第12話 図書館

 今日は村の図書館に着ています。


 私は鞄から本を取り出し、そしてそれ受付で返却します。

 返却後、私は絵本棚へ向かいます。


 絵本棚なんて幼稚っぽいけど私は嫌いではありません。私は背表紙を眺めながら歩きます。

 勿論、人にぶつからないように気を付けます。


「何かお探し?」


 声を掛けてきたのはクレア先生でした。


「あ、先生。おはようございます」

「はい、おはよう。それでどの本を探しいるの?」

「いえ、ただ見ているのだけです」


「そう」とクレア先生は言って本棚にある本の背表紙を見ます。どこかほっとしたような顔をしてから「じゃあね」と言い去っていきました。


 私は首を傾げてその背中を見送った後、再度本棚を物色しました。そしていくつか本を抜き取ってはぱらぱらと捲り、本棚に戻します。絵本の本棚全部をざっと見た後、隣の本棚へと移ります。


 絵本の本棚の隣は児童書で私くらいの年代が読む本です。その内の一冊を私はふと抜き取ります。その本は人間が書いた児童書です。


 本の中にはいくつか人間界の本を翻訳したものがいくつかあります。

 その見分けは背表紙の頭に人間界のものだという印がついているのです。その印は国旗というものです。人間界ではたくさんの国があり、それによって分けられているそうです。だから国旗もたくさんあります。


 そして言語もたくさんあるので翻訳も一苦労しているとか。

 私が手にした本は日本という国のファンタジー小説です。表紙が可愛らしい少女で気になりました。


 近くの椅子に座り、まずぱらぱらと捲ります。綺麗か汚いかを見極めるためです。以前借りた本に汚れがあったため、それ以降はまず綺麗かどうかを確かめることにしているのです。


 この本は汚れが少ないらしく安心しました。

 そして私は1ページ目から本を読み始めます。10ページ読んで私は本を閉じます。面白くなかったわけではありせん。逆に面白かったのです。私は図書館で本を読むのは苦手で家で読みたいタイプなのです。

 私はその本を手にして、また本棚を物色します。


  ◇ ◇ ◇


 児童書の棚を全て見た後、私はカウンターに向かおうとしましたが、ふと自分が手にしている本が日本の本であることから、つい人間界の本棚に向かいました。


 そこで私は二人の人物に出くわしたのです。その組み合わせは意外で、私は驚きました。


「ティナにネネカじゃない」

「あらミウさん。ごきげんよう」


 ティナがお嬢様言葉で挨拶します。


「こんにちはティナ。ネネカ、セイラは?」

「今日は一人」

「それでたまたまここでお会いしたのですわ」


 ネネカは親が人間界の研究をしているので分かるけど、ティナがここにいるのが不思議です。


「ティナはどうして?」

「町について調べにですわ」


 と言って棚に手を置きます。


「でもそれがどうしてこの棚に?」

「町には人間界の物がたくさんありますわ。ですのでそのお勉強として人間界のことを知らなくてはですわ」

「なるほど」

「ミウさんはどうしてこちらに?」

「私は本を借りに。で、この本が人間界の翻訳作品だからここに」


 私は本の表紙を二人に見せます。

「人間界の児童書ですわね」

「日本のだね」

「うん。それでちょっと気になってここに」

「日本のでしたらこちらですわ」


 とティナは日本の文化を纏めたスペースを紹介する。


「へえ~。……ん?」


 本棚で私はカラフルな本を見つけた。それでその本を抜き取ってみました。


「これ? 写真? すごい本」


 その本は大きいけど薄く、そして何よりも表紙も裏表紙も写真でした。


「本というか雑誌」

「雑誌。……すごい。中も写真でカラフル」


 ページを捲ってみると写真の連続です。主に人間界の建物や食べ物が載っています。文字は人間界の言葉らしく何が書かれているのか分かりません。


「あら、どうやら人間界の建物や食べ物について書かれているのでしょうか?」


 ティナが不思議そうに雑誌を見ます。


「違う。これは観光ガイド本というやつ」

「ネネカそれって何?」

「外の人に観光地やお土産、名物の食事処を紹介している本」

「でもこれでは読めないね」

「できれば翻訳して下さればいいのですが」


 それには私も賛成だ。


「たぶんこれは人間界の物をそのまま置いているんだと思う」

「それ大丈夫なの?」


 人間界の本は翻訳の前に検閲に通されます。さらに原本はきちんとした所に保管されるのが普通です。ですので村のいち図書館に置かれているのは普通ではないのです。


「よくない」


 ネネカは首を振ります。


「どうする? 司書さんに言う?」

「ですわね。でもその前に……」


 ティナはひそひそ話するように顔を近付けます。


「少しだけ読みましょう」

「まあ、ちょっとくらいなら大丈夫だと思うけど」


 私も気にはなったので乗っかります。


 私達は机や椅子のあるエリアでは司書さんにバレるので立ち読みをすることにします。

 私が雑誌を持ち、ティナがページを捲ります。


「それにしてもでかい建物ですわね。やはり人間は住むところもすごいですわ」


 今、見ているページには細長く高い建物が写っています。


「ティナそれ違う。これは観光地。人が住んでる訳ではない」

「でも中には人間は高い建物に住んだりするって聞きますけど」

「うん。タワーマンションという」

「ネネカさんは物知りですわね」

「そんなことはない。実は前にこれと似たような翻訳された雑誌を見たことがあるだけ」


 ティナが次のページを捲るとお菓子が載っていた。

「これは変わったお菓子ね」


 小さい丸い球型の焼き菓子が写っています。


「ミウ違う。これはお菓子ではない」

「え? 違うの?」

「私もお菓子だと思いましてよ」


 ティナも私と同じ様にお菓子と考えていたらしい。


「これはたこ焼き」

「夕飯に出るのですか?」

「発祥地ではそうだけど。これは間食のもの。お菓子代わりに食べるパンみたいなもの」

「へえ、おいしそうね。作り方は書いてないのかな?」

「ここには書いていないけど。確か人間界の料理本に書いてあるはず」

「どこかしら?」


 ティナが料理本を探そうと棚に目を向けます。

 その時、


「あら何かお探し?」


 司書さんが声をかけてきたのだ。


「机で本を読んでは。たださっきみたいにおしゃべりは駄目よ」


 どうやら私達が本棚で立ち読みしながら喋っているので咎めに来たのでしょう。


「……あ、えっと」


 私達が止まってしまったので司書さんは首を傾げ、そして私の手元にある雑誌に視線を向けました。


「あら!? あなたその本は?」


 司書さんは目を見開き驚きます。


  ◇ ◇ ◇


 私達は司書室に通され、今ソファーに座らされています。しばらくして、ティナの父で村長が司書室に入ってきた。


「お父様!」

「村長どうぞお掛けになって下さい」


 村長がソファーに座り、司書さんが、


「それでこの本をどこで?」


 とテーブルの上に私達が読んでいた雑誌を置きます。そしてソファーに座りました。


「棚にあって」


 私が答えました。


「そうですか」


 と司書さんは村長に目を配らせます。


「ティナ本当かい?」

「はい」

「ふむ。人間界の原本がここにあるとは」


 村長は目を瞑り、額に手を当てた。


「村長、町の研究所に送りましょうか?」

「ああ。その方が良いでしょう」


 そして村長は私達へと視線を向ける。


「それでティナ、この本を読んだのか?」

「はい。珍しかったので。あ、でも書かれていることは分かりませんでしたわ」


 私達もそうだと頷きます。

 村長は額を叩き、


「お前は人間界に興味があるのか?」

「? いえ、私が興味があるのは町のことですわ」


 次に村長は私の方に視線を向けます。


「ええとネネカちゃんにミウちゃんだっけ。君達は?」

「父が人間界の仕事をしているから多少は」


 とネネカが言います。続いて私は、


「……少しは」


 と答えますが司書さんが、


「この本は?」


 と私が持っていた日本人が書いたファンタジー小説をテーブルに置きます。


「面白そうだったので借りようと思って」

「興味があったと?」

「ま、まあ」


  ◇ ◇ ◇


 私は家に帰ってすぐ、今日あったことを母に話しました。どうせ後で母の耳に入ると思ったので先に言っておきました。


「そうなんだ」


 と言った後で母は溜め息を吐きました。


「やっぱ原本を読んだのは問題? でも書かれていることは分からなかったよ。読んだというより見たって感じ」

「問題というかタイミングなのよね」

「タイミング?」

「昨日チノちゃんの件があったでしょ。ほら、歓迎会の。その後に原本を見たとなるとね。しかもあんた、日本人が書いたファンタジー小説を借りたのでしょ? タイミングがね」


 母はやれやれという風に小さく頭を振る。


「そんなに問題?」

「ん~、このタイミングだとあんた達が人間界に興味を持ったって考えられるわ」

「……そっか」

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