第2話 お兄様、何を言っていますの?
「市、おみゃぁの嫁ぎ先が決まったぞ」
私は日本生まれ日本育ちの腐女子ではないけどオタク系の昭和女子だと自覚しているけど、名前とか家族の記憶が一切合切思い出せない。なのに、前世がクレオパトラ7世だと覚えているし、納得できない最後を迎えちゃったのもハッキリバッチリ覚えている。
そんな私が目が覚めたら貧乏くさい布団で寝ていて、混乱して気を失って気が付いたらすっごい強面の若者の前に連れて来られたのだ。例えるなら、ドラマ北斗の帝王に出てくる借金取りみたいな人である。めっちゃ怖い。
そんな状態ではあるが、寝起きに頭をどこかにぶつけたせいか、それともそういう仕様なのか、目の前の若者が織田信長であり、私がその妹の市だという記憶が呼び起こされる。それだけなら良かった。いや、別によくはないのだけれど、それ以上に厄介なのが市である人格と言うか魂の感情も沸々と湧き上がって来て抑えきれないのだ。
「はぁ? お兄様、もう一度言って頂けません?」
わー、何言ってるのよ、コイツって、私だ、おい。
どう考えても逆らっちゃ駄目な感じでしょ、コレ。
「ふむ。おみゃぁの婿が浅井に決まったと言った」
なんで、ほとんど普通に話すのにみゃぁみゃぁ言ってるのお兄ちゃん?
すっごいギャップなんですけどー?
「それは、しょぼくれたお爺様に嫁げということですか?」
「おみゃぁは、分かっていて言ってるだろ? その息子の長政のだぎゃ」
だぎゃって、プクククク、お兄ちゃん、キャラ付け酷くない?みゃぁだけで勘弁して下さい。そして、私、目が怒ってるお兄ちゃんに逆らうなって記憶が訴えるぅ、なんで私なのに口が止まらないの? 転生不具合じゃないですかね? ね?
「まあ、あの顔でしたらギリギリ合格を差し上げ――」
まてぇぇぇぇ!!
それは破滅フラグですよね!!
回避ぃ! 回避ぃーーー!!
「――ても構いませんが、家がショボくないですか、お兄様? 私としては甲斐の虎さんとか、そういう大きな家が良いかなって思わなくも無いかもしれないと愚考してみたり?」
おっけーーーーーーーー!!
割り込み成功!!
って、前半部分、クレオパトラ7世って長いわ、クレオが話してなかった?
だって、不細工とかそういうの受け付けませんし?
市の記憶と貴女の漫画知識からすれば浅井の坊やは可愛いじゃないですかぁ。
五月蠅い黙れ!
浅井は裏切るの!これ確定。
そんなとこに嫁いでも良い生活どころか、出戻り不良債権化じゃん。まあ、この時代なら使いまわしされるかもですけど?
私の中でわいわいがやがやと揉めていると私の意見に少し思案顔だった信長お兄ちゃんがこっちを睨んできた。いや、睨んでないんでしょうけど、目つき怖いし、キツイよぉ。
「おみゃぁは、どうして武田の選ぶ? 織田との関係が良くないのを知ってるであろう? 確かに、武田家と繋がりを持てれば非常に助かるが向こうはそうは思ってはくれぬぞ?」
「いやいや、お兄様、ぶっちゃけ東の狸よりも信用出来ますし、虎さんも話せば分かってくれると思いますよ? ほら、龍さんとめっちゃ揉めてるし? 三国同盟も形骸化してて東の備えがガタガタですよね? そこにお兄様が西は任せてって言えばなんとかなるかな?」
「おみゃぁが頭を強く打ったと聞いた時は使いものにならんと思って浅井にと考えたが……前より聡くなったか? 話し方は阿呆だが」
あ、阿呆って、それはなくない?
いや、そりゃ、生きてた時代が違うし私の中ぐちゃぐちゃだし、仕方がないよね?
「いやぁー、義信くんって結構な色男って噂に聞きますし? 名門で顔が良くて出来も良いとなれば御側にと思ってもよくないですか? お兄様」
馬鹿クレオ!!
余計なことぶっこんでくるなー!!
「まあ、分からんでもない。女は嫁いだ先に未来を委ねねばならん。であれば、少しでも良い所をと願うことが普通だ。それが織田の為になるのであれば尚の事。しかし――」
「しかし? なんですの?」
素の市が主導権持って行っちゃった。馬鹿クレオがごちゃごちゃするから安定しないのよね。まあ、市が一番この時代に精通してるし無難なのは無難なんだけど、どうにも入ってくる感情がおかしいと言うか、変なのよね。まあ、一蓮托生の身というか、魂としては、今更、どうしようもないんだけどさ。なんか、ひっかかるのよね。
「おみゃぁがその聡さを生かしきるのであれば、織田家内を盤石にする為に使うのも面白いかと思うてな。権六を抱き込むのに使うも良し、猿にやって実力を示せば身分など関係ないとのいい餌になるとな」
「「嫌です!!」」
市と馬鹿クレオがシンクロしたんですけど、そこまでかぁ?
正直、歴史的にみればさ、織田家盤石の方が私が生きやすんですけど?
権六って勝家で、猿って秀吉のことよね?
どっちも織田家の超有望株で繁栄確約されてんじゃん、玉の輿じゃん。
「「どうして、そのような不細工共に嫁がねばならぬのです!!」」
「い、いや、どうし――」
「「お兄様は、私が可愛くないのですか!? 大事ではないのですか!?」」
「い、いや、その――まあ、そうだな。大事ではある」
おいおい、強面のお兄ちゃんがめっちゃ引いてるよ。つか、私も怖いわ。なんで、顔なんて二の次でよくないですか?
それよりも実力とか金とかそういう役に立つの持ってる方が良くない?
顔なんて、不細工でも、そのうち慣れるよね?
実際、強面のお兄ちゃんでもなれそうだしさ、イケメンでも破滅フラグ持ってたら巻き込まれた私ら死んじゃうよ?
美人は助かるのです!
私のような才媛が見殺しにされる筈がないでしょう?
馬鹿クレオと市って同系統なの?
私、めっちゃ心配なんですけど。
「そういうことですので、お兄様、婚儀については再考して頂きます。宜しいですね?」
「あ、あぁ、検討しよう」
「では、今日は体調もよろしくありませんので失礼いたします」
市がそう告げると信長お兄ちゃんは押し切られてしまう。こんなのでいいのかな。信長ってもっと独裁的と言うかそういう感じなイメージだったけど、これだと妹に弱い強面のお兄ちゃんだよね。まあ、私が存在している時点で、まっとうな過去の世界である保証がかなり薄いっていうのもあるかもしれないね。それでも、市の常識からするとかなり近似した状況だと思うし、参考程度にはなると思うのよね。
今度こそっていうか、市には最初かもだけど、馬鹿みたいな死に方したくないので、私は絶対に破滅フラグを回避してみせる。
そうねー。良い男と添い遂げたいわねー。前は貴女に邪魔された?感じな最後だったけど、まあ、今度も面白い姉弟じゃなくて兄妹関係だし、経験を生かして協力も吝かではないわよ。
うっさい、馬鹿クレオ!
前回は、私が目覚めた時点で詰んでたでしょうが!!
記憶覗く限り、血が濃くなりすぎて思考回路もおかしかったアンタに私のせいだとか言われたくないですぅ!!
そうね。頭の中の靄が掛かった状態が無くなったのは貴女のお蔭だとすれば、転生だったかしら?こういうのも悪くはないし、元々、私の生きた時代でも命は巡ると信じられていたし、黄泉の国から戻ることも想定してのミイラ化だったもの。
大昔のエジプトは酷い厨二病患者の社会だったのか?
あら、酷い言われようね?
貴女も同類でしょう?
くっ……、満足した生を得たいのは同じよ。協力しましょう。市の意識が一番強いから、私達が陰からサポートして、この世界を生き抜くのよ!
脳内会議ならぬ、魂内会議をしている間に、市は自分の寝所に戻って来たようだ。私達の割り込みも彼女にしてみれば自分の思考と言動が微妙に一致しない感じがするのでしょうね。布団をひいて横になるみたい。まあ、その内、色々と混じりあう様に一つになる日も来るから気にしないでねって感じだけど、声が届かないのよねぇ。私も寝よう。
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