第29話 遠足⑥
施設玄関から自然公園に連なるドアを開けて外に出ると数多くの遊具や広場にカエデは目を見開き、声を出して驚いた。
「すっごい。色々あるね。山の山頂付近だから狭いと思ってたけど広いのね」
カエデが驚くのも無理はないだろう。
登山時には傾斜のある三角の山だが今、見える光景はゆるやかな勾配の山なのだから。
トラバス山は実は三角柱を倒したような山で山頂からは尾根がゆるやかに続き向こうの山頂に繋がっています。
さらに山肌を段のように削っているので広くて平らな敷地があります。
「あれがアスレチックね」
丸太、縄、板など様々な物で構成された障害物があるエリアが坂をジグザグに上がるように伸びています。
「さあ、行こう!」
「待って。あそこは出口だから」
「なら入り口は……」
アスレチックは坂に沿ってくねくねと登るようにできています。
「下の方なの!?」
カエデはショックだといわんばなりに方を落とします。
「大丈夫だよ。そこに長い滑り台があるから、それを使えばいいのよ」
とセイラが言うと、
「本当! なら滑り台へいきましょう!」
私達は滑り台に向かいました。
「おお! 長い! それに広い!」
滑り台は黄色く十人くらいが横並びで滑れるくらい横に長く、そして縦にも長い。
「さあ滑ろ!」
私達は横一列になり、一緒に滑ります。
『ひゃーーー!』
するすると滑り落ちます。
風が髪をなびかせます。
◇ ◇ ◇
「すごかったわね。もう1度やってみたいわ。もしかしてアスレチックで上まで上がらないといけないの?」
「ううん。あっちに階段があるからそれで上に上がることもできるよ」
「もう1回滑る?」
とカエデは聞きますが内心はもう1回滑り台に挑戦したいらしいです。
私はセイラとネネカに視線を配ると二人は構わないと頷きました。
「じゃあもう1回滑ろうか」
「うん」
◇ ◇ ◇
滑り台にもう1度チャレンジして、私達はアスレチックの入口に向かいました。
「ねえ、あのでっかい木は何かしら?」
カエデが草原エリアの中心に聳える大木を指して尋ねてきました。
「あれはポカブの木」
ネネカが答えました。
「大きいわね」
確かポカブの木は他の木より十倍太く、七倍高い木です。ポカブの木周辺には他の木がないので分かりづらいですが間近でみるとものすごい迫力があります。
「カエデって木が好きなの?」
セイラが聞きます。
私もそれには気になりました。
「いや別に。ただ大きいなって」
とは言うもののどこか気になっているようです。
「あとで行ってみる?」
「ん~でも、遠そうだし。……別にいいかな?」
と言ってカエデはアスレチックの入口に向かいます。
◇ ◇ ◇
「よっ! ほっ! さっ!」
セイラは軽々しく飛び跳ねたり、壁を登ったりしてアスレチック内を進みます。
「セ、セイラって意外に運動能力高いわね」
カエデが懸命についてきながら答えます。
そうなのです。
普段は人見知りゆえに後ろに隠れがちで目立たないのですが実は運動能力は高いのです。
「皆、大丈夫?」
セイラは後ろを振り返っての私達に聞きます。
「なんとかね」
「ん。次のエリアはあそこね! 皆、いくよ!」
『おー!』
◇ ◇ ◇
「ゆ、揺れるぅ~」
今、私達はアスレチックの木の枠できたエリアと次のエリアとの間にある太い縄でできた網の上を私達は進んでいるところです。すでにセイラとカエデは進み終えています。
アスレチックは坂の上にあり、かつ木の枠できたエリアは地面から少し高いところにあるので、縄の網は地面についていません。ですので踏むとぐらんぐらんに揺れます。さらに他の人が動いたりすると縄に振動がきてバランスが取りにくいです。一応、手すりはあるのですがそれでも進みづらいです。
「ちょっと待って」
私は手すりを両腕で抱えるようにして、縄でできた網の上を歩きます。
ゆっくり慎重に。踏み外すと網の隙間に足が入っちゃいます。
そしてやっと次の木の枠に辿り着きました。
「ふう」
私に続いてネネカも到着しました。
「二人とも大丈夫?」
セイラが私とネネカに聞きます。
「だ、大丈夫よ、一応」
「同じ……く」
「じゃあ次いってみよう」
「おー!」
『お、おう』
セイラとカエデは元気一杯ですが、私とネネカは体力の半分ほど消耗しています。
◇ ◇ ◇
「つ、疲れた」
ゴールに辿り着いた私とネネカは地面にお尻をつきました。
「駄目だよ。そんなところに座ったら。他の人の迷惑になるでしょ」
セイラが私の腕を引っ張って立たせます。
そして私は少し離れたところまで移動させられました。ネネカはというとカエデに引っ張られて私の隣に。
「少し休もっか」
とセイラが言って地面に座ります。
「うん。私もちょっと休みたいかも」
カエデが襟元をぱたぱたと動かせて服の中に空気を入れている。
「カエデ、大丈夫?」
私は少し心配して聞く。
「うん。ちょっと疲れたくらいだよ」
と言うものの顔はほんのり赤い。カエデはマナを過剰に放出するので体を動かすには注意が必要である。
「ま、いざとなったらミウのお母さんやお医者さんがいるしね」
「もう駄目だよそういうの。それに帰りはどうするの?」
昼食を食べてから1時間後に自然公園を出発する予定である。ゆえに帰宅までの体力を残しておかないといけません。
「その時はヴィレッタにおぶってもろおうかしら」
「帰ってたらどうするの?」
「大丈夫。帰りは同行するって言ってたから」
「帰りと言えば……」
とセイラが言葉を投げ、割ってはいる。
「チノはどうして先に帰ったのかしら」
その言葉に私達は何も返せなかった。
しばらくしてネネカが、
「居づらいからじゃない?」
「……居づらい」
セイラは宙を見て反芻しました。
「リンも帰ったんだよね?」
私はカエデに聞きました。
リンとカエデは同室だったので。
「うん。チノとご家族と一緒にね」
そのご家族とはチノの家族という意味か、それともリンの本当の親という意味なのでしょうか。
「ねえリンってどいういう子? 人間? あっ違うその子は妖精なんだっけ」
セイラは首を傾げながら聞く。
「私達と同じだよ。風変わりなとこはないよ」
「そっか。チノだって人間だって言われなきゃあ分からなかっただろうし」
「……セイラ」
「あっ、ごめん。そういうつもりでは」
私は一息吐いてから、
「考えても分かんないよ。さ、次に行こっか」
自分のお尻を
◇ ◇ ◇
昼になり私達は食堂でお昼ご飯を食べています。
「この後、一時間あるけどどうするの?」
カエデが尋ねます。
「正確には昼食時間後一時間だけどね」
「早く食べたら時間が増えるってこと!?」
「そうだよ。ほら周りの男の子達見てごらん。味わずに早食いしてるでしょ」
「そういえばそうだわ」
「じゃあ私達も……」
「いやいや、その必要ないから。十分だから」
昼食時間はまだまだ余裕がある。
このペースだと20分くらい自由時間が増えるはず。
「じゃあさ、もう一回アスレチック行っちゃう?」
「カエデ、帰りの体力考えなよ」
「大丈夫。もしもはヴィレッタがいるから」
「お嬢様」
「ひゃう!」
急に冷たい声をかけられてカエデは背筋を伸ばして驚いた。
後ろにはいつもより2割増しの冷たい表情のヴィレッタさんが。
「あはははは」
カエデがぎこちなく振り返り、ヴィレッタさんに作り笑みを浮かべる。
「お嬢様、あまり羽目を外してはいけませんよ」
「うん。気をつける」
「それとこれを皆様に」
ヴィレッタさんはチケットを私達に配ります。
「これは?」
カエデがチケットを見ながら聞きます。
「アスレチック挑戦券です」
「今までこういうのはなかったのに?」
「なんでも遊び疲れて帰れなくならないようにとクレア先生が配慮してお作りになられたそうです」
「そうなんだ。でもなんでヴィレッタが?」
「クレア先生はこのチケットのことを忘れていたらしく、急いで遊びに向かわれた生徒にチケットを渡しに行かれました。で、私がお嬢様達にチケットをということです」
「なるぼとねえ。でも一回だけか〜」
カエデが不満の声を出します。
「でも、ちょうど良いんじゃない?」
と私が言うと、
「それだと残り時間どうする?」
「ここでトランプでもする?」
とセイラが。続いてネネカが、
「日向ぼっこ」
「んん〜」
カエデは腕を組み悩みます。
「そうだポカブの大木見に行く?」
私はカエデがポカブの大木を気にしていたのを思い出して聞きます。
「遠いしね〜。それにそんなに気になってるわけでもないし」
「なら私の分のチケット使う?」
と私が言うとヴィレッタさんが、
「駄目です。これは譲渡不可ですので。お嬢様も受け取ろうとしないで下さい」
カエデが手を引っ込めます。
「ねえ、それよりも早くお昼ご飯食べない? 時間が減っちゃうよ」
セイラが時間のことを思い出して言います。
「そうだね。後のことは後で考えよ」
私達は少し急いでお昼ご飯を済ませようと口と喉を動かします。
結局この後、アスレチックの
日向ぼっこのエリアは草原で、シートを広げて私達は寝転がっています。
私達以外にもたくさんの子が日向ぼっこしています。主に男の子が多いです。どうやら遊び疲れてでしょう。やんちゃな子はシートも敷かずに寝転がっています。
「ごめんね〜みんな〜」
カエデが大の字に寝転がりながら謝罪の言葉をかけます。
「気にしないで。私も結構疲れたし」
「同じく」
私とネネカも疲れていました。
疲れていないのはセイラだけです。
◇ ◇ ◇
「皆さーん、並びましたか?」
先頭のクレア先生が声を上げて確認します。
『はーい』
出発前と同じ列で私達は自然公園を出ます。
ただ違うのは私の前列にいたチノがいないということ。
「それじゃあ出発しまーす」
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