浅井家の鎧をつけてるけど、めっちゃ綺麗で新品同然。どう考えても敵じゃね?


「長政様! 最早、これが最後でございます。於市様を我らに託してくださいませ! ご子息、ご息女のことも決して悪い様にしないと我が殿も申しております!!」


 あー、タイミング良すぎだね。お猿さんの部隊確定だね。絶対、少し前からやり取り見てた感じだよね。お猿さんかその軍師さんに言い含められてるの?

 まあ、馬鹿夫だと効果覿面だろうけどさ。


「くぅ……かたじけない。自ら時間を稼ぐ故、於市達を頼む!!」


 ほら、なんか勘違いで感動しちゃってるし。

 ぶっちゃけ、腹かっ捌いて部下に介錯して果てれば。その首探すまでの時間稼ぎの方がいいのに、自分から雑兵に討たれに行くとか言い出しちゃたよ。まあ、市と馬鹿クレオに主導権握られた状態じゃ眺めてるしかない。


「お前様、ご武運を。愛しておりました」

「俺もだ、於市!」


 うわぁー。

 これって、長政が馬鹿夫って言うよりさ、市と馬鹿クレオに魅了とか洗脳とか、そういうチート系の能力が備わってるって言われても信じちゃうよ、私。ホント、毎回毎回、最後には窮地を脱しているんだけど、何かさ、おかしくないって思う訳。破滅フラグを回避しているようで、その実、ゆったりとした底なし沼感満載な空気が嫌。


でも、眺めるだけの私は、お猿さん部隊に連れられて小谷城から無事脱出することに成功したのだった。だが、今回は眠たくならないぞ! 次こそは回避してみせる!!


てかさ、馬鹿夫結構老けてたのに、私って若いままだったのはどうしてさ?

マジで気になるんですけど?

若奥様どころか、子供と並んで年の離れた姉弟、姉妹に見えるとかありえなくないですかね。場所場所なら魔女裁判どころか、速攻、火焙り拷問ってレベルなんですが?



「絶世の美女に年齢は関係ないのよ、うふふふ」

「傾国の美女ですもの、フフッ」



 え?

 こいつら、私からは向こうの感情読み取れないのに、向こうはやりたい放題!

 ありえないって!!

 転生者より、現地人が強いとか卑怯だぞ!!

 運営出てこい! 神様でも可!

 やり直しを要求するぅぅぅぅぅぅぅぅ!!



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