第11話 歓迎会③
歓迎会では人が少ないということもあり、子供達による歌や大人の一芸が少しあるのみで、それが終わるとただの食事会となります。
主賓席に座っていたカエデは子供達のテーブルへと移動され、私達と食事を取っています。
「ねえ、さっきの歌って事前に練習してたの?」
とカエデが聞きます。
さっきのとはたぶん私とセイラ、ネネカの歌のことでしょう。
「違うよ。前の発表会のだよ」
「そこは私のために内緒で練習してたって言うべきよ」
「はいはい」
私は箸で甘ダレのかかった肉団子を食べます。
「急だったもん。仕方ないよ」
とセイラが言います。
「え?」
「3日くらい前だよ歓迎会するって聞いたの」
「普通、だいぶ前から準備しない?」
「カエデが急に引っ越してきたからじゃないの?」
「引っ越してきたのは3週間くらい前よ」
『え?』
これには私達は驚きました。
初めての会ったのがちょうど1週間前です。
だから引っ越してきたのは多く見積もっても10日くらいと考えていました。それが倍の3週間前。
そういえば事前に引っ越しの話も聞いてませんでした。
「そんな前からか。じゃあ引っ越してきてから何してたの?」
「寝込んでたわ」
「え?」
「私、体弱いからさ。ミウ達と会った日まで寝込んでたの」
「お前、本当に体弱かったのか」
チノが口の中のものを撒き散らしながら言います。
「ちょっ! 汚い! 食べてからいいなさいよ」
「悪い」
「引っ越しだけで体力使ったとか?」
「ううん。ここに来る前から体調は少し悪かったの。で、ここに引っ越しして急にね」
「でも私達に会うまでってことは2週間近く寝込んでたってこと!?」
「実際は1週間くらいがきつかったけど、それ以降は念のためにって寝かされてたのよ。まいっちゃうわ」
とカエデはおおげさよねという風に言うけど、1週間も寝込むって大変な事態だったのでは?
「なんか病気か?」
チノがテーブルを拭きながら聞く。
「病気というか、えっと、お医者さんいわく、私はマナの消費が激しいんだって。ここに来たのもマナの量が多いからよ」
「へえ、そうなんだ」
「『そうなんだ』じゃないんだからね。大変なんだから」
「それよりお前がいたなんとかの町ってどうなんだ?」
とチノは話を変えます。
それよりというのが引っ
「家や建物がたくさんあって道路は舗装されているわ」
「そうじゃないですわ。聞きたいのは町に何があるかです!」
お嬢様だけあってティナは町に興味津々らしい。
「町にあるもの?」
「森や村に無くて町にあるもの!」
「そうねえ、商店街とか公園とか劇場かな?」
「劇場!」
劇場という単語にティナが目をキラキラさせます。
「劇場って何?」
セイラが尋ねます。
「演劇やコンサートをするところですわ」
「演劇……ああ、さっき皆がやってたやつか」
「違いますわ。そんなものではありません」
チノの発言にティナはすぐに訂正を入れる。
まったく、そんなので悪かったわね。
「劇場はでっかくて、本格的で大音量でプロフェッショナルなのですわ」
ティナは両手を広げて説明します。
「全然わかんねえ」
私もその説明だと全然分かりません。
「村で体育館あったでしょ。それより大きくて千人近く収容できるの。劇が始まると暗くなるの。コンサートの時は色んな楽器が使われてものすごい大音量なの」
とカエデが分かりやすく説明します。
「体育館より大きいのか! すげえな」
「引っ掛かるのそこ!?」
つい私は声に出して突っ込んでしまいました。
「公園は広いのか?」
「全体的にはトーリの丘だけど。町の公園は色んな遊具やアスレチック施設もあるわ」
「すげえ! 今度案内してくれよ」
「オルトロンはここから遠いから……」
「ん? 遠い? 村を出てちょっと歩くくらいだろ」
「そこはマルセイの町でオルトロンではないよ」
「えっ!? そうなのか? てっきりあの町かと思った」
まあ、私も初めての会ったときはマルセイの町と思っていました。その後、青空教室でオルトロン町から引っ越ししてきたと聞いて驚きました。
母からオルトロンの町について聞くと2つ向こうの町で城下町だと聞いてさらに驚きました。
「それ以外にオルトロンでは何がありますの?」
ティナが続きを催促します。
「車やトラックが走ってるわ」
「あれって環境に悪いから禁止になったのじゃないの?」
「電気車よ」
「電気って何だ?」
「……ええと……ビリビリするやつ」
「電流」
そこで聞き役だったネネカが答えました。
「荷電粒子の移動」
『…………』
説明してくれてはいるのでしょうが、さっぱり分かりません。
「静電気や雷を想像して。あれのこと」
「ああ! あれね。黄色く光るやつね」
「それ。オルトロンではそれを使って生活している」
ネネカが首肯します。
「雷で生活ってどういうことだ? どんな生活だ?」
チノはカエデに聞きます。
「雷ではなくて電気よ。さっき言った車の他に灯りとか、冷蔵庫、炊飯器、ポッド、掃除機、ドライヤーとかに電化製品ていうんだけど、それに電気を使うの」
「? デンカ……なんだそりゃあ?」
「……まあ、そういうのがあるのよ」
カエデは電気について説明するのを諦めた。
「やはり電気があるということは映画館もあるのですか?」
ティナが興奮して聞く。
それにはカエデは首を振って否定する。
「映画はあるけど映画館はないの。観るには所定の手順が必要なの。これは一般人のみならず学者たちもなの。でもまあ、年に一回ほど劇場で一般上映されているわ。非常に人気だからなかなか見れないわよ」
「どうして映画館はないのですか?」
「映画作品は人間が作ったものだからね。あまり人間社会のことを教えることはできないからよ」
「確か妖精が人間社会に憧れを抱かないためだよね」
と私はカエデに続けて言います。カエデは頷いて、
「うん。だから文明品は多少は問題ないけど文化系は駄目なのよ」
「なんでだ? 人間のいる世界に行っては駄目なのか? 面白そうじゃん」
運悪くちょうどこの時に、他の子供達や大人達の会話を止んでいたのでチノの言葉がこの場にいる全員の耳に入ったのです。
「チノ! なんてことを言うの!」
怒声を上げたのはチノの母でした。
チノの母は目を尖らせて怒っています。そして私達のテーブルに近付いて、
「まったく人間界に行きたいなんて。駄目でしょ!」
「えっ!? いや、そ、その……」
チノは怒られしゅんと小さくなります。私達も居心地が悪くなりました。
「あ、あの、私が前いた町のことを言って、それで、その……人間社会のことを話して……」
カエデが割って入り、チノを擁護します。
「まあまあ、小さい子は何だって興味津々ですから」
と長老もチノの母をなだめます。
「はあ……でもチノ! 不用意に変なこと言わないの。闇落ちしちゃうわよ!」
「……うん。分かった」
チノは少しべそをかいています。
そしてチノの母が静まり、歓迎会もとい食事は再開されました。
「……これ食べる? おいしいよ」
私はチノの好物であるハンバーグを差し出します。
チノは何も言わずハンバーグをフォークで突き、かぶりつきます。
そのハンバーグは大きくて一口では食べきれません。何度も何度もかぶりつき、
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